誰もいない店内で一人グラスを磨く。
閉店後のバーは、薄暗い照明さえも消されていて、ほとんど真っ暗と言っても過言ではない。
使い慣れたカウンターの中を整頓して、一つため息をつく。
「疲れたわぁ」
サングラスを外しながらタイを緩め、一休みとばかりに近場のソファーに寝転がる。
「はぁぁ…」
もう一つ盛大なため息をついて、客足を遠退かせた強い雨に意識を向ける。
客の少なすぎる日というのも余計な疲労が募るというものだ。
そんなことも相まって、ゆらゆらと近づいてきたまどろみに身を委ねようとしていたその時。
既に施錠してしまっていたドアがガタガタと鳴る。
「うおっ、なんやねん」
突然のことに驚きながら、少し警戒して扉を開く。
すると。
「え、八田ちゃん!?どないしてん!?」
ずぶ濡れの八田がうつむいたままで立ち尽くしていて。
「と、とりあえず入りぃ」
あまりに突然のことで状況が把握できなかったが、その手を引いて暗い店内に招き入れた。
八田ちゃん?
言葉に出さずに顔色を窺うも、相変わらずうつむいたままの八田は何も言わない。
「ちょお待っときぃ」
だんまりな八田の頭に触れると、階段を上がり着替えとタオルを取りに行く。
もちろん八田の着替えなんてあるわけもなくて、普段自分が着ているものを手に取り階下に戻る。
降りてきたついでに店内の明かりをつける。
「っ、ちょ、八田ちゃん!?」
明るくなった店内で目に入ったのは、備え付けのシンクで嘔吐する八田の姿。
持ってきたものをカウンターに放り出し、ずるずるとしゃがみこんでしまった八田に駆け寄る。
声をかけながら背中をさすると、八田が僅かに顔を上げた。
「すんません…」
掠れた声で謝罪の言葉を口にする八田に、草薙はある種の違和感を感じた。
「謝らんかてええよ。それより八田ちゃん、何があったんや。」
八田の体は震えていて、それは決して雨のせいなどではないと直感する。
「言うてみぃ」
尚も口を開こうとはしない八田に、草薙は一度話を切り上げることにした。
「立てるか?いっぺん着替えよか」
足取りの覚束ない八田を支えて、先ほど持ってきた着替えを着せて、頭を拭いてやる。
「俺の服やからサイズ合わへんけど堪忍な」
ソファーに八田の体を横たえると、その顔の近くにしゃがみこむ。
トレードマークにもなってきたニット帽を外した八田の素顔は、年相応に幼くて。
だが、その顔には大きな痣があり、よく見ると口や鼻から出血していたようだった。
「誰にやられたんや。」
その一言に八田は体を強ばらせる。
「あの…」
ぎゅっと目をつむる八田の顔色は酷いもので。
「誰にボコられてん。」
あの八田がこんな状態で帰ってくるとはどういうことだろうか。
八田の力は吠舞羅でも指折りのものだ。
あちらこちらに痣が見えるものの、目立った出血もないし、まして骨が折れているというわけでもなさそうだった。
もしかして。
「ひょっとして…アイツらにやられたんか?」
「は…い…」
コクリと頷く八田はやはり震えていて、先ほど抱いた違和感が、草薙の中で明確な形になった。
アイツら----------
近頃鎮目町で多発する強姦事件。
その犯人グループにはストレインが存在するという噂まで立っている。
被害者は皆十代の少年たち…そう、ちょうど八田のような年頃の。
それがまさか----------
アイツらが八田にしたことを思うと、頭に血が昇った。
よくもよくもよくもよくも…
「顔まではわかりませんでした…ただ縛られただけなんすけど、なんか抵抗できなくて…」
ボソボソと話し始めた八田は、血が滲むのではないかと思うほど掌を強く握りしめていて、草薙の心がひどく傷んだ。
「力、出せへんかったっちゅうことか?」
頷く八田に、草薙は苦々しく言葉を続ける。
「やっぱ無効化のストレインがおったんか…」
無効化となってくると、いかんせんこちらの分が悪い。
尊に頼むしかないのかと頭を悩ませていたとき。
「草薙さん…」
ソファーに横になっていた八田の手が、草薙のシャツを掴んでいる。
その手は微かに震えていて。
「オレ、オレ…草薙さんがいる、のに…オレ…」
「そんなん気にせんでええ。俺んことなんかよか自分の心配しときぃ」
「でも…」
袖を掴んだままの八田がいじらしくて、草薙はその震える体を抱きしめる。
冷えた体と大きな服が、いつもの八田らしくなくて。
「ごめんな八田ちゃん…」
アイツらの狙いそうな奴らはわかっていたのに。
「俺がついとったら、八田ちゃんのそばにおったら…」
堪忍な、堪忍な、と言って肩を震わせる草薙の背中に、八田はそっと腕を回した。
「草薙さんは悪くないっすよ」
そして、サングラスを外したままの草薙の額に、そっと口づけた。
「草薙さんのヤリ方、思い出させて下さい。」
その言葉に驚いて目を見開く。
「八田ちゃん…」
恐怖を圧し殺していることはわかりきっている。
けれども、どんな思いで今の言葉を紡いだのかと思うと、草薙はいてもたってもいられなかった。
いろいろな感情が草薙を駆け巡るが、何よりも、ただ八田のことが大切で。
恐る恐る八田の頬に触れる。
狭いソファーの上で体を重ねて、互いの愛を確かめ合うような、熱いキスを交わす。
薄く開かれた八田の唇に自身の舌を這わせ、歯列も頬の粘膜も上顎も、全てを奪いつくす濃厚な口づけ。
水道水の味の残る口に、静かに問いかける。
「どこ、触られたん?」
アイツらのことを少しでも忘れられるように。
この明るい部屋で、俺の全てで俺に溺れて欲しくて。
「なぁ…」
「体中撫で回されたあと、無理やり突っ込まれて…」
草薙とのキスで上気し始めていた頬が、再び青ざめていく。
もう一度抱き締めて、優しく優しく言った。
「俺のことだけ考えとき。」
「はい…」
コクコクと頷きながらしがみついてくる八田はひどく頼りなくて、草薙の心が締め付けられる。
再開された愛撫はとても情熱的で、八田は与えられる快感に溺れていく。
赤く色づいてピンと立ち上がっている二つの頂を同時に転がされ、舌と指とが与える快感に身をよじる。
空いている片方の手は、引き締まった八田の腹部を滑り降りて、ベルトもしていない大きめのジーンズへと伸びた。
熱を持ち始めたそこを焦らすようなことはせずに、草薙の手は八田の中心を握りこむ。
「気持ちええか?」
びくりと跳ねる腰を宥めながら、上の刺激を止めることなくその熱をしごいて、気づけばそこははっきりとした硬さを持って勃ちあがっていた。
「あっ、やぁ…くさ、な…っ」
そんな自分自身を口に含まれて、昂る体と心を抑えきれない。
ささやかな抵抗を蹴散らすように、草薙の舌は巧みに動く。
熱い舌はねっとりと竿を滑り、全体を口に含んだかと思えば、強く吸い上げながら亀頭や鈴口も同時に刺激する。
「ダメっ、放して下さいっ」
言葉と体で己の限界を訴えると、草薙による愛撫はより一層激しさを増した。
強く先端を吸い上げられ、軽く歯を立てられた瞬間、八田は呆気なく精を放ち、草薙の口を濃い白濁で汚す。
「濃いのん出よったなぁ」
わざとらしく音を立てて、口の中の欲望の証を飲み下した。
「あんな奴らのが気持ちいいわけないじゃないすか」
ふいと目を逸らした八田を見て、悲しいような嬉しいような複雑な気分になる。
「草薙さん?」
何も言わない草薙に呼びかけてみる。
すると、草薙の大きな手が伸びてきて、八田の茶色い髪に絡んだ。
「ほんま堪忍な八田ちゃん…好きや、愛してんねん…ほんまに八田ちゃんのこと大事やねん…せやのに…」
哀しい瞳で見つめられて、八田の胸は熱くなった。
「もういいんすよ。オレも草薙さんのこと大好きです。オレは、草薙さんのモンですから」
そう言う八田の笑顔はとても儚かった。
衣服の取り払われた下肢を、少し汗ばんできた草薙の手が滑る。
キツく甘く、そして熱く草薙を呑み込んでくれるはずの蕾は、痛々しく腫れ上がっていて、八田の体が手酷く扱われていたことがよくわかった。
慈しみを込めて円を描くようにそこを撫でると、八田の体が快感に期待して小さく揺れる。
アイツらが出したであろう汚らわしい欲望は、すでにそのほとんどが流れ出していたようで、草薙は少し安心する。
優しく、優しく、これ以上ないというくらい優しく掻き回すと、草薙の指が微かに前立腺を掠め、ひどく弱い刺激が体中を巡って。
「や、もっと…もっと…」
中途半端な快感が余計に苦しくて、濡れた瞳で懇願しながら腰を揺らす。
「かいらしいなぁ。」
欲情した表情に混ざる微笑みはとても妖艶で、そんな草薙の眼差しについ見とれて。
そう言いながら入り口に宛がわれた熱に、八田の体は震えた。
「怖いか?」
その震えを恐怖心から来るものだと思って、草薙はその動きを止める。
すると、組み敷かれている八田は首を振って、恥ずかしそうに言った。
「草薙さんとしてんだと思ったら、なんか嬉しくて」
汚いって言われたらどうしようって思ってました、と困ったように笑った。
「汚いなんて、思うわけあれへんやろ。」
真面目な顔で啄むように口づけて。
「八田ちゃん、俺そろそろ限界や。」
掠れた声でもう一度熱い昂りを押し当てる。
ゆっくりと体を割り開いてくる熱が、今度はとても心地よくて、自然と体の力が抜ける。
熱く誘うように蠢く八田の体内を直に感じて、腰が震えた。
「んっ…」
強く揺すられる度に、猛った草薙のものが前立腺をえぐって、強い快感が体を支配する。
草薙の熱に身をまかせていると、感じる所を知り尽くしている草薙の指は、熱が奥を突くのと同時に、蜜を滴らせる八田自身にも絡められて。
「あっ、くさなぎさんっ、んっ…」
愛しそうに名前を呼ぶ八田に、熱い口づけを落とす。
「イッてええよ」
俺もイキそうや、と付け加えて、追い討ちをかけるように八田の体を貪る。
ギシギシと苦しげな音を立てるソファーは心もとなかったが、二人の先走りによるジュプジュプという卑猥な音が耳を侵して。
「…や、ぁ、もうイクッ、イクッ…っ」
全身が強ばったかと思うと、高く体を反らせたままその欲望を体の上に撒き散らす。
その締め付けで草薙も達して、叩きつけるように熱を放つ。
体内に吐き出された精液が、嫌悪感や恐怖感を洗い流していくようで、草薙に抱かれているのだという安心感に、胸が一杯になる。
その途端、次から次へと涙が溢れてきて、止まらなくなってしまった。
「泣いてええ。どんだけでも泣きや。離さへんから。」
声を上げて泣きじゃくる八田を抱き寄せて、いつまででも背中をさすり続けた。
そうしているうちにいつの間にか、八田は泣きつかれて眠ってしまった。
大きすぎるシャツの前を止めて、毛布をかけてやる。
「ここにおったるからな。」
狭いソファーにもたれ掛かって、八田の寝息を感じながらゆっくり目を閉じた。
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似非京都弁、似非能力者、いろいろごめんなさいw
これからはKネタも書いていきます!!
吠舞羅が好きなんですw
ちなみにこの後、例の強姦グループの姿を見た者はいないというw
あと、拍手文は月イチで差し替えの予定ですm(__)m
ありがとうございました(^O^)