それは、ほんのつまらない嫉妬と羨望。
「火神くん?」
どうしたんですか。顔を覗き込まれて、とりとめもない思想から引き戻される。
「なんもねぇよ。」
ぶっきらぼうに答える。
「そうですか。」
やれやれと言わんばかりに、目線を戻す。
いつもの席。
火神の前にあるのは、大量のハンバーガー。
いつもと違うのは、黒子の横に居座る黄色い髪。
「ひどーい火神っち。黒子っちに対して、なんスかその言い様。」
その端麗な顔を歪ませて、黒子に抱きつく。
「黄瀬、てめぇ」
椅子から腰が浮き、黄瀬を睨む。
負けじと黄瀬も睨み返す。
「黄瀬くん、やめてください。まったく…キミはいつもそうなんですから。」
呆れたように黄瀬の体を押し返すと、火神くんも落ち着いて下さいと、表情の薄い顔で見つめる。
まるで小学生のように顔を背け合う二人。
その姿に苦笑して、黒子は言った。
「ボクは誠凛高校バスケ部です。だから、黄瀬くんの所へは行けませんし、行きません。」
そういうことです。目を伏せて静かに笑うと、火神の目を見つめた。
「だから、そうかっかしないでください。」
昼間、黄瀬が体育館を訪れてからと言うもの、火神の落ち着きのなさは異常だった。
「かっこわるーい、火神っち。」
「黄瀬くん、いい加減にして下さい。」
どすっと脇腹に黒子の手が刺さる。
「いつからそんなに大人げなくなったんですか。」
ふぅっとため息をつくと、とうに空になっていたシェイクの容器を持ち、席を立つ。
「それではボクは。」
火神の前には、まだ半分ほど残っているハンバーガーが。
「あ、おい黒子、待てよ」
「あー、黒子っちー」
目の前に残ったハンバーガーを、全て黄瀬に押し付けて、火神も店をでる。
「全く…二人だけ仲良しでずるいっス」
しぶしぶハンバーガーに手を伸ばす。
「どんだけ食うんスかこいつ…」
「黒子、待てよー」
店を出て辺りを見渡す。
火神の視界に黒子が現れることはなく、火神は肩を落とした。
うっかりするとすぐに見失ってしまう。
「火神くん?」
「うわぁっ!?お前いつからそこに!?」
「ずっとです。」
俺の黒子。
「ずっと火神くんを待ってました。」
ずっとというほどでもないですかね?首を傾げる。
「火神くん?」
反応のない火神を覗きこんだ。
「俺ん家、来いよ。」
余裕のなさそうな顔。
その表情に、なぜだか喜びを感じた。
「はい。」
微笑みながら。
前に火神の家に行ったのは、つい数日前のこと。
「やきもちですか?」
くすりと笑いながら、靴を脱ぐ。
後ろにいる火神が、うるせぇと反論になっていない反論をする。
「入れよ。」
はいはい。玄関で立ち止まっていた黒子は廊下へ上がる。
さすがにどこへ進むべきかを迷ったのだろう。火神くん、と振り返った。
その時。
黒子の唇は火神によって塞がれた。
「部屋、来いよ。」
なぜか片言になる言葉。
心臓が高鳴る。
火神のベッドに身を投げると、すぐに大きな体が覆いかぶさった。
貪るようなキス。
強引に唇を開かせ、舌を捩じ込む。
そして、控え目に差し出されたその舌に絡ませる。
「ん…ふっ…」
わずかな吐息と共に、甘い声が漏れる。
「黒子…」
唇を離すと、やや不機嫌そうな顔。
「妬いているんですか?」
不敵に微笑む黒子に、ぼそりと返した。
「悪ぃかよ。」
愛しくてたまらないとでも言うように、黒子は火神に抱きつく。
「悪くないです。」
耳元で囁くと、火神の熱い手が黒子のワイシャツに触れる。
ボタンを外すと、火神の指が滑り込む。
「あっ…」
胸の先に指が触れると、黒子は甘い声を出す。
片方を指で愛でられながら、もう片方には舌が吸い付く。
「…んぁ、あっ…ぁ…」
舌先は器用に先端を転がし、吸い上げる。
さらに火神は空いている方の手を、膨らんでいる下肢へと伸ばし、前をくつろげる。
「………ゃ、あ…」
下着の上から擦りあげられると、黒子はいやいやと首を振った。
だが、そんなことはお構い無しに、火神は黒子の体に触れ続ける。
「…かが、み、くんっ」
甘い声の合間に名前を呼ばれると、つい顔を上げてしまう。
「ボク、ばっかりで…ぁ、恥ずかしい…です」
すでに下着さえ取り払われてしまい、黒子の身を隠すものは何ひとつない。
比べて火神は、しっかりと服を着こんだままで、興奮したそこはとても窮屈そうだった。
「あー…わかったよ」
そういうと豪快に上半身をむき出しにする。
その逞しい体に、思わず目が奪われる。
「これでいいか?」
尋ねる。
「よくありません。ボクばっかり気持ち良くて、火神くんだって…」
そう言いながら、火神が押し倒される。
押し倒される、といいつつも、黒子の力では押し倒すこともままならず、火神が自ら倒れたというのに等しいのだが。
「火神くんも気持ち良くなって下さい。」
言葉は凛としているのに、顔や声は淫靡な雰囲気を放っている。
「え、ちょ、黒子…」
何も言えずにいるうちに、黒子の口に火神自信が呑み込まれる。
「………あっ…ぃ…」
声にならない声が、驚きと快感の予感を孕む。
ぴちゃぴちゃと音を立てながら、黒子の口内に出入りする屹立。
その舌使いは巧みで、感じる場所全てに舌が伸びる。
裏筋や孔に舌が絡むと、自然と火神の腰が浮く。
「……………んっ…」
堪えきれずに溢れる声が、なんともいとおしい。
「気持ちいいですか…?」
浅くくわえたまま黒子が言うと、火神は息を呑んだ。
「あ、あぁ…」
狼狽えながら肯定する。
「…やべ、出る…」
どうぞ。黒子は表情でそう語ると、頭を引き剥がそうとする火神の手に抗う。
瞬間。
「……あっ、くっ…」
大量の精液が吐瀉され、それ特有苦さと青臭さに眉を潜める。
ごくり。それでも迷うことなく飲み下された体液。
慌てたのは火神の方で。
「お前っ、なにしてんだよっ…」
「この間の火神くんと同じです。よくありませんでしたか?」
きょとんと首を傾げる。
さっきまでの黒子はなんだったのかと思うほど、その瞳は純粋だった。
「いや…いいとか悪いとかじゃなくて…気持ち悪くねぇのか?」
「気持ち悪い、ですか…」
考え込む。
「火神くんの出したものですから、気持ち悪いなんてことはないです。」
その瞳はあまりに純朴で。
とても言葉とは合っていない。
「俺の、って…おい」
何言ってんだよ。顔を赤らめる。
へらへらと笑う黒子を再び押し倒す。
今度は火神の番だ。
「ちょっと待ってろ…」
黒子の先走りの滑りを借りて、丹念にその蕾を解す。
決して黒子が傷つくことのないように。
「あっ……ふっ…ん…」
火神の指に合わせて漏れるのは艶を帯びた甘い声。
「いくぞ…」
十分に慣らされたそこは、柔らかく火神を受け入れていく。
「あっ…や、…」
口から漏れるだけの抵抗。
言葉とは裏腹に、これから与えられる快感に身を震わせる。
「…んっ、もっと…」
抵抗の言葉が欲求に変わるまで、そう時間はかからなかった。
「あっ、もう…ダメっ」
切なげに眉根を寄せる。
「あっ…あ、あぁっ…」
白い液体が二人の体を汚す。
荒い息をつく黒子の中に、火神も欲望を吐き出した。
「好きです、火神くん。」
微笑みながらそう言うと、柔らかい笑みを浮かべたまま黒子は闇に落ちる。
「馬鹿、俺もだよ」
すでに目を閉じてしまった黒子の額に唇を落とすと、火神は体を並べる。
静かに目を閉じた。
朝。
目を覚ますと、ベッドに黒子はいなかった。
ダイニングへ行くと、黒子が用意した簡素な朝食が。
「おはようございます。」
ふわりと笑みを浮かべると、寄ってくる。
「勝手に使わせてもらいました。」
見ると風呂にも入り、洗濯も済ませたようだった。
「あ、悪ぃな。」
いえ、と微笑む。
「昨日の不機嫌はもう治りましたか?」
いたずらっぽく聞かれると、火神は言葉を濁す。
二人きりの朝食にふさわしい、少し甘い空気。
その雰囲気に紛れさせながら火神は言った。
「黄瀬が、お前に、べたべた触るからっ…」
そこまで言うと、言葉が途切れる。
「黄瀬くんに妬いてたんですか?」
ニコニコと尋ねる。
うっと明後日の方を見て、そのまま言った。
「悪ぃかよ。」
「悪くないです。」
昨日と同じじゃないですか、と苦笑する。
「そろそろ練習に行かないといけませんね。」
名残惜しいですが。立ち上がり食器を片付ける。
台所に立つ黒子の横に行くと、名前を呼ぶ。
「なんですか?」
振り向いた顔に口づけを落とす。
「好きだ。」
照れ笑いを浮かべながら言い残して、シャワーを浴びに行く。
台所には暖かな陽が差し込んでいた。
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妬きもちを妬く火神くん。実は黄瀬も黒子のことを好きだといいと思います。