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「アルベールです、」
正門には立派な馬車が用意されていた。二頭の馬は王家らしく優雅で美しい毛並みを夕陽に輝かせており、何か神聖な生き物のようだった。どこから噂を聞き付けたのか、正門にはランフォードの仲間たちが興味深そうに集まってきており、ずいぶんと人数の多い見送りである。
ロラン少年――シャルロッテは素知らぬ顔でランフォードの後ろに小間使いらしく立ち、御者の青年アルベールとランフォードが挨拶するのを眺めていた。
「…突然すまないな。」
「何、お噂は聞いています。光栄ですよ、」
アルベールはハニーブラウンの柔らかな髪の体格の良い青年だった。身長も高い。表情は硬いが、おそらくこれが彼の標準なのだろう。金色の瞳は煌々と輝き、髪を風に遊ばせる様はどこかの国の王子のようだった。実際、彼の身のこなしは一般のそれではない。彼からは微かな甘い香りがした。
ランフォードとロランは静かに馬車に乗り込んだ。荷物はすでに積んである。
不思議な緊張感の中、ふとロラン―――シャルロッテは、正門に馬車が一台というのがあまりに婚礼の儀式の状況に似ている気がして、少しだけ寂しくなった。
「…ロラン君。しっかり目に焼き付けとくんだな。ホームシックにならないように。」
ランフォードは優しく笑った。
「馬鹿言わないで……清々しいくらいよ。」
そう言って小さな窓から外をうかがうと、大きな、真っ黒な正門が目に入った。真っ赤な空に映える黒は、荘厳で美しい。
黄昏れ時にそびえ立つ巨大な城はひっそりとしており、まるで生気が感じられない。それこそがこの国を象徴しているのだと、そしてその原因が家族であるということに、シャルロッテはひそかに悲しくなった。
そして、静寂を邪魔するようにひたすら奏でられるヴァイオリンは、相も変わらずレクイエムで。
シャルロッテが苦しそうに視線を反らすと、馬の鳴き声とともに、馬車は走り出した。
「見えますか、姫。」
「見えるわ。ようやく行ったのね。」
姫の部屋は驚くほど冷たく寒々しい。
アークライトはヴァイオリンを奏でながら、歌うように言った。
「この国はもう、貴女のものですよ。」
「…ええ、そうね。」
幼い笑みは幸せそうで、美しい金の髪がふわりと頬を擽る。
二人の長い影が部屋におちると、床に無残に砕けちったロケットは、音もなく黒の中に熔けていった。
to be continued....