V
「それでは、留守を頼みましたよ。レティシア。」
シャルロッテは足早に自室へと戻ると、すっかり自分に成り切ったレティシアに優しく声をかけた。ランフォードはどうやら騎士団長に挨拶に行くらしい。シャルロッテもすっかり忘れていたが、彼は一応、騎士団に所属している身なのだ。どうせまた同じようなものだから恐らく誰も気にしないだろうが。
「お気をつけて、シャルロッテ様。」
レティシアの銀色の髪はすっかり見えなくなり、金色の付け毛で覆われている。
シャルロッテは少しだけ、寂しくなった。
「…そうだわレティシア。これ、あなたにあげる。」
そう言って、シャルロッテはレティシアに小さなネックレスを渡した。
銀色に輝く、ロケットだった。
「おかあさまとお揃いなのよ。これであなたも完璧に私ね、」
二人は、静かに微笑みあった。
「そこのロラン少年。そろそろ時間だぜ。」
どうやら別れはすんだらしい。ランフォードが楽しそうに戻ってきた。
「…敬語がそんなに嫌だったのね。」
「いや…だって君、この国の国境を越えたら姫様に戻るんだろ。それなら今のうちじゃないか。」
真面目な顔でそう言うランフォードに、レティシアとシャルロッテは、声を出して笑った。
「それでは姫様、行って参ります。」
「行ってらっしゃいロラン。無事を祈ります。」
レティシアの顔は、凛としていた。
二人が去ってから。
レティシアは静かに、夕陽の沈みゆくさまを、この国の様子を眺めていた。
真っ赤に焼けたような町は輝いてはいるがどこか物悲しい。
そして、たった今旅立った好奇心旺盛な姫こそが、この国を救うのだと。
そう、確信したのだ。
「そうだわ…」
そしてふと、シャルロッテにもらったロケットに、誰の写真を入れようかと思いたった。本当は姫の写真を入れたいが、それではバレてしまうかもしれない。ならば王妃か。
そう思って、そっと腰掛けロケットを開けると。
「…“ヴァイオリンに気をつけろ”…?」
ロケットの内側に彫られた文字を読んだレティシアは、最期に。
美しい旋律の、ヴァイオリンの音を聞いた。
to be continued.....