オフ本おまけペーパー

J庭46にて配布した新刊の話とつながってます。
本編読了後にお読みください。
ちび灯成長後の世界の渦見と笠原。
泣かぬ本編で言うところの、渦見失踪前の話です。





『こわれもの』

 欲しいものなんて何もないよ。俺はなーんもいらない。
 だって、何も欲しくないんだ。夕は欲しいものはなんでもあげるって俺に言うし、旭だって、俺に必要な物は全部揃えてあげるって言ってた。皆、俺が欲しいものをあげるって。
 でも俺は、何もいらない。だって、欲しいと思わない。何かを欲しがる気持ちがわからない。だって、いつかは消えちゃうし。好きな人もいらない。そんなの作ったところで、俺と一緒に居たら、いつかは壊れちゃう。だから俺は、一人でいいよ。多分、ソレが一番いいんだって、知ってる。

「笠原、何してんの?」
「ん? ああー、ちょっとな」

 そう言って、笠原は携帯電話を操作しながら、口元に笑みを浮かべていた。今時、ガラケーなんて持ってるの笠原くらいだよ。さっさと変えれば良いのに、って気持ちが、俺の中に湧いてくるのが自分でも不思議だった。別に、笠原が何を持とうが俺には関係ないし、他人に興味なんてないはずなのに。

「誰とメールしてんの?」
「ん? いやー、知り合い……?」

 そう言って、真剣な目でボタンを押していた。ただの知り合いなのに、そんな真面目な顔で頑張るとか、意味わかんねー。笠原は携帯とか機械とか、そういう電子機器が苦手だから、ほとんど触らないけど、よくわからない奴相手に、そうやって頑張ってる姿を見ていると、俺の中でもやっとした気持ちが湧いてくる。なにこれ、変なの変なの!

「ひーまー、あそぼ」
「なんだよ、ごんごんすんな」

 笠原の背中に額をぶつけていると、笠原が仕方なさそうな顔で振り返った。下がった眉の下にある瞳が、じっと俺を見つめてくる。俺は、その顔がちょっと好きだった。ん? 好きってのは変か。だって俺、別に誰も好きじゃないし。でも笠原のこの顔は好き。好きじゃないのに好きっておかしい。なんだこれ? よくわかんね! よくわからないままに、俺は笠原の服を引っ張った。昔聞いた単語を言葉にのせてみる。

「りょーすけ」
「はぁ? 急に何、どうしたの」
「俺の下の名前知ってる?」
「知ってるよ」
「呼んでー呼んでー」
「なんで」
「あっ、知らないんだ」
「うるせー、知ってるってば、終夜だろ」
「あひゃっ、そうそう。あってる」

 笠原の呼ぶ声に、俺は満足して寝転がる。
好きな人なんていらないよ。だってどうせいなくなるし。俺と仲良くなったりなんてしたら、そいつは食われておしまいだもん。別に、笠原がそうなってもいいって思ってたはずなんだけどなぁ、どうせ、大学卒業するまでだし。

「変な奴」

 そう言って笑う笠原の顔を見ると、変な気持ちが、なんていうの? こう、ぐわーっ! て湧いてくんの。 別に俺、一人でいいはずなのに、もう少しだけ一緒に居たい、とか思っちゃったり? 
へーんなの。よくねーよな、こういうの。好きとか嫌いとか、うまく言えないけど、この気持ちが、好きってことなら、きっと、俺は笠原から離れるべきなんだと思う。そんくらい、俺でもわかってるって。だって、俺が笠原のことを好きになればなるほど、笠原は向こう側へ近づくから。簡単に壊れるコワレモノ。あいつの言葉を借りるなら、化け物の俺は、さっさと笠原の前から消えるべき。今ならまだ、間に合うかもしれない。

「かーさはらー」
「何だよ」
「俺が話してるときに携帯見んな」
「あっ」

 持っていた携帯を奪うと、笠原は何すんだとか言って怒ってたけど、別に本気で怒ってるわけじゃない。
そういうとこだよ笠原。嫌なことは、本気で怒らないと、碌なことになんないって、俺知ってるよ。笠原はいつか、そういうところで損するんじゃないかなって、思う。でも笠原はバカだから、気づかない。あひゃひゃっ、騙されやすいし、憑かれやすい、きっと、俺が守ってあげないと、すぐに死んじゃう。俺が居るから良くないってのはわかってるけど、でも今更手放すこともできなくなった。こんな携帯電話に夢中になるくらいなら、もっと俺と話せばいいのに、って思うくらい、俺は笠原が好きになっている、気がする。ダメダメだー。
にぃっと笑みを浮かべて、笠原の服を引っ張る。

「あひゃっ、一緒にゲームでもしてあそぼ」
「ゲームって、俺の部屋なんもねーぞ」
「知ってる! だから俺ビンゴ作ってた!」
「暇かよ」

 ぽい、と笠原の携帯を近くに投げ捨て、チカチカと点灯している携帯から目を逸らした。携帯ばっかり見てると、目が悪くなっちゃうよ。でも本当はそんなことどうでもよくて。ただ単純にこの携帯電話が気にくわなかっただけかもね。なんでこんな気持ちになるんだろ。
笠原が、昔あいつがよく言っていた「りょーすけくん」と同じ名前だからかな。別にあいつのことなんて興味はないのに、昔、バカみたいにずーっと鳴いてるから、覚えちゃった。

「りょーすけくん」
「さっきからなんだ」
「なんでもないよ」

 そう、なんでもない。こんな気持ちはなんでもないものとして、俺はさっさと消えよーね。
これ以上一緒に居たいって思う前に、消えた方がいい。少なくとも、夏休みが始まる前には。でも、もう少しだけ一緒に居たいな。もう、ちょっとだけでいいんだ。

 だって笠原は、俺の初めての。

終わり




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