ミモザのひ

 テーブルに黄色い花が置かれてあった。小さくて、綿毛のような花だ。節みたいに細い葉が左右に根元まで連なった枝を揺らせば、綿毛が落ちる。それが、花瓶に活けられて三輪。不思議だ。花を買った覚えなんてないのに。
(でも、なんで)
 こんなところにあるんだろう? 首を傾げれば、先輩がテーブルにやってきた。私を見て一言「起きたのか、千芳」と。名前を呼んで「はよ」といってきた。その挨拶に「おはよう」と返して、頬を触る手を受ける。親指で目やにを取られた。なんか、寝起きを見られて恥ずかしい。
(何回も見られてるのに)
 それでも恥ずかしいものは、恥ずかしいのだ。浮かぶ疑問に自分で返す。
「この花、なんですか? 買ってきたの?」
「おう。なんか、オススメに出てた、ってからよ」
「ふぅん」
 歯切れが悪い。恐らく、口に出しにくいことなんだろう。そう思いながら「そう」とだけ返した。そうしたら「おう」とだけ、ぶっきらぼうに返ってきた。なんだそれ。頬を包む先輩の手を支えながら、首を傾げる。
「だって。それ、どこで買ったのかなって」
「花屋」
「だとしたら」
 誘導尋問に引っ掛かってやんの。そう思いながら、言葉を続ける。
「その日に因んだオススメを、しているのかもしれませんね。今日、何の日だっけ」
 特別、なにもなかった気がする。けれども世界はそうではないのらしくて。私だけが忘れているのらしい。「先輩」と見下ろす先輩を見上げる。様子を覗けば、口をへの字に曲げていた。なのに、首と耳まで顔が真っ赤だ。
「う、るせぇ。キスで黙らすぞ」
「どうぞ」
 生意気で反抗的な先輩に飄々とそう返せば、噛み付くようなキスがきた。唇を覆ってから、チリッと内側に痛みを残す。「いたい」と零せば、薄く先輩の目が開いた。
(照れ隠し)
「いじわる」
 とだけ隠せば、先輩がまた目を閉じる。噛み付くようなキスもして、朝からお盛んなことを始めた。ズルズルとテーブルに腰を乗せられる。逃げ場を失くすと、先輩がジッと私を見つめてきた。
「なに?」
 引き返すなら、今なら受け付けるし。なんなら自由にして顔も洗いに行かせられる。そう二つの音で条件を示すと「いや」と、答えが返ってきた。先輩がゆっくりと近付く。その、なにかいいたそうな顔をして。それでいて『いや』とはないはずだろう。そう思いながらも、先輩の求める行為に付き合った。唇を重ねて合わせて、それだけ。先輩の少し起き上がったものが太腿に押し付けられたけど、離れる。先輩の足を見ていると、顎を持ち上げられる。それで視線を先輩の顔に戻され、またキスをされた。
 プッ、と。少し湿った唇から音がした。空気が漏れる。
「なんか、食うか。朝飯」
 とだけ中断を告げてきたので「うん」とだけ返しておいた。先輩がキッチンに行く。私はテーブルから離れて、洗面所に向かった。歯を磨いて、顔を洗う。
(なんか今日、あったかなぁ)
 そんなことを思いながら、肌の保湿を行った。パタパタとパッティングもする。先輩のキスも思い出しながら、ボーッと時間を潰した。(なんか、足りないかも)先輩の用事が良さそうだったら、今日はイチャイチャをすることに宛ててほしいかも。ふと、それのお誘いもしようかなとも思った。予定は未定である。
(眠い)
 ボーッと重い頭を抱えながら、最後の仕上げに取り掛かった。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -