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「さて。そうと決まれば、そろそろ出発しなきゃなんじゃない?」

明るい笑顔でオデットが立ち上がった。
不思議と、空気は柔らかかった。

「…いいのか、“緑”がまだ来てないぜ。」

ランフォードはにやりと笑って残されている緑色のカクテルを一瞥した。

透き通ったエメラルドの飲み物は光に反射してキラキラと輝き、とても美しかった。

「…知らない。何か事情があるのでしょうよ。そのうち追い付くだろうから気にしないで。」

オデットはそっぽを向いた。ランフォードは相変わらずにやにやしている。

「オデット、貴女も共に来てくださるのですか。」

シャルロッテは純粋な瞳をオデットに向ける。占い師は眩しそうに目を細めた。


「…私も、リベルハイトに用事があるので。よろしければご一緒させてください。役には立ちます。貴女様を守る盾くらいにはなるでしょう。」


「…ご協力、感謝致します。ランフォード、」


シャルロッテは、すでに女王の顔をしていた。


ランフォードはそっと右手を胸にあて、シャルロッテにひざまずいた。
漆黒の髪がさらりと流れ、爽やかなライムの香りがした。


「………我等に、神の御加護がありますよう。」


ランフォードは、シャルロッテの小さな左手にはめられた、自分と同じ指輪にそっとキスをした。







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「……狭くなりましたね。オデット、やっぱりお前降りろ。」


一人増えたため、馬車の中はより狭くなってしまった。眉をひそめるランフォードと明後日の方向を向いているオデットに、シャルロッテは声をあげて笑った。

少女らしい、弾んだ笑い声だった。


結局泊まらずに、できるだけ進むことに決まった。シャルロッテは、アルベールに任せると言うと、彼はこのまま進むことを選んだのだ。事態は一刻を争う。何かを感じとったのか、彼はシャルロッテに進ませてくれと頼んだ。

馬車は夜の街を通りすぎると、田舎道に差し掛かった。
激しい揺れの中、それでも移動を夜にしてよかったとシャルロッテは思った。
ランフォードが、どうやら早くこの馬車を降りたがっているように思えたのだ。


「すぐにアリア渓谷に着くわ。そしたら乗り捨ててしまうんでしょう?」


シャルロッテは悪戯っぽく笑った。


「呆れた。あんたお姫様歩かせる気?」

「そのことなんですが。」


ランフォードは、神妙は顔でシャルロッテの瞳を覗きこんだ。


「アークライトは、化け物退治ではないから知力だけで十分だと言った。けれどこれから俺達が向かう先は内乱の絶えぬ国。怖いのは人間だ。リベルハイトに入ったら、シュテリア側とエルヴィーラ側、そして国側に調査に行きますが、姫には国側へ入っていただきたい。リベルハイトは他国との争いもないが外交もない。あなたはそれをネタに王に取り入っていただきたいのです。こればかりは俺達にはできませんから。」

「…わかりました。適任ね。」

シャルロッテは柔らかく笑った。

「で。問題なのはシュテリアとエルヴィーラなんです。特にアルベールは顔がバレている。彼には俺達の間で情報の伝達をしてもらいましょう。オデット、お前どっちがいい?」

「はじめっから私の意見なんて聞く気ないくせによく言うわよ。あんたにオカルトは無理でしょ。」

「…話が早くて助かるぜ。それじゃ、俺がシュテリア、オデットがエルヴィーラだな。というわけですので姫。あなたはリベルハイトに入ってしまえば姫君として行動できる。ただ、そこからは俺達は別行動になります。だからもう一人に期待してるんだ。姫君にお付きがいなくちゃいくらなんでも妙でしょう。」

ランフォードはオデットを盗み見る。
彼女は複雑そうな顔をしていた。

「でも…どちらにせよ歩きで宮殿まで行くのは問題じゃないの。」

「途中で賊に襲われて馬車を破壊されたことにするんです。リベルハイトの国王は外の世界をご存知ない。大丈夫さ。」


互いに腹を探るように会話する二人を見て、シャルロッテは再び声をあげてわらった。


「だいたい…あんた、姫様のお付きでもなんでもないんでしょう?この前来たときお姫様にお目にかかれたってのは聞いたけど、そこまで近しい関係にはなれっこないって言ってなかった?」

オデットは訝しげにシャルロッテをランフォードを見た。
二人は顔を見合わせると、ランフォードはにやりと――――――笑った。



「姫、話しても?」


「…ご自由に。」



「アリア渓谷まではもう少しかかる。昔話といきましょうか。」




to be continued .....


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