仕事からの帰り道、ハイヒールでパンパンになった足を引き摺りながら帰路に就く。帰る場所と言っても自分の家ではなくて、下手したら三食インスタントなデンジの家なわけだけども。イケメンジムリーダーと呼ばれているデンジなのだが実際はコタツにこもるかジムの改造しかしていない気がする。

なんでそのデンジが私の恋人なのかは全くの謎である。特に告白もされていないし、幼なじみであるオーバがデンジに彼女ぐらい作れと怒った時にたまたま私が隣に居たから、「コイツが彼女」と言っただけかもしれない。それだけでも、その時頭をクシャクシャ撫でられた事で私はいとも簡単に恋に落ちてしまったのである。もしかしたらずっとずっと昔から私はデンジの事が好きだったのかもしれない。


そんな事を考えていたらデンジの家に着いた。食材はもう買い溜めて冷蔵庫へ突っ込んであるから問題ない。ただいまーと合鍵で部屋へ入ってハイヒールを脱ぎ捨てる。ひんやりとするフローリングが気持ち良い。


「あ」
「ただいまデンジ今ご飯作るね」


あ、と言ったデンジは珍しく何処かへ出かけていたのか、これから出掛けるのか、ジャケットを着てマフラーもしていた。そして何よりコタツにこもっていない。


「あれデンジどっか行くの?」


コートとスーツを脱ぎながらデンジに尋ねれば、デンジはうーとかあーとか曖昧な言葉しか返さない。え、なに そう思ってデンジに近寄れば、ぐっと手を引かれた。そのままデンジはさっき脱いだばかりの私のスーツとコートを引っ付かんで玄関へ歩き出した。


「ちょっと、」


なにどこ行くの?外寒いよ、そういってる私を無視してデンジはスーツとコートを押し付けて靴を履いている。不思議に思いながらも私もハイヒールを履いて外へ出る。自然に手を繋いでそのままデンジは歩き出した。ずっと無言。わけがわからない。


「灯台?ねえどうしたのデンジ」
「ライチュウ、レントラー 頼む」


そう言ってモンスターボールからライチュウとレントラーを出したデンジは何故かドヤ顔で二匹に指示を出した。

デンジの指示に従って可愛らしい二匹は何処かへ走っていった。一体何が始まるのやら。


「デンジ、」
「黙ってみてろ」そう言った瞬間、一気に辺りが眩しくなって思わず目を瞑った。目をそっと開いてみれば、はっと息をのんだ。


「…きれい」


暗かった住宅街に光が灯って、そこには光の海が出来ていた。


「これ、デンジが?」
「ああ」


すげーだろ そう言って肩を引き寄せるデンジに寄り添ってしばらくデンジお手製のイルミネーションに見入っていた。街に広がるキラキラ光る電球にただ感動していた。


「いつから準備してたの?」
「内緒」


あのコタツに引きこもっているデンジがいつの間にこんな大規模な事をしていたんだろう。


「ねえこれ私のため?」
「…ん」


普段好きとも言われないし、一緒に居るのが当たり前になっていたからちゃんとデートもしたこと無かったし、恋人同士と言えるのか不安な関係だったけれど、これを見て凄く嬉しくて思わずデンジに抱き着いた。デンジは強く抱き返してから私をはなして大きく深呼吸をした。


「名前、……結婚してくれ」


いきなりの衝撃発言に思わず固まった。それから鼻の奥がツンとして目に涙がたまったのがわかった。肩にあるデンジの手が震えるのが伝わって私まで緊張してきた。「名前が好きだ、愛してる」


いつもはこんなこと絶対言わないのに、ずるい。


「私も、デンジが好き」


ぼろぼろ涙が止まらなくて、デンジの顔が霞む。視界に入る光がより綺麗に映ってなんだか幻想的に見えた。


「私と、結婚してください」





デンジがはめてくれた指輪を光に当ててキラキラ遊んでいたら、ぶつんと真っ暗に戻った。あまりに衝突だったのでデンジと二人でぱちくり目を合わしていたら、ライチュウとレントラーがオーバと共にニヤニヤしながら戻ってきた。


「え、なんでオーバが居んの」
「気にすんなって!名前!」


いや気にするわ。チッとデンジが舌打ちをするのが聞こえた。ライチュウとレントラーはキャッキャッとデンジと私の周りを楽しそうに駆けていた。


「ったくーデンジもロマンチックなことすんじゃねーの!」
「うるさいオーバだまれ」
「顔赤くなってんぞ!」


バシバシとオーバはデンジの背中を叩いたあと、デンジにナギサシティの人達が優しくて良かったな、と言った。もしかして、このイルミネーションはナギサシティの人達の協力があったのか。明日質問攻めに合うかもな、お礼もきちんと言わなくちゃ。それにしてもオーバはいつから聞いていたんだろう。


「さて俺は先に戻るとするか、ライチュウたちもここは一緒に行こうな」
「ニヤニヤすんなアフロ」
「はいはい。デンジ、お前大切にしろよ〜」


「アイツいつから居たんだ…」
「デンジ、」
「なに」
「ありがとう」
「…あー、いや…こちらこそいつも、…ありがとな」


そう言って頭をクシャクシャ撫でてくるデンジに、愛しさがこみ上げた。

111225
title by チョコフォン