「ねぇ室ちん。」
いつも通りバリバリとお菓子を頬張りながら、暗闇にいる氷室を呼ぶ。
「なんだいアツシ?」
この甘い雰囲気など、菓子の前では取るに足らないものだと言わんばかりに、またお菓子を口にして。
「別にー」
「そうかい。」
実に実のない会話である。
これを会話と呼ぶことができるのかどうかすら怪しいが。
二人がいるのは部活後の部室。他の部員達はすでに帰ってしまった。
練習が終わったのもいつも通り遅い時間だったが、時刻はすでに十二時を指している。
こんな時間に校内に人がいていいはずがない。
だが、部室の鍵は閉まっていて、中も真っ暗だ。だからきっと大丈夫。だと思う。
話は部活が終わった九時頃まで遡る。
「お前らまだ残ってるのか?氷室、鍵頼んだぞ。」
「ああ、じゃあね。」
岡村が部室を出た後、氷室も立ち上がり、ドアへと向かう。
だが、その手に鞄はなく、紫原が立ち上がる様子もない。
そのまま無言で鍵を閉めて、電気までも消してしまう。
「アツシ、もうお菓子を食べるのはやめにしないか?」
雰囲気が台無しじゃないか、と苦笑する。
「雰囲気もなにも、ここ部室じゃん。」
そうは言いつつも、食べているお菓子を机におく。
指先を舐める紫原の姿は、この暗闇の中でさえも、とても大きい。
一人ベンチに座る紫原に静かに歩み寄る。
しなやかな腕を紫原の肩にかけ、明確な意思を持って押し倒そうとするが、その動きは紫原本人によって阻まれる。
「いや、室ちん、ムリだし。」
「無理?」
まさか拒まれるとは思ってもいなかったのだろう。
氷室は怪訝そうな顔をしている。
「だから、こんなベンチじゃムリだって。俺デカイんだし。」
やれやれとでも言いたげにため息をつくと、氷室を押し退けて立ち上がり、床の上に腰を下ろす。
「床でいいのか?」
すっかり失念していた。
確かに紫原ほどの長身では、とてもではないが全身を横たえることなどできない。
それにしても。
「だって室ちんが悪いんだよ?こんなとこでシようとか言うからじゃん。」
気だるげに目線をそらすと、続けて口を開いた。
「床しかないじゃん。仕方なくない?」
二度目のため息をつく。
「だから早くシようよ。でないと俺、帰っちゃうよ?」
そう言いながらも、紫原の声にはわかりやすい期待がこもっている。
「ごめんね。」
そう言いながら、氷室は紫原を組み臥せる。
「別に。室ちんのことキライじゃないし。」
そっぽを向くその顔は、少し目が泳いでいて。
暗闇に慣れ始めた目で、紫原の表情を窺う。
「かわいい。」
「かわいくねーし。」
氷室の言葉に赤くなる。
紫原の頬にキスを落とすと、明後日の方を向いたままの顎に手を添えて、優しく唇を重ねる。
誘うように開かれた僅かな隙間に、氷室は衝動的に舌をねじこむ。
逃げる紫原の舌を掬い上げ、熱い舌を絡ませる。
まるで紫原のことなどお構い無しに、侵入者は口腔を存分に犯す。
歯も、頬の粘膜も、上顎も。余すところなく掻き乱されて。
「んっ…っ」
重なる角度を少し変える度に、漏れ出す甘い吐息が聴覚までもを侵す。
荒々しいキスに翻弄されている体からは、あっという間に力が抜けていく。
どうにも息が続かなくなって、ようやく唇を解放する。
「室ちんのちゅー長い。」
快感に濡れた目でそんなことを言う。
なんの迫力もない上に、ちゅーってなんだよ、と言いたいのを堪える。
「はいはい。」
くすくすと笑いながら、氷室は自らのTシャツを脱ぎ、引き締まった上体を晒す。
そして紫原のTシャツにも手をかけると、露になった紫原の胸に、熱い口づけを落とす。
鍛えられた紫原の上体も、今の氷室にとっては欲求の対象でしかない。
わざとらしく音を立てて、胸の先を執拗に責め立てる。
「あっ…んっ…」
舌先で押し潰されて、反応をおもしろがるようにくすぐられると、ふくらみのない胸でも声が押さえられなくなる。
その間にも氷室の片手は紫原の下肢へと伸びていて、すでに硬く張り詰めている紫原自身に直接触れている。
「…ふっ、あっ…むろ…ちんっ」
名前を呼ぶ声は、紫原自身の限界を雄弁に物語っている。
「出るっ…出るっ、あっ…っ」
さらに強くなる刺激に、ついに紫原は己の欲望を放った。
何のためらいもなく、むしろ愉悦すら含んだ表情で、手についた白濁を舐めとる氷室に、毎度お馴染みの質問を投げかける。
「はぁ、っ、室ちん…それ、おいしくないでしょ?」
「アツシのだからね。どんなお菓子なんかよりも甘い。」
そんなクサいセリフをいけしゃあしゃあと口にする氷室に、んなわけないじゃん、と言い返すのが精一杯だった。
バスケット特有の大きなズボンを、ぐちゃぐちゃになった下着ごと、紫原の長くて白い足から抜き去る。
練習後の体は再び汗ばんでいて。
一糸纏わぬ姿でほんの少し身をよじる紫原を見て、氷室も自ら残りの衣服を脱ぎ捨てる。
「なに、室ちん?気遣ってんの?」
行為の時、いつも紫原を身ぐるみ剥いだ後は、必ず氷室も裸になる。
普段の傲慢さには到底及ばない姿で、自分らしくもなく氷室に啼かされている紫原への配慮のつもりなのか。
そう思いながら、初めてこの疑問を口にする。
「なにが?」
乱れた紫原に対し、普段通り涼しい顔の氷室。
「わざわざ服脱いでんじゃん」
「あぁ、アツシとお揃いの方が、何だか嬉しいじゃないか。」
微笑みながらそう言い放つ氷室の頭と、予想外の返事を聞きつけた自分の耳を疑う。
あまりにさらりととんでもないことを言うので、否定も何もかも忘れて、思わず顔が赤くなってくるのが自分でもわかる。
そんな状況でもこの動揺を悟られまいと、苦し紛れに悪態をつく。
「恥ずかしいヤツ。マジ室ちんありえない。」
ちっとも迫力のない文句に、氷室はニヤリと笑う。
「そりゃどうも。」
とても嬉しそうな顔でそう言うと、その口をひくひくと誘う紫原の蕾に寄せる。
他の部分からの快感に、少しだけ緩み始めてはいるものの、依然として閉じたままの蕾を舌で割り開く。
「んっ」
自身の奥まった部分に氷室の舌の温かさを感じて、微かに艶めいた声があがる。
いつしか蕾を玩ぶ舌が指に変わり、次第に本数が増えていく。
蠢く紫原の中で、細い氷室の指が暴れている。
華奢なその指が、大きな紫原の体を翻弄する。
入り口を擦られながら奥の感じる部分を指先でつつかれると、乱れた紫原から高い声があがる。
「あっ、んっ…、むろ、ちん…てばっ…」
何かを訴えようとしているものの、快感に呑まれたままの紫原は、上手く言葉を紡ぐことができず、会話もままならない。
そんな様子を面白がるように、指の動きを止めない氷室を、力の籠っていない目で睨みながら、何とか指を引き抜こうとする。
普段の半分もない力で手首をつかまれると、仕方なくその動きを止める。
「なに、アツシ?」
息を整えながら、紫原はようやくまともな言葉を口にする。
「…はぁ、はぁ。室ちん、もう…挿入れてよ」
昂るだけ昂らされて、いつまでたっても指よりも強い刺激を与えてくれない氷室に、ついに紫原は自らより強い快感を懇願する。
その訴えは確実に耳に届いているはずなのに、氷室からは何の返事もない。
「ちょっと、室ちんてばっ…」
今さら己の放った一言に、激しい羞恥心を感じて、真っ赤になった顔を隠すように、長い手足を抱え込む。
瞬間、紫原の視界は反転し、遠くに天井、近くに氷室の顔が目に入る。
いつもとは違う、余裕のなさそうな顔。
「っ…、アツシがそんなこと言うから…」
そこまで言って、言葉を止める。
目をしばたたいている紫原を他所に、氷室は口元を抑え、目線を宙にさ迷わせる。
「から?」
言葉の続きを促すと、返事が聞こえるより先に、猛った氷室自身によって深く貫かれる。
「あっ----------」
予想だにしない衝撃に、思わず息がつまる。
しかし、十分すぎるほどに馴らされていたそこは、なんなくその楔を受け止め、内壁を貪られることを望んで、艶かしく氷室自身を締め付ける。
「アツシがそんなことを言うから…我慢が効かなくなったじゃなかっ…」
そう吐き捨てながら、その言葉を体現するかのように、激しい抽挿を始める。
「あっ、あっ…ん…っ」
ペースなどお構いなしに、氷室は熟れた紫原の体を貪る。
ぐちゃぐちゃと激しい律動に合わせて聞こえる水音に、汗ばんだ素肌同士がぶつかり合う音が混ざる。
「アツシ…っ、好きだよ…」
激しく、貪欲に紫原を欲しながら、甘い甘い愛を囁く。
しかし、その睦言が届いているのかどうかわからなくなるほど、体の奥の感じる一点を突き上げられ、紫原は啼き続ける。
「…あっ、んっ…んぁっ、あっ…」
氷室が中を抉る度に、紫原の先端から白い体液が滲む。
一際大量に出た先走りが、紫原の限界を物語る。
「やっ、あっ…もっ…んっ」
より一層強くなる締めつけに、氷室も限界を感じる。
「中に…出す、よっ」
奥の奥まで暴れる屹立をねじこんだ瞬間、目の前が真っ白にになって、あまりの快感に何もかもがはじけとぶ。
「あっ、あっ…あっ」
「くっ…」
大量の精液が二人の肌を汚すと同時に、熱い欲望を紫原の最奥にたたきつける。
独特の気るさにおそわれながら、先ほどとは打って変わった、優しい優しいキスを交わす。
乱れた髪を整えてやりながら、近くにあったタオルに手を伸ばす。
外は満月だった。岡村に言われた通り、きっちりと施錠した氷室に向かって悪態をつく。
「室ちんのバーカ。もう寮の門限すぎてんじゃん。」
だから泊めてよね。甘いキスを落とした。
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なんかお互い大好きで、その好きな感情がもろ性欲に変わる、みたいなw
盛ってる男子高校生かわいいですw