鈴虫の鳴る読書の秋

 秋は読書の秋だ。けれどもなぜ、大量の漫画を買う羽目になったんだろう。疑問に思いつつも、読み進める。事の始まりは、そうだ。たまたま安売りされていたからだ。「秋の一気読みセール!」とかなんとかで。纏まった巻数を丸ごとだ。正気の沙汰じゃない。けれども気になる本と一緒に、なぜか買ってしまった。
(渦が、重いのを運んだからそれほど苦じゃなかったけど)
 でも、片付けるときはどうしよう。そう思いつつも、また一巻を読み終える。テーブルの上に置く。未読と既読、それと渦の読んでない分が積まれている。先に読んだはずなのに、渦の方が遅い。未読の一巻を手に取る。
(気になる。続きが)
 もしかしたら、最新刊の続きを匂わせて買わせる手段なのかもしれない。編集者の。そう思って読み返したら、もう読み終わってしまった。目でコマを追って、台詞を追う。パタンと閉じる。先輩の背中を見たら、まだ読んでるようだ。
(今、何巻かな)
 そう思っても、見えない。先輩の肩や背中が大きいおかげで、こちらから覗き込むことができない。
(かといって、今聞くのもな)
 別段、必要なわけでもない。
 既読の山に最新刊を置き、自分の買った漫画を開く。スパイ漫画とホームコメディを組み合わせたようなものだ。あぁ、どうせなら作者の他の作品も、買っておけばよかったな。
 三話目に進んだところで、渦が読み終える。
「んぁ? 速ぇな」
「あとで読み返すつもり」
「ふぅん」
 そう生返事をして、渦はまた読書に戻った。漫画に没入する。そういえば外国語に翻訳したものもあるらしいが、どうしても手が出しにくい。もう一回読み直す。手元に置いておきたいと思えば、これだな。
「そういえば」
「あん?」
「これ、どうするの? 三十巻近くあるヤツ」
「居間に置いとく」
 なるほど、オブジェクト。どこかの棚の上に飾るんだろうか。そう思いながら、簡易な本棚を買う段取りについて考えた。とりあえず、ニトリか百均で見繕おう。そんな目星を付けてから、検索をした。
(ついでに、有志の解釈を見ておこう)
 ここまで人気なのだ。きっと読み返すヒントや楽しみくらい、どこかに……。そう思いながら、鈴虫の聞こえる夜を過ごした。


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