手のひらを口元に置き、その長い中指をねっとりと舌で舐め、その様をこれから成す行動の前触れとして燐に見せ付ける。
涙目になりながら、うつ伏せで後ろ手に拘束されたままの燐は、その様を見て抵抗を無くした。
明らかにいつもと違う様子の弟に、『これ以上抵抗すると本当に無茶をされる』と本能がそうさせたとも言える。


「前から使いたいと思っていたモノがあるんだ。コレを使うから、最後まで頑張ってね」


舐めて見せる指とは反対の手で持ちあげた物を見て、一瞬息が詰まる。
見るからに痛々しく無数の棘がついおり、大きさも太くて今までに使われてきた物よりも遥かに大きく、そのくせ外観には不釣り合いな透明感あるピンクのバイブ。


「そ、そんなモノ、どこに隠してあったんだよっ」

「そんなに焦らなくても、ちゃんと堪能させてあげるから」


そういうと、そのバイブは視界から消えて、口元だけの笑みを浮かべると、舐め取った中指を遠慮なく燐の中へと突っ込んだ。


「痛ッ あぁぁあぁあ―ッ」


抵抗すれば自分が傷付くだけだと知りながら、本来出る場所であるそこをこじ開けて逆行して来る事で、切られるような痛みが生じるのは当たり前のことだ。
つい、痛みと衝撃に身を硬くしてしまう。
普段、そこまで身を硬くしていると、一呼吸置いてそれなりに慣らしてくれるが、今日は違った。
燐のことなどお構い無しに、ゴリゴリとその節の度合いが強い指を入れ込んでは抜き差しを繰り返している。


「ゆき、痛っ、抜いてっ、抜いっア゛ッ」


制止する声が届いているはずなのにその行為は止まらず、知っているはずの燐のイイ所を突くわけでもなく、指が一本追加された。
雪男の指が出入りする所から臀部へと広がる身が裂けるような痛み。
これでは、まともに呼吸することも出来ないけれど、そんなことは気にしていられない。
脳内が『激痛』の一色になり、ただただ恐怖心だけが募っていく。

雪男とこういう関係になった当初は、お互いに慣れずに痛みを伴う営みだったけれど、最近では雪男の方が勝手が分かるようになり、また燐も自分では認めなくないけれど、雪男が与える行為に敏感に感じるようになっていた。
だからこそ、分からない。
痛みしか感じられないっていうことは、雪男が意図的に痛みしか与えていないことを意味している。



―――どうして・・・



タイミングを窺うことも無く、制止しても続けられ、問い掛けは受け流される。
自分を徹底して無視した行為に、心が潰され、言葉には出来ない悲痛な叫びが、涙となって後から後から出てくる。



「大丈夫?」

優しいトーンの声と共に、ふわりと頭に乗せられた掌の感覚に、その先にある人物を見ようと顔をあげる。
そこには、後ろで燐の中を無理矢理こじ開け続けているはずの弟の姿だった。


「ゆき、なん…あ゛っ、痛っ、やぁあッ」

「ちょっと、やり過ぎっ。兄さん、大丈夫?痛いよね?」


頭に置かれた掌の指が、優しく優しく左右を行き来する。
かつて、落ち込んだ時や、大怪我をした時に慰めてもらった養父の手の様に。
目の前にいる雪男の制止する声に、全く反応することなく、後ろにいる弟は止まる様子はない。
後ろを犯し続けられている痛みと、頭に感じる優しさのギャップに心がついて行けず、再び涙がこぼれた。

目の前の雪男が、手はそのままに、膝を折って燐の顔に近づき、困った表情を浮かべて説明を始めたので、痛みに顔を歪めつつも、視線は目の前の雪男に合わせた。 


「ごめんね、兄さん。計画通り二人に分かれたのはいいものの、認めたくはないけれど、どうも性格まで綺麗に分かれてしまったみたいなんだ」


燐は顔を歪め、また両目から二粒の涙を零した。


「祓魔師が万年人不足なのは知っているだろう?それを解消する為に、一人が二人になれないかと思ったんだ。思考も能力も本人のままに2分の1の役割しか果たせないものでじゃなくて、1人として動けるような分裂を期待して。マウス実験では上手くいったんだよ」

「なんだよ、その言い方。まるで大失敗みたいな言い方じゃないか」


後ろの弟が、いつも以上に低い声で前にいる雪男に口を出す。
異物を外へ出そうと燐の体が反応し、ようやく腸液が分泌されてきたのを見計らって、指を増やそうと一旦燐の中へ入っていた指を全て抜き去った。


「ひぁァッ…や、やぁぁんっ、痛ッ、いたぁ、も、やめッ」

「やめるわけないだろう?兄さん。兄さんは痛いのが好きなんだから」


いやいやと首を小さく振る燐を、愛玩動物を見るかのように目を細めて、追加された指ごと中へ強引に進めていく。
もう一人の雪男は、そんな愛しき兄をぞんさいに扱う自分の分身を見て、ため息をつく。


「はぁ…困ったなぁ。ねぇ、傷つけるなんてマネしないでよ。そんなの見たくないよ」

「どうせすぐ塞がる。兄さんだっていつもそう言っているじゃないか」


確かに、私生活でも任務でも、燐は悪魔の再生力を持っている体を過信して盾に使うことが多々ある。
そのことに忠告すると決まって『大丈夫、すぐに治る』と言うのだ。
傍にいる側を心配させまいとする兄さんのその優しさは、裏を返せば、その心配を無碍にしている。
心配なんてしなくていいなんて、なんて残酷な言い分なんだろう。
常々兄さんの優しさに、そう思ってきた雪男だけれど、今回実験で分裂されたことで、その気持ちを顕著に彼が口にしている。
僕の方は、兄の優しさを無碍にするみたいで、そう思うことすら罪悪感に感じているというのに…。


「兄さん、ごめんね」


酷いことを言っている『僕』の言葉への謝罪。
痛みで苦しそうに顔を歪め、涙を零す兄を見て、心が痛たむ。
けれど、彼の言葉は、彼の行動は、普段『僕』が心のどこかで抱えているコトなのだ。

時々『壊してしまいたい』と言う感情になる時もある。
それと同時に『我が身を粉にしても構わない』と思う程に愛おしく思っているのも事実。
全てを否定できない。


いつも以上に優しさを込めて口付けをする。
これは『僕』の謝罪よりも、今の僕の感情の方が大きい。
本当に、愛おしくて愛おしくて仕方がない。


 彼
「僕の代わりに、僕が優しくするからね」






それから、二人の雪男に同時に攻められ続け、何度も何度も射精し、完全に気を失うまで続けられた。
一人は荒々しく、強引に、何もかもが奪われて粉々にされるかと思うほど求められた。
もう一人の方は、触れ方から発言など全てにおいて、優しく、甘く、奪われて行くものを全て補うかのように与え続けられた。
共通しているのは、普段の雪男よりも度合いが二倍だったこと。
目を覚まして、周りを見渡すと、雪男のベットには元に戻った雪男がぐったりした様子で横たわっていた。
二人同時に求め続けられた体は、いつも以上に重く、けれど二人に分かれあんな行為を続けた弟が気になり、身を起こした。


「雪男、大丈夫か?」


声がしゃがれていることに気が付く。
休みなく交互に攻められていたのだから、仕方のないことかもしれない。


「兄さんこそ」


口を開いた雪男の顔は、唇を小さく動かすだけで、他は動かせないと言うように、疲労の色が濃く出ている。
顔色も幾分か青いように見えた。


「俺は…別に」

「なら、よかった…」


そう言い残して、雪男は眠りに付いてしまった。




実験は、一人を思考や能力を分割することなく一人の人間として二分に出来たのは成功だったらしい。
けれど性格が分離してしまったのは計算違いだったと、苦笑いを浮かべていた。
そして、課題として、と続けた。


「同時に活動した後、元に戻った時の疲労が二倍じゃ話にならないよね」


結局ベットから丸一日起き上れないまま、夜飯まで俺に介助されながら食べているはめになった雪男。
俺は、疲労二倍で助かったけどな…。









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あとがき


大変遅くなりました。
5000HITお礼アンケート第三位の雪雪燐です。
1万HIT超えているのに、今頃ですみません。
さて、アンケートには雪男が二人いることについて、『メフィストの悪戯』『未来から来た雪男』とありましたが、その課題だと話が長くなりそうで、実験って形で進ませて頂きましたが、如何だったでしょうか?
ぇ?甘い方の雪男が攻めてない?
うん、黒櫻に甘いR18はムリでした。スミマセン
まじ、甘いR18書ける人、尊敬します。



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