コンビニの帰り道

 コンビニにコンニャクの商品が置かれていた。生じゃなくて揚げたヤツ。板コンニャク一枚を一口大に切って、乾燥したヤツだろう。実物より随分と軽い。そしてコンニャク屋の息子である先輩が、そうと問屋が卸さなかった。
「むむっ」
 難しい顔で考え込んでいる。「ぐぬぬ」と悔しそうな声も聞こえてきそうだ。やがて商品と睨めっこを終えると、私に尋ねてきた。
「なぁ、千芳」
「なんですか」
「お前、これできるか?」
「無理ですね」
 一刀両断した。
「なんでだよ」
「だって、コンビニというお手軽さと大量生産とコンビニブランドの三点を考えてください。これより良いものが作らなければ、例えコンニャク屋の看板があっても勝てませんよ」
「ぐぬぬ」
「それに、向こうは戦略も立ててますし、此方はコンニャクの質で勝負をしています。なので、畑違いです」
「うぅ」
 返す言葉もないのか、先輩はギュッと目を瞑って唸るだけだ。「兄貴ならなんとか」してくれると、に続く言葉を漏らしてたが、残念。お兄さんの頭を持ってしてでも、コンビニブランドと同じくらい考えてないと無理だろう。
 実に【畑違い】ってことだ。
 先輩を悩ますコンニャクを、カゴに入れる。
「降参するために、一旦買って帰りましょうか」
「おう。ライバル企業の調査だな!?」
「競合調査ですね。市場調査とも。ってか、ちゃんと水切れましたっけ? コンニャク」
「あぁ。ちゃんと手順を踏めば切れるはずだぞ」
「原材料名見ても、揚げるのに必要な材料はわからないし」
「企業秘密ってヤツだろ」
 じゃぁ、ますます勝ち目ないじゃん。そう思うものの、胸ポケットに仕舞っておく。コンビニでオヤツを買ったら、飲み物もほしくなる。
「なにか飲みます?」
「エネルギーチャージ系のであるか?」
「これなら」
「お前。それ好きだなぁ」
「私はミネラルウォーターで」
「だったら、俺も水にするか」
 そういって、ミネラルウォーターが二本、カゴに入る。どれも銘柄は同じだ。
「飲み比べができたのに」
「水でか?」
「えぇ。産地によって味わいが違うかと」
「産地によってコンニャクの出来が違うなら、わかるんだがなぁ」
 うぅむ、と先輩は唸る。そこは好みの違いとしかいえないだろう。そう思いながら、野菜ジュースをカゴに入れた。
「期間限定ねぇ」
「梨入りです。飲みます?」
「じゃ、俺はメジャーなのでも選ぶか」
 そういって、一番ポピュラーな看板商品を選んだ。同じメーカーだけど、期間限定と看板のとでこんなに違う。カゴに入った六つの商品を見ながら、レジに並んだ。意外と早い。トンとカゴを置くと、先輩が財布を出す。
「一点、二点」
 店員が数える間に財布を出そうとしたら、先輩のチョップがきた。ピッの間に手首に小ダメージ。私が手首を擦っているうちに、先輩が会計を済ませていた。
「払うのに」
「ばぁか。だったら次で頼むわ」
「うん」
 小さいのじゃないだろうな? そう思いながら、先輩の手にあるコンビニ袋を見る。
「持つ」
「阿呆か。袋一個しかねぇんだぞ? そんなに手持無沙汰なら、これでも握っとけ」
 そういって、先輩にギュッと手を握られた。
「手持無沙汰というか」
 握り締める手に、キュッと握り返す。
「単純に両手の自由が塞がれました」
「だろうな」
 といって、帰路を急かす。借りを作られたままじゃ嫌だな。そう思いながら電灯の下を歩いてたら、「あっ」と気付いたように声を上げる。
「コンニャクのヤツだけどよ」
「あ、うん」
「忘れてたわ」
 なにを? そう聞き返す間もなく、先輩が掻っ攫うようなキスをした。一瞬だけ唇が触れたような感触がして、終わり。
「は?」
「帰るか」
 自分だけ満足したような顔をして、体を戻す。スタスタと走る足の速さについていけない。
(意味、わかんない)
 混乱と恥ずかしさとで、頭が痛くなる。おまけに顔も熱い。立ち止まるなというように、先輩が手を引っ張る。
「あの」
 応えはない。
「いたい、です」
 そう呟くと、先輩の足が止まる。ゆっくりと、先輩が振り返る。
(あ)
 先輩も同じように、顔を真っ赤にしてムッとしていた。なにもいわず、私を見る。それに気恥ずかしさを感じて、視線を下に落とした。先輩の隣に立つ。それから先輩の視線が私の旋毛を離れ、正面に顔を戻した。
 ゆっくりと足が動き出す。それに気付いて歩幅を大きくしようとしたら、合わない。
 唐突にグイッと手を引っ張られて肩に寄りかからされる。その状態のまま、歪な二人三脚をしたのであった。


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