‐就寝中‐

 ある夜のこと。同衾していた日だった。互いに服を着ており、就寝をしていたときだった。猿投山が文月の腹を離す。腕を外すと、大の字に寝始めた。グッと脇と足を開き、就寝を続ける。文月は自由の身になった。寝返りも打てる。横向きに寝た重圧のかかった足を動かし、寝心地の良い場所を探した。ゴロンと寝返りを打つ。大の字に眠る猿投山と向き合った。クンと鼻を動かし、もぞもぞと寝る位置を変える。枕の代わりに猿投山の胸板に頭を置き、布団のシーツの代わりに猿投山の服を掴む。肩付近に手を置いた。流石に鍛えても、文月一人分の体重が気管付近にかかることは苦しいのらしい。猿投山の寝顔に苦悶が微かに浮かぶ。呻き声も出し始めた。それを耳障りと感じたのか、文月がもぞもぞと、また寝る場所を変える。猿投山の胸から降りた。代わりに肩付近の腕に頭を乗せる。ホッと、猿投山の息が元に戻った。寝顔に安堵も見える。文月の手がシーツを握り、猿投山の胸付近の衣服を握り締める。これで異変を感じたのか、ゴロンと猿投山が寝返りを打った。ギュッと真正面から文月を抱きすくめる。抱き枕を扱うかのように、文月の足へ足を絡めた。文月もまた、猿投山の胸を抱き締める手に力を入れる。それを数秒、数分くらいして猿投山が離れた。パッと文月を解放する。ゴロンと文月が寝返りを打った。猿投山も寝返りを打ち、背中合わせになる。十数分、一時間、数時間経たないうちに、ゴロンとまた猿投山が寝返りを打った。文月はゴロゴロと寝返りを打ったり寝相を変えたりしているうちに、布団の端と中を行き来するようになった。スカッと猿投山の手が布団の中で空気を掴み、ポスンと落ちる。もぞもぞと膝を摺り寄せ、うつ伏せになった。
 よっこらせ、と瞼を開けず起き上がる。四つん這いのまま枕や布団を叩き、文月の場所を探す。今は無意識下でも寝ている状態だ。生命の危機が訪れない限り、猿投山の心眼通も奥義開眼も就寝中の状態にある。
 ポスン、と文月の膨らみに当たる。頭だ。それを頼りにして手繰り寄せ、寝相を変えた。
 枕の端に頭を乗せる。気にくわなくて、枕を自分の方へ引き寄せた。枕の中央へ、頭を置き直す。文月を後ろから抱え直すと、深い就寝へ戻った。
 熟睡する時間が続く。しばらくして、アラームが鳴った。もぞもぞと布団が蠢く。気付かれないアラームが羽休めを少しした。数分、十数分経ってからまた鳴り始める。この繰り返しに腹を立てたのか、もぞもぞと文月の腕が動いた。
 布団の中にいながら、アラームの出処を探す。バシッ、バシッと布を叩いて元凶の範囲を見ていると、硬い感触に当たった。これを手に持つ。手探りで凹凸部分を探すと、指の腹で押した。止まらない。少しズラす。これでも止まらない。もう少し右へズラす。窪んだ谷間から浮き出たボタンを押すことで、ようやくクソうるさいアラームが止んだ。
 音が鳴り止んだことを見て、文月はまた就寝に戻す。しかし、スヌーズを解除したわけではない。再度アラームが立ち上がった。二回、三回。数秒数十秒と続き、文月の手に止められる。この繰り返しで起きざるを得ないのか。ようやく文月が意識を戻した。
 ムクリと起き上がる。布団の中でうつ伏せになり、薄く開いた目で時間を確認した。
「うわっ」
(起きなきゃ)
 時間が差し迫っていることに気付き、隣で寝ている猿投山を起こした。


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