とりあえず今から行けば遅刻扱いだろ


そう言われて降ろされたのは校舎の前。嵌められたと思った時には既に時遅し。狭いグラウンドでサッカーをしている男の数人がこちらを奇異の目で見たが、直ぐにそれは逸らされた。


しゃあない。後はもう6限の現文のみ。念仏唱えるおじいちゃんだしいいか、と昇降口にすたこら向かう。


誰もいない下駄箱。かと思いきや、先客がひとり。まさかあろうことか。気まずいが、とりあえず挨拶する。



「お、はよ。高杉くん」

声震えてるうううう。普段ちょっぴりクールぶっているが、私は実は純情ガールだったりする。

高杉くんはゆっくりこちらを向く。おおう。見つめられるのは嬉しいような、恥ずかしいような。何だか、くすぐったい。


「お前、誰?」











私が教室に入ったにもかかわらず、午後の授業に先生の念仏という最強アルファー波が加わったためか殆どの生徒は見向きもしなかった。ある一人を除いて。



「オイ、何処いってた?」
席に着くやいなや、瞳孔かっぴらいた幼馴染が突っかかかってきた。


「だから、海ほたるだっていったじゃん」

「お前、公園って言ったよな」


そうして、ずいっとスマホを見せつけられる。確かにそこには、“公園だよーん”の文字とすぐ下にご丁寧に8:56と送信時刻まで記されていた。ていうか、わざわざ見せるなんて嫌味なやつぅ。


「つうか、送ってきたあの男誰だよ?」

「うわあ、覗き見かよ」

「真面目に答えろ」

「彼氏」

「は、」

「嘘。元バイト仲間」


騙されてやんの、言ったら気に食わなかったのか、ぷいと他に向いてしまった。耳が赤いのは気のせいか。




特にやることもないので、ぼんやり窓の外をみたら、先程坂田の後ろに乗せてもらったことを思い出した。ほんの数時間前のことなのに、何故だかすごく昔に感じた。


斜め前に目を移せば未だ空席であった。だけど、さっきのことのことなんてもうどうでもよくなっていた。


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