「なあなあじゅうにい、なんでうちはクリスマスせぇへんの?」

今日はクリスマス。

イエス様がお生まれになった、聖なる聖なる日。

だが。

「あー、そらうちが明蛇の僧正のうちやからやろ?なんや廉造、お前クリスマスしたいんか?」

柔造が中学生の今でも、未だかつてクリスマスを祝ったこともなければ、祝いたいと思ったこともない。

しかし、今時の子供はというかなんというか、大方保育園ででも焚き付けられてきたのだろう。

「おん!サンタさんにプレゼントお願いするんで!!」

はしゃぐ廉造とわかりきった結末を前に、学校帰りの柔造には成す術はない。

「そやなぁ廉造、たぶん今年もクリスマスのお祝いはせぇへんと思うで?」

踏みしめる雪はギシギシと音を立てているが、調子にのって履いてきた普通の靴は、既に爪先が染みてしまっていた。

「せぇへんの?」

寂しそうに聞いてきた廉造の手はひどく冷たくて、何だかかわいそうな気がした。

「せぇへんやろなぁ。兄ちゃんもしたことないで?」

「じゅうにいもしたことないん?」

「おん、やから一緒や。廉造だけイジワルされてんのとちゃうで?」

そう言ってやると、廉造は拗ねた顔で言った。

「せやかて、やりたいもんはやりたいもん。なぁじゅうにい、あかん?」

廉造にしては珍しく駄々を捏ねている所を見ると、相当クリスマスという行事に憧れているようだ。

別に、キリスト教徒でないものはクリスマスを祝ってはいけないというわけではないのだが、志摩家ではというより、明蛇では祝っている所を見たことがない。

つまりは、今年も来年も、そのまた来年も、クリスマスを祝うとういうことはないわけで。

「いや、あかんくはないねんけど、こればっかりは俺にはなんもできひんしなぁ…」


「ただいまー」

玄関先に漂って来たのは、クリスマスらしさの欠片もない煮物の香り。

「廉造、今年は無理や。あきらめぇ。」

泣きそうな廉造の顔を覗き込むと、ついに大声で泣き出してしまった。

「なんで!?なんでうちはクリスマスでけへんの!?みんなプレゼントもらうて言うてたもん!!サンタさん来る言うてたもん!!」

玄関先でこうも大泣きされてしまうと、柔造もどうすればいいのかわからなくなって困り果ててしまった。

「そないなこと言うたかしてなぁ…」

おかん助けてぇな、なんていう心の叫びは天に届くはずもなく。

「どないしてん廉造?って、柔兄もおったんかいな。」

寒い廊下に現れたのは、四男金造。

びいびいと泣き続ける廉造と、靴を脱ぐのも忘れて困り果てている柔造とを、交互に見比べる。

「どないしてん?」

「いやな、廉造がクリスマスしたいて泣きよんねん。」

ため息をつく兄を見て、妙に納得した様子で相づちを打つ。

「あー、そやなぁ、今日クリスマスやってんか。」

「保育園で要らんこと吹き込まれてきてん。どないしよ…」

金造でさえここまで騒ぎはしなかったので、普段物分かりのいい廉造がここまで駄々をこねるとは想定外だった。

「あ、柔兄、ええこと思いついたで!」

打つ手のなくなった柔兄は、自信満々な金造の提案に、ここは一つ乗っておくことにした。


しかし、夕飯が済んでもなにも変わらない日常が過ぎていくだけで、さすがの柔造も心配になってきた。

というのも、相変わらず廉造は駄々をこね続けて、家族中から叱られて、すっかり拗ねてしまったからだ。

「おい金造、何とかする言うたんやないんか?」

「待ちぃや柔兄。お、もう八時やな、そろそろ来はるで!」

「え?あ、ちょぉ待てや」

急に立ち上がった金造に驚いていると。

『メリークリスマス!!』

玄関から聞こえてきた大きな声。

志摩家の全員が驚いたのは言うまでもない。

「れんぞーくん!!」

「見てぇな!!おれらんとこにもサンタさん来てん!!」

勢いよく居間に駆け込んできたのは子猫丸と竜士で。

「え!?ぼ、坊!?子猫さんまでどないしてん!?」

皆が同じようなことを言うので、もう訳がわからなくなってしまった。

「メリークリスマス」

口々にそう言いながら入って来たのは、虎子や蟒、蝮たちまでいる。

とりあえずの所、一番驚いているのは八百造だったので、皆笑ってしまった。

「八百造さん、急にすんまへんねぇ。かわいい子供らのお願いやったら、聞いてやらなあきまへんやろ?」

クスクスと笑う虎子の目線の先には、大人というか、ちびっこ以外からはどこからどう見ても達磨にしか見えないサンタクロース。

「ほらしま!!サンタさんいてるやろ!!」

子供たちは大喜びだ。

サンタにまとわりついている子供たちを見ていると、柔造もほっとして笑い出した。

「な、柔兄。任しとけ言うたやろ?」

ニヤニヤしている金造の頭をぐしゃぐしゃにして、少し輪から離れている蝮に目を向けた。

「申、ケーキも持って来たんだから、ちゃんとあの子たちにあげなさいね。」

「おおきにな。俺もなんや嬉しいわぁ」

一方、た、達磨様…と口をパクパクさせている八百造の横には、微笑ましそうに子供たちを眺める蟒が座る。

「ま、今日だけや。子供らもかいらしいで、ええやないか。」

「皆、ケーキ入らんのー?」

笑いながらケーキを切り分ける妻を見て、ようやく八百造も納得したようだった。


『メリークリスマス!!』

もう一度大きな声が、志摩家の居間に響いた。



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クリスマスネタです!!

ほんとは大量更新しようと思ったのですが、そこまでの気力が存在しませんでしたw

これからも、どうぞご贔屓に!!

メリークリスマス!!

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