雪男を苦しめることをしてしまったのだ。
だから、雪男は手紙をくれないし、会いにもこないのだ。

苦しい・・・。

自分が巻いた種だとしても、雪男に嫌われたことが苦しくて辛くてしかたない。
それどころか、雪男は養父と仲違いをしている。
志摩は関係ないと言っていたけれど、そんなはずがない。

謝りにいけたらいいのに・・・
手紙をまた書いてみるか?

いや、送り主を見たら読まずに捨てられる可能性もある。
でも、どうしても謝りたい。

そして、俺のことは忘れてくれと、そして養父さんと仲直りしてくれと言いたい。

でも、男娼である俺は、この正十字遊郭から出ることは絶対に許されない。
それどころか、この祓魔楼を出ることすら、外での仕事がない限り無理な話。

雪男…。


雪男・・・。



お前にひと目会いたい。

謝りたい・・・そして、出来ることなら。
でも、それは望んではいけない。

だから、せめて・・・・・。





店の玄関から見える外と、玄関の内の間には、俺には超えられない見えない高い高い壁がある。
見えない死線がある。

まだ子猫丸がいなかった頃に、脱走した遊女がいた。

その遊女は、当時の若衆に捕まって連れ戻されたけれど、姿を見ることはなかった。
後になって、酷い拷問の末に亡くなったのだと聞いた。

元々病を患っていたので、彼女の近い将来は変わらなかったかもしなかったけれど、そんな女にそれだけ強い拷問を加えた若衆が信じられなかった。

今はその若衆たちはもういないけれど、女将が変わっていないのだから、結局同じことだ。

超えられないその死線が、憎らしくってため息を落とした。


朝日が昇る。
今日は、一人で食事を摂ろうと思った。




食事を受け取って、自室へと持っていく。

「いただきます」

誰もいないのに、そうちゃんと言ってしまうのは習慣なんだろう。

一人食べる中、頭の中は志摩の話ばかり。
どやったら、雪男に会えるのか。そんなことばかり考えてしまっていた。
考えたところで無駄なことなのに・・・。

その時、志摩の言っていた言葉が頭をよぎった。

『自分で確かめてみぃ』

そうだ、確かめに行くだけならいんじゃないだろうか?
これは脱走じゃない。
俺はちゃんと此処へ帰ってくるのだから。


そう思ってからの行動は早かった。
いつもは(痴情後で体がだるいことが多いので)ゆっくり食べてしまう食事を、胃に流し込むように入れると食器を厨房の流しに置くと、一目散に玄関へと走った。

この時間は、みんなが食事中で燐がいなくなったことにすぐに気づかれないと思ったからだ。
お願いして、出してもらえるはずもない。
下手に言って警戒されたら、出るに出れなくなってしまう。
今日のこれが一回きりのチャンスだ!!




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