お月見にタレ(在学中)

 鈴虫の鳴く声が強い。今日は十五夜らしい。でも、月が綺麗なときは必ずくる。一月に一回、必ずそれぞれ名前がある。そう伝えると、先輩が上の空で返した。
「ふぅん」
 とくとくと御猪口に酒を注がれる。「未成年飲酒ですよ」と注意するけど「本能町のルールにはねぇよ」と返される。それもそうか。私有地ということで、学生の運転も許可されているし、必要があれば運転免許も取れる。清酒の水面に映った月を見る。揺れているからか、形がブレた。
「変なの」
「あ? なにがだよ」
「休憩するにしても、他の人を誘えばいいのに。四天王の面子で集まれば、楽しいものを」
「蟇郡は就寝、犬牟田はデータ収集。蛇崩は知らん」
「乃音先輩だけ、なんで」
「さぁな。やけに上機嫌だったぜ」
 そういって、グイッと飲み干す。なんか、思い当たるのはあるかも。もしかして、皐月様関連かな。(皐月様を誘ったのかも)断りそうだけど、乃音先輩の押しの強さを考えたら、ありそうだ。ほんの少しだけ、皐月様は気が休まるかもしれない。そう勝手なことを考えて、先輩の空にした御猪口を見る。また徳利から、お酒を注いだ。
「だったら、こっちだって勝手にやらせてもらうまでだ」
「ふーん」
「アイツらにも、振る舞ったあとだからな」
(なにをだろう)
 まぁ、野暮なものではないだろう。なにかしら、彼らの役に立つものかもしれない。先輩の資金の使い方を考えたら、その道はありそうだ。
「でも、十五夜ってなにをするんですかね。薄飾って、お月見?」
「他にも団子を食う。収穫祭や初穂祭でもあったようだな」
「ふぅん。だから、団子を」
「おう」
「これ、明らかに団子の粉で作ったものじゃないですよね?」
「玉こんにゃくも乙なモンだろ? ちゃんと灰汁抜きして茹でたから、このままでも食えるぜ」
 冷めてるけどよ。といって、先輩が爪楊枝で刺す。一角が崩れて、三角形の形がさらに歪になる。(お酒の盃に、こんにゃくねぇ)変なの、と思いつつ一粒頂いた。プツリと刺して、口に運ぶ。白玉粉で作ったお団子だったら、みたらしのタレやきな粉、餡子などの添え物がほしい。けれど中身はこんにゃくだ。こんにゃくだから、味噌などのこんにゃくに合ったタレがほしい。
 食べたものを飲み込む。
「なんか、ソースとかないんですか? 味気ないです」
「あ? こんにゃくはこんにゃくだろ。こんにゃく一品だけでも美味いぜ」
 そんなにいうなら、コイツがオススメだがな。といって、先輩が調味料を一瓶ずつ出してくる。いったい、どこから。極制服のコートのポケットとはいえ、あー。できたな、うん。よく考えたら、ポケットに手を突っ込んだ方に、この小型のサイズを入れることはできたのかもしれない。焼肉のタレを選ぶ。うん、タレが美味しい。プリプリッとしたこんにゃくの食感が、擬似的にお肉を思い出させる。
「美味ぇよな。それ。邪道ってもいわれてるけどよ」
「んー、そうですね」
 蒟蒻道の人には、邪道といわれているようだった。


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