5

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 それからの日々は、端的に言えば、僕にとっては地獄だった。
 ただ無視されるだけならいい。喋らない僕も悪いし、意思疎通出来ないのは自分にも責任がある。っていうか、僕が喋ればいい話だし。でも、無視以外にある嫌がらせが酷かった。
 流石に、あの時みたいに全裸にされて写真を撮られたりするようなことは無かったけど、靴を隠されたり、物を勝手にゴミ箱に捨てられたり、通りすがりに知らない人からどつかれたり、机も定期的に消える。
 それでもまだ耐えられた。
 靴は使い捨てのスリッパを買ったし、休み時間はなるべく出なければ誰かと遭遇することもなかった。机だって、準備室から補充すればいい。駄目なのかもしれないけど、机を捨てているのは僕じゃないから、そこまで罪悪感は湧かなかった。
 それよりも嫌だったのは、誰がやっているのがわからないことだった。いや、わからないというわけじゃない。
 少なくとも、直接手を下してきたりする人は何度か見た。でも、それがいつも違う人なんだ。
 クラスの色んな人が、僕に向かってこういうことをしてくる。
 当たり前みたいに、笑って。
 ゴミ箱にでもなった気分だった。見知らぬ人に頭を叩かれたり、掃除しておいてね、と押しつけられたり。そういうのが重なる度に、胸が重くなる。
 休み時間中は、いつもずっと寝たふりをしていた。
 化野とは、結局一言も話していない。僕から話しかけないからかもしれないけど、話しかけて誰だよ、って言われると思うと、胃がキリキリして、言えなかった。
 化野自体はいつもと変わらず、日々を過ごしている。まるで、元から僕なんて存在しなかったみたいだ。


 そして、そんな地獄の様な日々が続いたある日、落書きだらけの机の中に、悪戯されて薄汚れた教科書を入れると、ぐちゃ、という奇妙な感触があった。
 教科書が奥まで入っていかない。

「…………?」

 なんだろう、なにか詰まっている? そう思って中を覗いた瞬間、僕は大きな音を立てて、後ろに倒れた。

「…………っ!!」

 ミミズがいた。
 うねうねと、僕の机の中でその身を蠢かせて、何匹も机の中から溢れてきた。
 別に、ミミズが嫌いというわけじゃ無いけど、こんな風に机の中に入ってるなんて思ってなかったから思わず飛び退いた。
 ミミズを見た女子から、悲鳴が上がる。

「キャーーー! やだ、何?」
「キモーイ!」
「…………っ」

 慌てた僕は、出来ないくせに弁明しようと下がった瞬間、後ろの席の化野にぶつかる。途端に、普段騒がしい教室が、水を打ったように静まりかえり、僕に注目する。

「いって」
「……っ」
「何すんの」
「…………ぁ」

 僕は、小さく頭を下げた。ごめん、とも、なんで、とも何も言えず、ただ無言で頭を下げた。瞬間、大きな音がした。
 ガタン、という音に、今度は全員の視線がそちらへと集中する。
 僕も、同様に視線を傾けると、音の震源地は西園だった。椅子を倒して立ち上がっている。
 がしがしと頭を掻いて、苛んだように、低い声を絞り出した。

「あ〜〜〜〜〜〜〜……、……やっぱ無理だわ」

 そう呟くと、西園はずかずかと僕の前まで歩いてきた。床に座り込んでいる僕を見つめて眉間に皺を寄せると、後ろの席に居た化野を振り返った。

「大志、お前いい加減にしろ」
「は? 何が?」
「お前がしてること、ガキと変わんねえっつってんの」
「あのさー、セイが何言いてえのか、よくわっかんねえんだけど。俺なんかした?」
「はぁ? お前なあ……!」

 化野に食ってかかろうとした西園の袖を、僕は慌てて引っ張った。

「……っ」

 西園と目が合ったので、僕は首を横に振る。
 だ、駄目だ。喧嘩はよくない。
 西園は、僕と化野が喧嘩をしたから、化野がこんな無視していると思ってる。
 でも、この嫌がらせに関して、化野は関係ない。
 化野が僕にしているのは、せいぜい無視というか、関知しないことくらいで、それ以外のことは、他の人たちがやっていることだ。全然知らない人が、僕の机に悪戯をしているのを見たことがあるし、今まで暴力を振るってきたのも全員違う人だ。
 それに、僕を庇うせいで、西園に被害が及んだりするのも避けたかった。また、昔みたいに、矛先が西園に向いたら、と思うと、たまらない気持ちになる。
 化野と西園は、僕と違って友達同士だし、喧嘩はしないでほしい。
 口には出せなかったけど、西園の手を強く掴んで止めると、西園は舌打ちしながら、化野から目線を外した。

「……小波、机からそれ出すぞ」
「…………」

 からかいも嘲笑も飛んでこない。皆が黙って西園に注目する中、西園は僕の机を持ってドアへと歩いて行く。

「セイはそっち行くの?」

 化野の問いに、西園は答えなかった。
 西園が居なくなり、ざわめく教室の中、僕は慌てて西園の後を追いかけた。

「に、西園っ」
「あー、お前ミミズとか平気? 俺はキモいと思うけど一応触れる。まあ素手はちょっとアレだけど。割り箸とかねえの?」
「あ、へ、平気……じゃなくて、僕、自分で取り出せるから、大丈夫だよ、机、ありがとう……」
「…………」

 僕の言葉に、西園はじとりとした目で僕を睨みつけた。その視線に、お面越しに少し焦る。な、何か変なこと言ったかな。
 でも、本当に、今の僕に関わると西園も巻き込まれちゃうから、いいのに。大丈夫だし。
 けれど、僕に机を渡そうとしないまま、西園は僕の前を歩いて行く。

「ど、どこ行くの?」
「だから、ミミズ出すんだって。その辺にゴミ箱あるだろ」
「あ……じゃあちょっと待って……」

 と、僕は西園を渡り廊下の方へと誘導して、そのまま外に出ると、花壇の近くにおいてあったバケツに水を入れて持ってきた。

「何すんだ?」
「……ひ、干からびて死んじゃうから」

 僕は机の中で蠢くミミズを、浅く水を入れたバケツの中に一匹一匹摘まんで入れていく。
 うねうねと身をくねらせるミミズに、西園は若干引いていたけど、別に虫は別に怖くない。だって、悪口も言わないし、物を隠したりすることもないし、怒らないし、こちらが触れなければ攻撃もしてこない。
 ミミズだって、きっとこんな所に入れられて迷惑だったと思う。
 教科書を入れたせいで、何匹か死んでしまったのが、申し訳ないくらいだ。
 ……こんなことに巻き込んじゃってごめんね。

「…………それ、どうすんの」
「あ、む、向こうにね、湿った土があるから、そっちの方に返すよ」
「……ふーん、……お前っていつもそうなの?」
「?」
「虫好きなの? あんまイメージねえけど」
「別に好きなわけじゃないけど……、あの、でも、あんまり殺したりしたくないよね……」

 偽善と言われればそれまでだけど、殺す必要のないものを殺すことはないと思う。
 全部のミミズをバケツに入れ終わると、僕はバケツごとミミズをじめじめとした、植物のある湿った土のある場所へと返した。蠢くミミズは、もぞもぞとした動きを繰り返しながら、やがてどこかへと行ってしまった。
 バケツを元の位置に戻し、次は机の中を清掃しないと、と今度は中の教科書を出そうとしたら、西園がぼそりと呟いた。

「悪かったな」
「…………?」
「助けてやんなくて。お前がこういうことされてんの、知ってたのに。……お前が、変な奴じゃ無くて、フツーに……優しい奴だってことも、わかってたのに」

 その言葉に、僕は目を丸くした。
 悪かったも何も、西園は何も悪くない。
 第一、関わらない方がいいと言ったのは僕の方だ。だって、こういうことされてる人間と、関わりたくなんてないだろう。普通は、そうなのに、西園はわざわざ助けてくれた。
 西園は僕を優しい、なんていうけど、そんなことはない。僕は、自分のことを考えて行動しているし、勝手に準備室から机も取るし、今回だって、自分が招いたことだ。
 それに、僕なんかより、西園の方がよっぽど優しい。

「……大丈夫だよ。あの、しょ、小学生の時も、こういこと、されたことあって、その、慣れてるというか……」
「は?」
「だ、だから、大丈夫。全然平気、こっ、こういうのは、いずれなくなると、思うし……」

 声が震えてたかもしれない。
 でも、大丈夫だ。大丈夫。
 僕は何度も自分に言い聞かせる。高校生活なんて、長い人生の内の一握りでしかない。小学生の時、もう死んじゃいたいって思ったこともあったけど、その後の人生で楽しいことや嬉しいことは沢山あった。これだってそうだ。
 きっと、ずっとこんな気持ちでいることはないんだって思うと、もう少しだけ頑張れる。そうやっている内に、時間は過ぎて、記憶の一つになる。
 だから大丈夫。
 大丈夫なのに。西園は声を荒げて言った。

「いや大丈夫じゃねえだろお前!」
「…………っ」
「っあのさあ、もうこの際言うわ、お前、そのお面で表情隠してるつもりかもしんねえけど、結構わかりやすいから」
「え…………」
「行動とか、仕草とか……、そういうのずっと見てるとわかんだよ!」
「ず、ずっと見てたの?」
「…………見てねえけど! ぱっと見でわかんだよ!」
「…………」

 そ、そうなのか? 僕は、そんなにわかりやすいの?
 慌てて自分のお面を抑えた。今まで、この狐面をつけることによって、全然表情は悟られないし、それで助かったと思ったことも何度もあったけど、全部筒抜けだったってことなんだろうか。うわ、なんか、急に恥ずかしくなってきた。
 かあ、と再び顔に熱が集まると、西園が口を開いた。

「ほら、また赤くなってる。耳が赤ぇからわかんだよ……」

 と、僕の髪の毛をかきわけ、耳へと触れてきた。
 すり、と親指と人差し指で挟んで、耳たぶをさすられた。しかし、はっと何かに気づいたように、西園は慌てて僕の耳から手を離す。

「……わ、悪い、勝手に触って」
「…………?」

 別に、耳を触られるくらい、どうってことはないけど。
 ……そうか、僕、わかりやすかったんだ。じゃあ、今まで大丈夫だって思ってたけど、西園が大丈夫じゃないって言うなら、ひょっとしたら大丈夫じゃないのかもしれない。
 そう考えた瞬間、今まで張り詰めていた糸が、プツンと途切れた気がした。

「…………っ」
「うおっ!? ど、どうした」

 その場に蹲って、しゃがみ込む。
 大丈夫。
 大丈夫。
 大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。なんともない。こんなの大丈夫。
 ここ数日、呪文の様に言い聞かせてきた言葉は、僕の中で確かに馴染んでいたはずなんだ。
 物を隠されても平気だよ。落書きされても、殴られても、閉じ込められても、水をかけられても、机にミミズを入れられても、大丈夫。死んでないから大丈夫。
 ネットに写真流されなかったから大丈夫。
 全然大丈夫!
 だって、もっと酷いことが世の中には沢山あるから! もっと苦しい思いをしている人もいるし、もっと辛い思いをしている人もいる。
 それに比べたら、きっと僕はまだマシな方で、だから大丈夫なんだ。
 そう思ってたのに。

「……大志と揉めんの、避けたかったから、俺もお前のこと見ないようにしてたかも。……だから、悪かったな。…………キツかったろ」
「………………っ……」

 大丈夫なのに、西園の言葉はあまりにも優しくて、今まで大丈夫と言う言葉でコーティングしていた僕の心臓に、突き刺さった。

「……あ……」

 ぼろり、と目から涙がこぼれ落ちた。

「あ、あれ? あは……おかしいな……、か、花粉症かも……」

 お面の下から手を入れて、目を擦る。
 西園が一瞬息を飲んだ。やばい、また心配かけてる。迷惑をかけてる。止めなくちゃ。そう思うのに止まらない。大丈夫、大丈夫……。

「…………っ、うっ…………〜〜〜」

 大丈夫じゃない。

「…………ここ、人居ねえから。つか、チャイム鳴ったから誰も居ねえし」

 その言葉をきっかけに、涙腺が崩壊したように涙が溢れてきた。
 本当は全然大丈夫じゃないんだ。
 大丈夫な事なんて、一つも無かった。
 物を隠されたら悲しいし、落書きされたら消してる時に泣きそうになる。殴られれば痛い。閉じ込められるのは怖い。水をかけられたら苦しい。全部全部、本当は大丈夫なんかじゃない。
 ネットで写真が拡散されなくても、不安で夜も眠れなくなる。
 もっと酷い目に遭ってる人が居たとしても、今の僕には関係がない。その人が辛い目にあったからといって、僕が辛くないわけじゃない。
 だって、人間は一人一人別の生き物なんだから。
 誰かと比べて、安寧を得ようとしても、精神は確実にすり減っていく。緊張していた糸が切れたみたいに。傾いていた塔が崩れるみたいに、僕は仮面の下で泣きじゃくった。

「……っう……、あ……っ! も、……いやだ……っ」

 嫌なんだ。
 罵倒も嘲笑も無視も嫌がらせも全部やめてほしい。
 もうしないで。ごめんなさい、と心の中で何度も呟いた。何が悪かったのかはわからない。でも、謝ってこれが無くなるなら、謝りたいと思った。
 誰になんてわからないけど、神様に祈った。だって、学年が変わっても、なくなる保証なんてない。この狐面は目立つから、クラスが変わっても、今同じクラスの人たちがいるはずだ。
 だったら変わらないかも。考えれば考えるほどに、思考は暗くなっていく。だから無理矢理考えを変えたのに。
 明るく、ポジティブに。前向きに捉えて、頑張ろうと思ったのに。隣に座っていた西園が、無言で僕の頭を撫でてきた。
 お面の中で、僕はくしゃりと表情を歪める。目から涙がぽろぽろと落ちていく。しゃくりあげ、声をできるだけ押し殺した。
 辛かった。苦しかった。悲しかった。嫌だった。

 本当は、一つも大丈夫なんかじゃないんだ。

「にっ、西園……」
「なんだよ」
「ごめ、ごめんっ……」
「なんで、俺に謝んの」
「……ぼ、僕、庇ったら、西園まで、靴とか隠されるかも」
「ハァ!? 馬鹿かよ、俺は隠した奴見つけてボコっからいんだよ」
「…………あは……」
「人の心配までしてんじゃねえよ」
「…………う、うん……」

 優しい。
 どうして優しくしてくれるんだろう。
 本当は、助けられたら駄目なのに。今度は、西園に被害が及ぶかもしれないから、断るべきなのに。その優しさがあまりにも暖かくて、僕はしばらく西園の隣で泣いていた。

 それから、ようやく涙も落ち着くと、西園はずっと考え込んでいるような顔をしていた。

「……? どうしたの。あ、や、やっぱり西園も靴とか隠されるのがてん」
「いや、そんなもん別にいいっつの。それより面倒くせえのは大志だよ。あ〜〜〜、あいつマジでガキの頃から変わんねえわ。」

 面倒そうに頭をかいて、西園がため息を吐いた。

「化野がどうかしたの?」
「え、お前……、今の状況わかってんの?」
「……え……、うん……」

 むしろ、どうして西園が化野のことでこんなに悩んでいるのかがわからない。
 化野とは、元の、知り合う前の関係に戻ったみたいなものだ。化野は僕をいじめてくることはない。ただ、助けてくれないだけで、関わらないんだから、いじめられることもない。
 無視されてるといえばそうなのかもしれないけど、そもそもの発端は僕だし、化野が直接僕をいじめてくる訳でもない。
 だから、どうして西園がこんなにも化野のことを言っているのか、わからなかった。

「…………いや、お前大志に無視されてんじゃん」
「それは、そうだけど……でも、仕方ないことだし……、前に佐々木が言ってたけど、元々化野みたいな人気のある人と、僕みたいな奴が仲良かったほうがおかしいから、今が普通なのかなって」
「普通じゃねえわ! アホ!」
「あ、あほ……」
「あ〜〜〜〜〜、もうっ、この際全部言うぞ! お前、大志に告白かなんかされたろ」
「えっ…………。 え……

 唐突に図星を突かれ、僕の体は硬直した。
 な、なんで? なんで急にそんな話が飛ぶんだ? だってここ、別に男子校ってわけでもないし、僕も化野も男なのに。なんでそんな結論が出る!?
 動揺する僕を見て、西園が大きくため息を吐いた。

「見てりゃわかんだよ。んで、お前大志のことフったろ」
「…………」
「いやいい、別に言わなくてもなんとなくわかんだ、幼馴染だし、ああいうの初めてじゃねえから」
「…………あ、の……」
「ついでに言うと、お前らが科学準備室でナニしてたかとかも知ってる」
「…………!」

 顔から火が出そうだった。み、見られてた? あれを西園に?
 今日まで、色んないじめを受けてきたけど、一番の衝撃だった。恥ずかしくて、死んでしまいたい。熱が出そうな程に赤くなった顔は、狐面で隠れてはいるけど、西園曰く、耳が赤くなっているからバレているらしいし、僕は耳を隠して縮こまった。

「ぼ、僕はこれで失礼します……」
「どこ行くんだよ、話してる途中だろうが」
「…………っ……」
「……別に、お前らが付き合ってんならいいと思ったけど、違うっていうし、大志急にあれだろ? あーフられたかなって思うわ」
「う…………」
「つか、フられたからって無視すんのがガキくせえし女々しいんだよ。それに、お前がやられてるのだって大志が指示してるかもしれねえじゃん」
「…………そうなの?」
「さあ、知らねえけど、あいつならやりかねねえなって思うよ」
「………………」

 化野と小さい頃から友達の西園が言うなら、そうなのかな、と一瞬思ったけど、僕は、今まで一緒に居た化野の事を思い出す。
 化野は、僕に優しかった。たまに怖いこともあったけど、基本的に気遣ってくれたし、友達だと思ってた。友達だって言ってくれた。
 あんなことを言わなければ、今だってそうしてくれていたのかもしれない。

「……あ、化野は、そんなことする人じゃないよ。いい人だし、すごいし……、そんなことに労力使わないよ……」
「いや、結構しそうだけど……。あ〜〜、まあ、お前はそうか……」

 そうだよなあ、と何かを納得したような顔で、西園は頷いていた。
 実際、化野がわざわざ手を回して僕をいじめて、どうするって言うんだろう。憂さ晴らしと言われればそれまでだけど、僕相手にそんなことするかな。
 というか、そんなことをしなくても、土下座しろって化野に直接言われれば、僕は土下座したと思う。僕の答えが化野を傷つけたなら、それについては謝るし。今考えれば、初っぱなから無理って、結構酷かったかもしれない……。

「お前は、大志とどうなりたいんだ?」
「…………?」
「フられてガキみたいなことしてる大志はとりあえず置いとく。お前がうけてる嫌がらせはまあ、……俺もフォローするし。大志が皆に呼びかけるのが一番早ぇと思うけど。最終的に、結局お前はどうしたい? このままあいつと他人に戻りたい? 今後もずっと」

 西園の問いに、僕は言葉を詰まらせた。
 化野と、恋人みたいなことをしたいとは、別に思わない。
 化野のことは、好きだ。優しいし、面白いし、一緒に居て楽しかったことも、嬉しかったことも、沢山あった。でも、この感情が化野の言う「好き」と同じかと思えば、それは違うんじゃないかと思う。
 化野からすれば、わがままだと思われるかもしれないけど、僕は……。

「……と、友達になりたい」
「……あー」
「ふ、普通の、帰り道に、寄り道したり、話したり、休みの日に、遊びに行ったり……」

 その後に、エッチなことをしたりしない、普通の友達がいい。僕は、最初からずっと、そうなりたかったんだ。
 僕の答えに、西園は悩ましげな声を上げた。

「縁切りたいとかじゃなくて?」
「……この学校に入って、初めて話しかけてくれたから……」
「………………」

 そう呟くと、西園は黙り込んでしまった。また、僕は変なことを言ってしまったんだろうか。友達があまり出来ないから、どんなことを言えばいいのかわからなくなっている。

「あの……」
「……要は、大志がお前を好きじゃなくなれば、変わるんだろうなー……」
「…………?」
「お前さ、普通に喋るよな、今。ずーっと喋らなかったのに」
「あ……」
「つか、大志に喋るなって言われる前から、喋らなかったのはなんで?」

 そういえば、そうだ。
 いつもは、喋るのが苦手だから、黙っていたのに、気がつけば西園とは普通に会話していた。普段つっかえる言葉も、それほどつっかえていないように思える。

「あの、僕、喋るのが、結構苦手で……それで、最初から……」
「無口キャラ? でも今普通に喋ってるじゃん」
「……それは、西園が、喋りやすいからかも……」

 はは、と笑いながら言うと、西園はまた黙り込んだ。
 けれど、すぐに表情を引き締め、よし、と提案してくる。

「お前、クラスでもそれでいけば? 大志の好みから外れろ」
「え……」
「そんで、お前から話しかけてみろよ。どうせあいつ構われなくて拗ねてるだけだし」

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