きみとおちる@




※逃げたけど結局捕まっちゃいましたよエンド



「僕、あかん言うたやんかあ、せやのに逃げるから、ぜーんぶ良介くんが悪いんやで?」

 部屋の中が、血の臭いで充満している。咽かえるような鉄の臭い、ジメジメとした空気の中、俺は両腕を縛られて、あの部屋の布団の上に転がされていた。ようやく逃げ出せて、もう二度と戻りたくないと思っていたのに、結局、俺はまたここに戻ってきてしまった。
 目の前で、灯がにこにこと笑っている。その笑みは明るく、いつものテンションで俺に語りかけてくるけれど、目は全く笑っていない。そもそも、俺はこいつが心の底から楽しそうに笑った所なんて見たことがない。

「…………かい、はくさん」

 首が、俺の前に置かれていた。出てきた声が、ひどく掠れている。半分開かれた目には光がなく、苦悶の表情を浮かべた口からは、歯が全て抜かれていた。舌も切られて、壮絶な顔になっている。骨と肉が見える切り取られた首の断面から滴り落ちる血は、部屋の畳を濡らしていた。俺は、喉がからからに乾くのを感じていた。
 ……そういえば、水分とか、取ってなかったっけ。いや、そうじゃない。そうじゃ、なくて。
 喉は渇いているのに、汗は出る。これ以上水分を体から出したら干からびちゃうんじゃないのか。海白さんの首に手を伸ばしたいのに、動かない。あれが、実は人形、なんかじゃないのはわかっている。だって、こんなにも血の臭いがするんだから。

「かーいそうになあ、良介くんが逃げたりせえへんかったら、こいつもこんなんならずに済んだのに」
「…………」

 言いながら、灯が俺の頭を撫でてきた。俺のせい?
 俺を逃がそうとして、こんなことになったのか? だって、こんな所にずっと居たい訳がない、逃げられる手段があるなら、逃げるに決まっている。縋るのは当然だ。俺は、悪くない。そう言いたいけど、声が出なかった。うっすらと開かれている濁った瞳が、俺のことを睨んでいるように見えた。おまえのせいだ、って。

「良介くんが逃げたから、こいつは処分されたんやで?」
「……おれの、せい」
「せや、良介くんのせい。酷い子やね、君も」

 人の良さそうな笑みを浮かべながら、灯が何度も復唱する。違う、俺のせいじゃない。俺は悪くない。……本当に? 俺が自力で逃げ出そうとしていれば、この人は死ななかったんじゃないか? やっぱり俺のせいなんじゃないのか? 違う、そもそもなんでこの人が死んで俺が悲しむ必要があるんだ。この人だって、結局渦見の人間なんだ。死んだところで、俺には関係ない。でも、俺を助けてくれた、助けようとしてくれた。頭の中で思考がぐるぐると渦巻いて、胃から何かがせり上がってくるのを感じた。気持ち悪い。

「ああでも、こいつ一人死んだ所で、良介くんには関係ないなあ。別に良介くんと仲良しさんでもあらへんし。良介くんの大事な人がこうなった方が、良介くん、反省しはる?」
「…………何、言ってんだ……」
「君、お父さんはどこ住んどるんやっけ。まあ、調べればすぐわかるか」
「……っ!」

 その言葉に、一気に汗が吹き出した。全身の毛穴が開いた様に、総毛立つ。こいつ、何しようとしてんだよ。何言い出すんだ。反射的に、縛られた手を思い切り横に引っ張るが、解ける気配はなかった。くそ、解けろ! くそ! くそ! くそ!
 クスクスと笑いながら、灯が俺の前に首を掲げた。

「お父さんがコレと同じようになれば、流石に良介くんも反省するやろか」
「やめろ!」
「ん?」
「お、親父は……関係ないだろ……」
「んんん〜?」
「やめろよ……何かすんなら、俺にすればいいだろ……。親父は、関係ないじゃん……」

 最後は、振り絞るような声になっていたと、自分でも思う。冗談じゃなかった。親父が、あんな目にあうなんて、想像すらしたくない。子供の頃から、男手一つで育ててくれた父親だ。俺のせいで自分のやりたいことなんて、きっと全然できなかっただろう。
 ようやく俺が一人暮らしできるくらいの年になって、親父への負担も減って、自分の人生楽しめる時間ができたのに。俺のせいで殺されるなんてこと、あっていいはずがない。そんな親不孝あるか。簡単に殺される訳ないという、以前まであった俺の常識も、こんな首を目の前に掲げられたら、あっと言う間に消えてしまった。いや、ここに閉じこめられた時点で既になくなっていたのかもしれない。
 俯いていると、灯が俺の髪の毛を掴んで顔を上げさせた。突然動かされて、ごきりと首が痛む。

「いっ……づ」
「ふふ、良介くんは父親想いなんやねえ、家族仲良くて羨ましいわ。僕んちとは大違い」
「……とも、す」
「でも君、僕を裏切ったしなあ。ほんまに傷ついたんやで? 僕の繊細なハートはズタボロや。もしかしたら君、またすぐ裏切るかもしれへんやん。そうならない様に、見せしめは必要やって思うねん。せやないと、また逃げるやろ」
「に、逃げない!」
「ん?」
「もう、二度と逃げない。何でもする、だから、お、お願いします。親父には手を出さないでください……」

 声が震えているのが、自分でもわかった。けど、懇願でも、土下座でも、なんでもいい。なんでもする。そうしないと、こいつは本当に殺すだろう。冗談でも、脅しでもなく、今みたいに部屋を開けて、笑顔で首を俺の目の前に投げてくる。俺は、親父に会いたいけど、首だけの姿で会うなんて真っ平ごめんだ。
 灯は、掴んでいた俺の髪を離すと、にっこりと優しく微笑んだ。

「ほんまに? ほんまに良介くん、ずーっとここに居てくれはる?」
「……い、いる。だから」
「でも嘘やろ、それ」
「っい、あ゛……! げほっ……」

 鈍い音と共に、腹を蹴られた。立ち上がった灯が、俺の体を何度も殴ってくる。拳が、足が、体に打ちつけられる度に、悲鳴にも似た声が漏れた。

「あ゛っ、うあ、ぐっ」
「嘘やんか、結局。だって君、部屋に居てへんかったやん。一緒に居る言うた癖に。皆、嘘ばっかや。嘘つき嘘つき嘘つき! 信じたって嘘つかれたら、結局傷つくだけやんなあ!? あーもうなんやねん! どいつもこいつも終夜終夜終夜終夜! あんなゴミクズのどこがええの、意味分からん!」
「あ、がっ……」
「終夜なんてただの人殺しやんか、他人の手を借りんと生きていけへん出来損ないやろ!? なんで僕のがニセモノやねん!」
「う゛あ、っ痛……!」
「……はー……、…………ま、せやけど、僕も嘘つきやし、人殺しやから、オアイコやね。あはっ、あははっ、あはははは! ……よしよし、痛かったなあ良介くん」
「うぅ……う」
「でも、君が悪いねんで?」

 暴行に飽きたのか、再び灯が俺の髪を掴んできた。目には狂気が宿っている。いや、違うか。最初から、こいつはおかしいんだ。そんなこと、わかりきっていたのに。勘違いしていた。ちょっとだけ話して、人間ぽいところもあるんだなんて、思い違いをしていたんだ。
 殴られたとき、口の中が切れたのかもしれない、鉄の味がする。蹴られた腹がずきずきと痛む。灯が、自分で傷つけたところを優しくなでてきた。

「ああ、ボロボロになってもうたなあ。かんにんかんにん」
「………………」
「そんな目で見んといて。傷つくやん」
「っう……」
「良介くん、お父さん殺されたくないんやっけ?」
「!」

 その言葉に、俺は目を見開いた。ここで、頼み込まなければ、多分、親父は殺される。

「こ、殺されたくない。殺さないでくれ。もう二度と、こっから逃げない。なんでもする、頼む。だから」
「……はー、なんやの、その自己犠牲。意味わからん。肉親なんて、大事にするもんやないで。死んでなんぼな存在やん」

 つまらなそうに嘆息すると、灯は近くの机の上に腰掛けた。

「良介くん、知っとる? 思い出って美化されるんやて。せやから、いい思い出がある内に、死んどいた方がええんよ」
「よ、よくねえよ! 死んでいいことなんて、あるわけない!」
「フーン、ま、君がそう言うならええけど」

 ぐいと襟元を引っ張られると、俺は灯の足と足の間に、顔を持ってこさせられた。丁度股間の近く。手が縛られているので、うまくバランスが取れない。顔を上げると、にっこりと笑う灯と目がかち合った。

「じゃ、舐めて」
「……は?」
「あれ? 良介くん、さっき言うたやん? なんでもするって。なら、とっとと舐めろや」

 舐めろ、と指されたそれの検討がついてしまう自分が嫌だったけど、位置的にも、こいつの性格的にも、多分そう言うことなんだろう。俺は目を伏せて、諦めた。逆らったら殺されかねない。俺が、じゃなくて、父親が。

「………手、解いてくれよ」
「なんで?」
「なんでって、お前……、服着てんじゃん」
「口でなんとかすればええやろ」
「無茶言うな」
「あれ、君、口答えできる立場やっけ?」
「っ……」
「ま、良介くんがどうしても舐めたいって言わはりますなら、僕の帯くらいは解いたるけど」

 にやにやと笑いながら、俺を見下ろしてくる。舐めたくなんてないし、そんな言葉も言いたくない。黙って悔しそうに唇を噛みしめる俺を眺めて、灯は、近くに転がっている海白さんの首に視線を移した。

「なあ良介くん。あれなあ、あの首、歯全部抜いてあんねん。見える? 体押さえて、手刺して動けんくしてから、引っこ抜くんよ。意識あるまま歯抜かれるのって結構きついでー。なんぼ泣きわめいてもやめてもらえへんの。あいつもなあ、最初は我慢しとったみたいやけど、最後は謝って泣き叫んどったで。修行が足りひんよなあ? 良介くんのお父さんは耐えられるかな?」
「っ、と、灯の」
「ん?」
「舐めさせてください……」
「何を?」
「っ……灯の、ち、チンポを、俺に舐めさせてください」

 ぐ、と目を瞑って言う。震える体を、無理矢理押さえつけた。いい、プライドとか、もういい。そんなもん、どうでもいい。生きることが先決だ。とにかく、逆らうな。そう言い聞かせて、俺は灯に頭を下げた。灯が楽しそうにからからと笑う。

「声、小さくて聞こえへんわ」

 聞こえている癖に。

「っ、と、灯のチンポが舐めたい! 舐めさせてくれ!」
「良介くんは他人のおちんちん舐めるのが好きな変態さんなんや?」
「っ、あ、う……そ、うだよ、俺は舐めるのが好きな変態だよ! だからっ」
「はー、良介くんは、本当に好きモノやねえ。まあええわ」

 しゅるりという衣擦れの音がして、灯の着物の帯が解かれた。覆われている布を口で挟み、何とか灯の性器を露出させた。けど、舐めろといわれてもそんなのやったことない。後込みしていると、再び上から声が降ってきた。

「なんや、大好きなチンポやで。舐めへんの?」
「っ……い、今やる」

 おずおずと先っぽに舌を這わす。両手が使えないのって、本当に不便だ。バランスが取れず、ふらつきながら半勃ちのチンポに舌を伸ばした。舐めると、少し苦みのある雄臭さが、舌の上に広がった。まずいし、気持ち悪い。生温かい肉棒に思わず顔を顰めると、楽しげな声が俺を急かしてきた。

「何チロチロやってはるん? ちんたらしすぎやろ、処女でもないくせに」
「…………う……」
「お父さん、殺させたくないんやろ?」
「…………っ! あむっ……」
「あは、そうそう、じょーずに舐めてなあ」

 だめだ、このままじゃ。こんなんじゃ、こいつはきっと納得しない。
 俺は灯のチンポを、思い切り口に含んだ。そのまま、口の中で舌を動かすと、ぐちゅぐちゅと濡れた音が室内に響く。舌を動かす度に、形が、味が、リアルに伝わってきて、泣きそうになった。俺、なんでこんなことやってんだろ。生臭さと、血の臭いが混じって吐きそうだ。生理的な涙が浮かんでくるのを、ぐっと堪えてひたすら舐った。

「ふっ……ぐっ……うぅー」
「へったくそやなあ、もっと舌使わな」
「んぅっ……ふはっ」

 好き勝手言いやがって、こんなこと、やったことねえんだよ。
 一度離すと、カリの部分から、竿まで上から下へべろりと舐める。灯のチンポは、もう俺の唾液でべとべとだ。その頃にはもう完全に勃立ち上がっていて、さっきよりは舐めるのが楽になった。はぁはぁと上がる息に意識を集中させないようにして、何度も口に含む。だって、今の俺にはそれしかできない。

「んっ……ぅ」
「……あーでも、その必死な顔は悪ないわ。良介くん、チンポおいし?」
「…っ………」
「なんや、だんまりかい。そんなら僕もう行こうかな」
「っ、あ……おい、ひい……です!」
「せやろなあ、良介くん、ちんぽ大好きな淫乱やからな」

 せせら笑いながら、灯は俺の頭を撫でてきた。こんなもんがおいしいとか言う奴は、きっと普段残飯とか泥しか食べてない奴だろう。けど、そんなこと言おうもんなら、どうなるかわからない。吐きそうになるのを堪えながら、俺は必死で灯のチンポを舐めた。玉を口に含んで舐めて、裏筋に舌を這わせて、先っぽを吸って。じゅぼじゅぼと卑猥な音がするように舐めろといわれ、必死扱いて舐めた。灯のチンポが顔に当たって、先走りの汁で顔がぬるぬるする。

「ん、ぐぅ……っ……む」
「あは、えーえ顔……っ」
「んっ!?」

 ぐ、と頭を掴まれたかと思ったら、思い切り喉の奥まで突っ込まれた。抵抗する間もなく、瞬間、口の中に生温い何かが弾けた。苦みと、青臭さが、口一杯に広がる。

「んぅーー! んーー! っ……! うぇっ、げほっ……えっ……ぉえっ……」

 頭を離された瞬間俺は口の中に吐き出された物を全て床にぶちまけた。白濁した液体がぼたぼたと下に落ちていく。顔面の全ての汁が出てんじゃないかってくらい、涙と鼻水と涎がすごかった。もう、涎なのか鼻水なのか汗なのか涙なのか精液なのかも判断がつかない。思い切りえづいて、咳込んでいると、灯が俺の前にしゃがむ。

「あーあ、全部こぼして、アホやなあ」
「げほっ……げほっ……とも、す……」
「まあ、今日から毎日飲む事になるから、勘弁したるわ」
「……!?」
「何、驚いたような顔してはるん? だって君は僕のモノで、僕の言うことはなんでも聞くんやろ?」
「あ…………」
「ほな、さっさと足開いて? ええ声でないてくれること、期待しとるで。ていうか、それしか選択肢ないねんけどな」

 とん、と胸を押されて、布団の上に倒れ込んだ。上から、灯がのし掛かってくる。帯を解かれ、肌が灯の前に露出された。灯は、笑っている。
 笑いながら、俺へ手を伸ばしてくる。怖い、けど、逃げることができなかった。

「なんや、怖い? あは、ちゃうやろ、怖いのは僕やなくて終夜やろ? あいつのとこに行ったらあかんよ」

 ぴたりと胸の上に乗せられた手が、ゆっくり下へと落ちてくる。

「かんにんなあ、良介くん。ほんとは、こんなんやりたくなかったんやけど、でも、君が逃げるから、しゃーないんよ」
「な、に」

 にやにやと笑う灯の顔が、ぐにゃりと歪んだ気がした。

「僕なあ、良介くんのこと、壊すことにしたわ」


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