un-マッチ

「お汁粉、食べます?」
 なんだ、急に。正月の残りモンか? 断るのもわりぃしな。「おう」とだけ簡単に返しておく。それを聞いて、千芳はキッチンの奥に潜っちまった。(つまんねぇ)んな簡単に引き下がるモンかよ。ムシャクシャしながら続きに戻る。時間がかかると思ったお汁粉が、一〇分も立たず現れた。どうやら、インスタントだったらしい。(まっ、それもそうか)一から作るタイプだったら、とっくのとうに腐ってらぁ。よっこらせ、と体を起こす。食おうとしたら、スッと遠ざけられた。(んだよ)新手の嫌がらせか? 文句をいおうとしたら、千芳が肩を掴んでくる。(おい)急に距離を縮めんな。俺の膝に乗り、胸を触ってくるかと思いきや腹を触ってきた。
「おい」
 思わず声に出ちまう。俺がキレかけていることを見てか、千芳が申し訳なさそうに肩を落とした。「いや」といわれてもな、お前。
「最近、修行してなさそうなのに全然筋肉が落ちてなさそうだから。気になって」
「あのなぁ。こんにゃくを舐めてねぇか? こんにゃく作るだけで身体が鍛えられるのは、結構有名な話だぜ?」
「聞いたことがない」
 おいおい、マジかよ。こんにゃくで腕力と体幹が鍛えられるのは結構有名な話だぜ? これぞ育ちの違いってヤツか。シミジミとしてたら、千芳が俺の腹筋を撫でてくる。服越しに触ってくるもんだから、かなりこそばく感じるんだが。背中から尾てい骨にかけて、なんかゾクゾクと痒くなってくる。
「お前、いい加減にしろ」
「もう少し。嫌?」
「うっ」
 いや、じゃねぇけどよ。なんつーか、雰囲気ってモンを考えろ! お汁粉を入れたばっかりだろうが!! チラチラッと千芳の入れたお汁粉を見る。別に、今すぐ食いたいわけじゃねぇ。ただ、このまま放置するのは忍びないだけだ。腹、触られて擽ってぇってのもあるが。うん。
「なぁ」
 千芳の手が止まらねぇ。
「お汁粉、冷めねぇか?」
「あっ、そっか。食べなきゃね」
(おい)
 それで簡単に止めるのかよ。腹を撫でるのを止めた千芳に、腹が立った。


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