苦いこうちゃ

 ティーパックを入れたままにすると、出がらしの苦味が出すぎて酷いことになる。けれどもこの苦味を味わいたいときもある。いや、前言撤回。香りまでも消えた。
 最初に嗅いだイチゴの香りが消えたことに、眉を顰める。一方、猫舌のため先に出した先輩のは成功だ。ちゃんと時間通りに入れてパックを出したから、ちゃんと紅茶本来の味が出ている。
「ん、いい香りだな」
 頷く先輩に、なにもいえない。こちらは苦み成分たっぷりだ。出がらしを飲んでいるよう。でも自業自得だ。チビチビと中身を飲みながら、ページを捲る。のそりと先輩が乗り出していた。
「それ、なんだ?」
 肩と頭に乗る重みに、なにもいえない。とても同じ紅茶の葉だとはいえない。無言で苦味を飲む。珈琲のカフェインは望んだが、紅茶の苦味は求めてない。
「その」
「ん」
「微かに感じる、イチゴの、香り」
 味だけど。でも苦味の方が強い。スリスリとすり寄る力から、スッと顔を逸らす。ススッと肩も体も動かしたら、先輩も続いた。変わらぬ距離で、先輩が寄り掛かる。
「同じなのか」
「ん。うん」
 フゥとカップを吹きかける。先輩もまた自分のに手を伸ばして、ふぅふぅと息を吹きかけた。イチゴの香りが近くに感じる。いいなぁと思ったら、先輩の顔が端に移った。振り向くと、先輩の顔が近くにあった。肘の内側に腕が当たる。肩を掴まれたら、薄くイチゴの甘みを感じた。ブレンドした紅茶の味と相まって、美味しい。伝わる本物の味を味わってたら、先輩にペロリと唇の溝も舐められた。「あー」と困ったように声を出す。
「こりゃ、苦いわな」
 そうぼやいた先輩に、うんと頷くくらいしかできなかった。


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