ブンちゃんブンちゃん、
私の前でチョコレートをゆっくりゆっくり混ぜながら、ブンちゃんは短く返事をした。ブンちゃんの目線の先には溶けたチョコレート。ビターより甘くてミルクより苦いチョコレートの香りが鼻を掠めて、力がふっと抜けた。


「チョコレート、いいにおい」
「もうちょい我慢な」


ブンちゃんはそういって溶かしたチョコレートに生クリームを加えて、また混ぜる。深い茶色が白が混ざって淡い茶色になってブンちゃんはちょっと顔が綻んだ。それを見て私もなんだか胸の中があったかくなった。ブンちゃんといると、いつも起こる不思議な現象。ブンちゃんは私の気持ちを明るくしてくれる天才。


きっとボウルの中のチョコレートは、ほっとするほど甘くて、少し苦い。そんな不安定さが今の私達に似てるかもしれない。


「ブンちゃん、」


名前を呼んで、そのあとすぐになんでもないって言ったら、ブンちゃんは困ったように笑った。

寂しい、なんて言葉を口にしたらきっともっと困らせちゃうと思って、言えずに下を向いた。自分でもよくわからない、不思議な感情。なんだかね、幸せなのに、ふとどうしようもなく寂しくなるときがあるの。チョコレートを混ぜ終えて型に流してるブンちゃんがとってもいとおしくて、でもたまにいきなり不安になるときがあるの。


「名前、」


型に流し終えたチョコレートを冷蔵庫に入れたブンちゃんがこっちにきた。頭を撫でる大きな手が心地好い。揺れた赤い髪からふわりと甘い匂いがしてそれだけで酔ってしまいそう。


「固まるまでの一時間、どうする?」


ニヤリと笑った顔は、確信犯。


「私が欲しいもの、わかってるでしょ?」


チョコレートが固まるまでの一時間は私のものよ。

寂しさも不安も全部甘さに混ぜて溶かしてしまえばいい。

優しい時間とあなたにキスを
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title by ゼロの感情