向かって吹く風があまりにも冷たくて両手をコートのポッケにしまった。マフラーにぐるんぐるんに巻いて顔をうずめて顔を外気から守る。少しでも暖をとりたいのに制服のスカートは短くてアンバランスだ。海沿いの道は風が強くて冷たくて朝は特に寒い。

12月4日。あっという間に11月が過ぎて12月になって、街はイルミネーションで彩られクリスマス一色だ。この道も、夜になればキラキラ輝いて綺麗だけれど朝は静かである。早歩きで歩いていたら、急に誰かに肩を叩かれた。


「プリッ」
「なんだ仁王じゃんおはよ」


振り返ればそこには私と同じようにマフラーをぐるんぐるんに巻いて顔をそこにうずめている仁王が居た。寒さで肩が上がっていて面白い。半分出た顔は寒さからか元からの白さなのか、雪のようで真っ白で心配になったが仁王は至って普通にしているから大丈夫なんだろう。


「今日寒すぎない?」
「本当にのう、12月でこんな寒くて2月とか生きていけるんじゃろうか…」
「本当だよね」
「ところでお前さんのマフラーあったかそうじゃのう」
「うん、あげないよ」
「ピヨッ」


私の隣を歩く仁王の両手はこれまた私と同じようにコートのポッケにしまわれていて、肩にかけた鞄を持ち直した時に出てきた手に思わず二度瞬きをした。


「…なんじゃ、そんな見つめおって」
「あっ、いや」


不思議そうな顔をした仁王をよそに自分の鞄からあるものを取り出す。それを仁王に差し出せば、ますます不思議そうな顔をする。


「はい」
「なん」
「ハンドクリーム」
「それはわかっちょる」
「仁王、手痛くなっちゃうよ」


仁王の手を引いて手の甲にチューブから中身を出す。ひんやりとした感覚に仁王が嫌そうな顔をして面白くなった私は意地悪だ。


「めっちゃ女子の匂いがするのう」
「いい匂いでしょ、好きなの」


甲に出したまま仁王が動く気配がないから、そのまま手に馴染むように塗ってみた。仁王の手は私が思っていたよりカサついていてゴツゴツしていて、それでいて大きかった。寒い空気に花の匂いが広がって、仁王の手に私の手は小さくて塗るのに一苦労。夢中になっていたけれど、急に自分が恥ずかしいことをしてる、と自覚して思わず仁王の手を離した。

謝るのもなんだかくすぐったくて、思わず仁王にハンドクリームを押し付けた。


「えっ、なん」
「…誕生日、プレゼント」


苦し紛れの言い訳と用意してたものとは別のプレゼントを押し付けて放った言葉は冬の朝に溶け込んだ。仁王の反応が無くて顔を上げてみたら、パチクリと瞬きをした仁王と目が合った。


「覚えてたんか」
「…なにそれ、有名だよ」


嫌がられたかな、どうしよう、と思っていたら真っ白だった仁王の顔が赤くなっていてそんな不安は向かい風と一緒に飛ばされてしまった。ハンドクリームを見つめる仁王に私が伝えたい言葉は、一言。



「お誕生日おめでとう!」



20151205
一日遅れてしまったけれどおめでとう仁王!普段は自分から話しかけたりしないけど、気になるあの子に早くおめでとうを言って欲しくてつい話かけちゃった、とかだったら萌える。