台風の日

 ゴウンゴウンと風が唸る。きっとシャッターに貼った張り紙は、風で吹き飛ばされているだろう。「すげぇ風だなぁ」と先輩がいう。ソファ代わりの先輩がいった。
「太平洋側ですね。上陸間近の台風ですし」
「津波警報とか出てねぇよな?」
「今は」
 スマホの待ち受け画面にも、避難警報はまだ入っていない。ピーピー煩いアラームも鳴らない。まだゆっくりできる時間があるということだ。作ったカフェモカを一口飲む。素人が作ったものだから、珈琲の苦味が強い。
「ホットチョコレートは」
 ダメだったのか? と先輩の言葉が途絶える。ズッと耳元で飲む音がした。
(確かに、そうだけど)
「無性に、飲みたくなったんです」
「そうか」
 徹夜する気だったのか? ともついでに聞かれる。「そうではないけど」と返しながら、甘さを探す。カフェモカは、チョコレートと珈琲とミルクで作る。けれどもほのかなチョコの甘みよりも珈琲の酸味が勝っては、立つ瀬がない。
「今度からは、ホットチョコレートにしてみる」
「おう」
 そうか、とも先輩からいわれるが「こんな台風の日は、二度と御免だぜ」ともいわれた。私も御免である。なにせ、防災グッズや食料や水を買い込むなどで、大変だったから。
「世界平和が一番ですね」
「あー、おう。そうだな」
 適当に、というか困ったように返した先輩が、ズッとまた一口を飲んだ。


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