元旦二日目の

「初詣までには、間に合ってよかったです」
「元旦から二日目だけどな。大丈夫か?」
 ズビッと小さく鼻を鳴らせば、先輩が顔を覗き込んでくる。それに頷いて答える。風邪もよくなって、歩ける程度にはなった。元旦初日から寝込んでたのが良かったのだろう。
「初日の出、見れなかったな」
「また来年、見りゃいいじゃねぇか」
「ガキ使とか、年を越す番組も」
「たまには違うモンを見るのも、いいと思うぜ」
 今回の年越しに感じた後悔を吐き出せば、先輩がフォローする。「先輩は」そういって顔を上げれば、先輩と顔が合った。キョトンとしてる。
「つまらなくなかったんですか? 病人と一緒にいて」
 そう尋ねれば「別に」と返ってきた。
「お前と一緒だからな。つまらなくもなんともないぞ。それより、寒くないのか。首元」
「今年は、暖冬ですから」
「そりゃそうか。でも、油断大敵だぞ」
 ほら、といって先輩が自分のマフラーを巻きつけてきた。グルグルと、首が温かくなる。逆に暖の取りすぎて、熱すぎるくらいだ。
「重装備ですよ」
「風邪は治りかけが大敵だからな」
「昨日の時点で治ってますよ」
「それでもだ」
 心配に越したことはねぇだろ、と。先輩は呟いた。それにどう返そうか? そう思ってたら、列が進む。三列が六列に分散して、境内の鈴が揺れた。シャリンシャリン、と左右に揺れてからパンパンと音が鳴る。さらに左右に分かれると、列が進む。先輩が少しだけ、こっちに寄った。
「移りますよ」
「さっき治ったっていったじゃねぇか」
「でも『治りかけ』が大変だって」
「別に移してもいいんだぞ」
「ダメじゃん」
 ついタメ口でダメ出しをしてしまう。けど先輩は「俺はそれで構わないぜ」という。なんだそれ。さっきまで、人のこと心配しておいて。
「風邪引いたら、大変じゃないですか」
「俺はお前と違って、体が頑丈だからな。風邪なんてへっちゃらさ」
「馬鹿は風邪を引かないって言葉、知ってます?」
「馬鹿にしてんのか?」
「馬鹿だと風邪を引いたことにも気付かないって意味ですよ」
 そういったら、列が進んだ。もう少しで私たちの番になりそうだ。
「とりあえず、おみくじのところにいます? 私、あっち」
「んじゃ、すぐ行ったところで待っててくれ。俺もすぐ行くからよ」
「は」
 い、と答えようとしたら頬を突かれる。
「うん」
 そう答えたら、先輩の指が離れた。突くのが終わる。前にいた人たちは左の方に流れ、私も前に進む。先輩の方は、まだお参りをしている人がいるのであとだ。なので私が先に終わることになる。
(えーっと)
 二回お礼をして、二回叩く。その前にお賽銭を入れて、鈴を鳴らした。とりあえず頭の中で考えたことを、お参りの中にいう。それから一礼をして離れようとしたら、先輩が隣でお参りをしていた。
(なにをお願いしてるんだろう)
 目を瞑って手を合わせたままだから、推し測ることはできない。
 先にいった通り、賽銭箱を離れておみくじに行く場所の端で、先輩を待った。通路の端に立つ。私のいたところにはもう人が流れて、新しい人がお参りをする。先輩は、パチッと目を開いた。キョロキョロと顔を動かして私を見たあと、賽銭箱に向かってお辞儀をした。それから、周りの人に一言いいながら、列を割ってこちらに近付く。
「わりぃ、待ったか?」
「いえ、今きたとこなので」
 といいきった途端、先輩が手を繋いできた。さも当たり前のように、自分のポケットに入れてきた。
「あの」
 先輩のポケットで握られる。
「どうして、するんです?」
「そりゃ、はぐれちまいそうだからだろ」
「けど、目と鼻の先ですし」
「すげぇ人並んでるじゃねぇか」
「それはそうですけど、おみくじ。引くとき、どうするんですか」
 そう言葉足らずなところを付け足すと、先輩はパチッと目を瞬きさせた。
「離す」
「そう、ですか」
「引いたの確認したら、また繋ごうな」
「うん」
 その誘いにうっかり、口調が砕けてしまった。慌てて口を押さえる。手で隠したら、ギュッと先輩のポケットの中で強く手を握られた。
「気にしてねぇのに」
 そのフォローに、ますます耳が赤くなってしまうのであった。


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