突然ですが。
どうやら私は風邪を引いたようです。



珍しくノボリさんより早く目を覚ました私。
起きて早々、頭痛・吐き気・寒気・関節の節々が痛い、という風邪の症状のオンパレードが私を襲う。



どうやら体の変調のせいで起きてしまったようだ。




「…この世界に来て初めて風邪引いたかも…。」




この世界でたくましく生き延びた私は、以前よりも遥かに強靭な肉体と精神を手に入れてしまった。
おかげでナイフ一本あれば無人島でも自給自足の生活が送れるだろう。(いやこれは言いすぎた。)



感染源はわかっている。
昨日、口に手も当てず私の目の前で盛大なくしゃみをぶちかましてくれたクダリさんだ。



「ごめーん。」とヘラヘラ笑いながら謝る白い悪魔の顔が脳裏に浮かぶ。



あの野郎…ロクなことしやしねぇ。



そんなことを考えている間に胃から何かがせりあがってくる感覚に私は焦る。




「やばい…吐きそう…っ…。」




このまま布団でぶちかますわけにはいかない。
就寝時も日頃の真面目さが見て取れるような寝乱れのないノボリさんを起こさぬようそぅっと布団から抜け出すと、私は洗面台へ向かった。







今日もきっちり同じ時間に目を覚ましたノボリは、いつもある筈の体温が隣にないことに気付いた。
ノボリより朝の遅いなまえが掛け布団をめくった状態で眠っているのだが今日は早く起きたらしい。




「なまえ様、今日はお早いですね…。」




いつもならなまえがめくった布団を元に戻し、寝顔を小一時間ほど見つめてから起き上がるノボリだが今日はその日課がなくなるようだ。
(ちなみにこの日課をなまえは知らない)



今頃なまえ様は朝食の用意でもされているのでしょうか…。



寝巻き姿で台所へ向かおうと扉を開くノボリの耳に、突如なまえの呻き声が聞こえた。



驚いて耳を澄ますとそれはどうやら洗面台から聞こえているらしい。




「なまえ様!?どうなさいました!?」




なまえの身に何が起きたのかと足早にノボリは洗面台へ方向を変えるとぶつかるように扉を開いた。





「あ、ノボリさん…お、おはようございま…うっぷ、」



「無理して挨拶なさらないで下さい!」




そこには洗面台にしがみつき青白い顔をしたなまえがいた。
驚いて上擦った声のノボリが、げえげえ言うなまえの背を摩る。




「すみませんノボリさん…。」




起きたてで胃の中のものなどないに等しいのに吐くのは相当辛いだろう、なまえは嫌な汗をかいている。



一体なまえの身に何が起きたのか…。
驚いたことに「風邪」というワードが出てこないノボリは内心ひどく混乱していた。



最近まで旅人として野生的に生き抜いてきたなまえは基本的に丈夫だ。



以前なまえが突然「私、ボルトロスをゲットしてきます!」と言って一週間家を空けたことがある。
(なんでも電力源としてマコモにプレゼントしたいとか)
暴風雨の中をボルトロスを追いかけまわし、夜はテントを張って出現ポイントを待ち伏せする生活を続けること一週間。
ずぶ濡れで笑いながら「ゲットできましたよノボリさん!」と帰ってきたときはノボリも随分と驚かされた。



そんなことがあったため、なまえの弱った姿を初めて見るノボリはどうしても「風邪」となまえが結びつかない。



そしてそんなノボリの脳みそが弾き出した結論は…。




「…なまえ様。おめでとうございます…。」



「はぃ?」








「……ご懐妊なされたんですね!?」







「………はぃい!?」




なまえは吐き気も吹き飛ぶほど驚いた。
完全に言い切られてなまえも一瞬「私、妊娠した!?」と思い込みそうになったが、そもそも清い間柄の2人に子供ができるわけがない。



まさかノボリさんの暴走もここまでくるとは…。



呆れつつもノボリの暴走には慣れたもので、なまえは割と落ち着いて「これは違いますって、ノボリさん。」と言うのだが。




「!? ではどこのどいつとの間に設けた子供ですか!?」



「ノボリさん!一旦子供から離れましょうか、ね!?」




予想以上に根深い勘違いのようだ。
そろそろ自力で自分の暴走に気付いてくれないだろうか。
そんななまえの願いも空しく今だ暴走中のノボリは「ではどういうことです!?」と絶望的な顔で言う。



風邪をひいて体調が悪いというのにノボリのこの暴走。
迫る吐き気をなんとか堪えつつ「だから、これは昨日クダリさんに…」



風邪うつされたんです。



と言い切らぬ内にバンッ!と扉が開かれ






「そう、その子の父親は僕!」



「ク ダ リ さ ん!!」





と声高らかにやって来たのは感染源クダリ。
ずかずかと洗面所に入るなり「ごめんねなまえ。父親である僕が一番におめでとう言ってあげられなくて。」などとのたまう。




「話がややこしくなるのですっこんでてくれませんかねクダリさん!」




いったいどこから話を聞いていたのやら、クダリが普段浮かべている笑みとは違ったニヤつき笑いは明らかにこの状況を楽しんでいる。
案の定クダリの言葉に暴走が加速したノボリが「クダリだと!?」と叫んだ。




「くっ…わたくしを差し置いてなんということを…もうこの際誰の子でも構いません!わたくしが責任取ります、結婚いたしましょう!!」




随分と見境のないプロポーズであった。




「えぇ!?そんな大事なセリフをこんなところで使わないで下さい!!」



「僕が責任取るー。」



「黙ってろ!!……う、吐き気が…っ…。」




散々騒ぎに騒いだおかげでなまえはもう何度目かの吐き気に、洗面台に突っ伏した…。





「なまえ様。お粥をお作りしました。宜しければどうぞ召し上がってくださ…」



「はいお口開けてー。」



「あぢぢあっつい!!熱いんですけど!?」



「!?(その手があったか!)クダリ、お匙をよこしなさい!」



「ヤダよ僕が思いついたのに。なまえ、僕りんご持ってきた。はいアーン。」



「丸ごとじゃねぇかせめて皮ぐらい剥け!!」



「…クダリ…ちょっとこちらへ。話があります。」



「包丁片手に持ってる人と話すことなんてない。」



「り、りんご剥くんですよね!?だから包丁持ってるんですよねノボリさん!」




お願いです…私を1人にして下さい…。






+++

夢を見る!」のくろこ様から相互記念にといただきました!

なんという暴走サブマス…!夢主さんが不憫ですが…いつものくろこ様宅の三人で素敵です…!
しかしクダリんが真っ黒です、白いのは服だけという……

相互ありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!





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