「おい、火神大我。」
背後から、聞いたことのある、だが決して聞き慣れてはいない声に呼び止められる。
振り向いてその姿を認識する前に、腕を捕まれてすぐ脇の細い路地に引きずり込まれる。
「うわっ!?」
力は決して弱くはないはずなのに、火神は抵抗できない。
どんどん路地を進んでいくその誰かは、未だに火神の視界に入ることはなくて、火神は不安になる。
「おい、誰だよ!?」
後ろ向きに引きずられるように歩かされていると、ついに火神は何かにつまづいて、派手に転んでしまった。
「いってー…」
頭をさすりながら目を開けると、そこには信じられない奴がいて。
赤司征十郎。
「どう…して?」
思わず片言になってしまう。
赤司がその問いに答えることはなく、何を考えているのか微塵もわからない、色の違う両目で見下ろされる。
どうして…
赤司の手によって無理矢理立ち上がらされると、そのまま壁に押し付けられる。
「なんだよ!?」
最初の一言以外、なんの言葉も発さない赤司が、急に恐ろしくなって、自分より幾分低い位置にある顔を見つめる。
「僕に逆らうと、どうなるかわかってるな?」
ようやくその口から出た言葉は、あまりに陳腐な脅し文句のようだったが、この男が口にしたことで底知れない恐怖を突き付けてくる。
襟首を掴み上げていた右手がすっと離れる。
殴られる、そう思った瞬間。
「おいっ!?」
その右手は火神のティーシャツを掻い潜り、直接肌に触れてくる。
火神は抵抗しようともがくが、その動きは中途半端なものでしかなく、こんな訴えが赤司に届くはずがない。
肌をさすっていただけの手が、ついに明確な意思を持ってその上体をまさぐってくる。
訳がわからなくて目を白黒させていると、赤司から感情のこもっていない声が上がる。
「つまらないね。やはりタチの君にこんなことをしても無駄か。」
「は?」
思わず耳を疑う。
またしてもその問いに答えが返ってくることはなく、火神の意思などお構い無しに、強引にその中心を握りこんでくる。
「んっ…」
乗り気ではないどころか、むしろ嫌悪感を抱いているというのに、直接的な刺激には抗えなくて、火神のそこは熱を持ち始める。
「待て、待てって赤司っ、お前どうしたんだよ…」
絡み付く赤司の指に耐えながら、赤司の肩を揺さぶる。
すると、ようやく指の動きを止めた赤司の口が動く。
「君はテツヤの恋人だろ?」
「は!?」
先ほどの問いの意味がようやく理解できた。
返すべき言葉を見つけられないでいると、続けて赤司が喋り出す。
「あの…あのテツヤを手込めにした男とは、いったいどれほどのものかと思ってね」
でも、やはり君を犯す気にはなれないな。
ぼそりとそう言うと、今までのめちゃくちゃさがなんだったのかと思うほど、あっさりと火神の体を放す。
「お前…なんなんだよ…?」
本当に意味がわからなくて、火神は脱力する。
すると。
「僕は…僕はずっとずっとテツヤのことが好きだったんだっ。なのに、なぜだっ…」
突然声を張り上げた赤司に、火神はびくりと体を強張らせる。
先ほどようやく離された手が、再び火神の首元を締め上げる。
「なぜっ…なぜ僕じゃなくて、よりによってお前なんだっ…大輝でも涼太でも敦でも真太郎でもなく…なぜお前なんだ火神大我っ…」
今までに見たことがないほど感情的な赤司を目の前に、どうすればいいのかわからなくなる。
火神の襟首を掴んだまま震えている赤司に、静かに問いかける。
「赤司…、お前黒子に好きだって言ったことあんのかよ。」
「あるわけ…ないだろう」
はっきりしている口調からすると、泣いてはいないようだが、不安定な赤司は何をしでかすかわからない。
それこそ、このまま絞め殺されたっておかしくない。
「言えるわけないだろう…」
それでも火神は。
「なんで言わなかったんだよ。俺にこんな訳わかんねぇことしてんなら、いつだって言える時あったんじゃねぇのかよ!?」
「言えるわけ……ない、だろう…」
同じことばかり繰り返す赤司に、少し苛立ちが募る。
「なんなんだよっ!?」
今度は逆に赤司の襟首を掴み上げ、激しく問い詰める。
「お前なぁ、俺にこんなことする行動力があんならよ、黒子にだってそうすればよかったんじゃねぇのか?あ゙ぁ?」
俺ならんなことしねぇけどよ、と吐き捨てる。
「テツヤが欲しかった…それこそ何もかもを放り出してでも、テツヤを手に入れたかった…」
暫しの沈黙が流れる。
「だが…テツヤがっ、テツヤが大切だったんだっ…きっと僕なんかでは、テツヤを壊してしまう…それが怖かったんだっ…」
火神がその手の力を抜く。
「お前…言葉ってもんがあんだろうよ…」
「知ってるさ…知ってるんだよ…」
わかってるんだ、と溢す赤司の体の揺れは治まっていた。
その時。
「あのー、二人とも…」
『は!?』
声の方向に顔を向けると、そこにはいつからいたのかわからない黒子の姿が。
「お前…いつから…?」
火神が問うと、黒子は表情を変えずにさらりと答える。
「割と始めからです。」
驚いている火神に、さらに状況を説明する。
「火神くんが急にいなくなるから探してたんです。そしたら赤司くんの大声が聞こえて…」
最初はもう少し離れた所にいましたけど、と続けると、黒子はため息をつく。
「お二人は、ボクにどうしてほしいんですか。」
じっと二人の顔を見比べる。
その答えを出すよりも早く、赤司が踵を反して去ろうとする。
「おいっ、待てよっ」
火神が呼び止めるものの、赤司は歩き続ける。
「赤司くん!!」
狭い路地に黒子の声がこだまする。
それでもなお立ち止まることのない赤司の背中に駆け出す。
「赤司くんっ」
その肩を掴んで振り返らせると、赤司の顔も見ないまま、優しく抱きしめる。
「あの頃好きだと言われていたらわかりませんでした。でも、今のボクは火神くんが好きです。だから赤司くんのことを選ぶことはできません。」
何も言わずに赤司が黒子を抱き返す。
そして、黒子の柔らかな髪をあたたかな雫が滑り落ちた。
「ボクが好きなのは火神くんです。」
もう一度ゆっくりと繰り返す。
「それでも赤司くんは、ボクの大切な友人です。大切な仲間なんです。それではいけませんか?」
優しく、優しく問いかける。
「あぁ…」
それ以上言葉の続かない赤司は、力なくその手を放して。
「ありがとうございます。」
優しい声音で囁くと、赤司の体を自由にして、くるりと火神の方を振り返る。
「行きましょう。」
そう言って、小さな体で微笑んだ。
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キリリク:刈間様
やっぱり、赤司と火神じゃえろいことできませんでしたw
ごめんなさいw
でも赤司が悪い子にならないように気をつけました!!
これからもよろしくお願いいたします\(^o^)/