人気投票1位番外編

人気投票にて灯が一位だったので、そのお祝いとしての小説です。時期が正月だったので、正月のお話にしました。
時系列的には、一緒に暮らしてから二年後くらい。








「そういえば俺、正月は久々に実家帰るけどお前はどうすんの?」
「良介君はぁ、ほな僕も正月やし久しぶりに実家帰るわ〜……て言うとでも思てはるん?」
「いや、ここに居んのかなって……」
「僕も連れてってや!」

 俺の言葉に、心外だとでも言わんばかりに、灯が眉間に皺を寄せた。灯と暮らしてからもう二年目になる正月時期。就職活動もこれからいよいよ本格化するし、実家にも滅多に顔を出せていなかったので、行くなら今だろうな、と先日親父にも電話をした。だから、今年は年末年始実家に帰ることになった。
 俺はいいけど、問題は灯だ。
 親父は喜んで、久しぶりに正月一緒に過ごせるなあなんて笑っていたから、灯のことも話したけど、親父は基本的に断るってこいうことをしない。友達も一緒に居るなら連れておいでと言ってた。
 確かに、灯は置いていくって言ったところでついてくるだろうし、それに、二年も一緒に暮らしているなら、灯のことを紹介くらいはしておこうと思ってたところだ。けど、そもそも、紹介ってなんだ?
 どういう紹介?
 普通にルームシェアしてますってことでいいんだろうけど、今更って気もする。もうしなくてもいいんじゃないか、と思っていたが、灯はそれに不満があるようだ。

「俺の親父と会うの気まずくない?」
「なんでやの。僕もいずれお義父さんに挨拶せなあかんなあって思ってたとこやし、丁度ええわ」
「お義父さんって呼ぶな」

 こんな恐ろしい輩を親父の息子にしたくない。
 そもそも、そんなこと突然言ったら親父も卒倒するわ。いや、あれで柔軟な人だから、受け止めるかもしれないけど、受け止められたらられたで俺が困惑する。
 灯は得意げに料理本のレシピを広げた。

「まあ僕に任せたって。お節料理は完璧やから、笠原家の質素な食卓を豪勢に彩りますぅ」
「質素っていうな、せめて素朴って言え。つーか、お前の家って、普通にお正月やんの?」
「普通ってのが僕にはようわからんねやけど、まあお節料理くらいは食べたなぁ」
「へー」
「でもこの本に載ってはるお節料理とはちょっと違ったけど。もうちょい赤かったなぁ、あと黒かった」
「へー……」

 赤? 海老とか……黒は昆布巻き? どんな料理を……と聞くのが怖くて、それ以上聞くことはできなかったけど、灯は器用だから、レシピ通りの料理を作れと言われれば、きっと作れるんだろう。なんならアレンジして更に美味くしてくれる。こいつのこういう才能は、本当に尊敬する。
 でも、そうだな。そう考えると料理の心配はしなくていいってことか。親父も俺も、そんなに料理がうまい訳じゃない。俺の料理下手は、きっと親父に似たんだと思う。親父は、料理はどっかに頼むとか言ってたけど、それはいらないって言っておくか。
 お節料理ってすげえ高いし、そう考えると灯の存在は逆にありがたいのかもしれない。

「灯」
「うん?」
「お節楽しみにしてる、正月は一緒に過ごそうな」

 そう言うと、一瞬灯は息を飲んだが、すぐに柔らかな笑みを見せた。

「……お義父さんの胃袋なんて簡単に掴むで!」
「お義父さんって言うな」

****

 そして、あっという間に実家に帰省する日がやってきた。
 十二月三十一日。
 俺は灯と一緒に実家である××市に帰ってきた。駅まで親父が車で迎えに来てくれると言っていたけど、そこまで頼むのも申し訳ないと思って、普通にバスで帰ってきた。
 実家につくと、久しぶりの我が家が変わらない佇まいで待っていた。懐かしい気もしたが、それより灯のことの方が気になった。玄関から、親父が待ってましたとばかりに迎えに来る。
 灯は親父相手にどういう感じで対応するのかと思えば、百万枚くらい猫を被って対応することにしたみたいだ。

「良介〜、久しぶりだなあ。あ、そっちの子は話してた子か? 灯くん……、だったかな」
「初めましてぇ、良介くんのお父さん。いつも良介くんとは仲良うさせて頂いとります。せっかくのお正月やのに、僕まで世話になって、えろうすみまへんなぁ。これ、つまらへんものですが……」

 なんて、いつの間に買ったのか、ちゃっかり菓子折まで渡している始末。いやそれ高そうなお菓子だなおい! いつ買ったんだそれ!? きらきらとした、輝かんばかりの笑顔を貼り付けながら、柔らかな物腰で挨拶をする灯に俺が若干引いていると、親父もまさかこんな風に挨拶されるとは思っていなかったらしく、畏まった表情で頭を下げた。

「あ、いやいや、こっちこそ、良介がいつもお世話になってます!」
「なんで親父まで敬語なんだよ」
「いやぁ、お前の友達、男前というか、綺麗な人だなあ……、あ、男に綺麗ってのも失礼か……?」
「いえいえ、光栄ですう、それより、ほんまにええんどすか? 僕までご厄介になって……」

 灯が少し申し訳なさそうな仕草で頭を下げると、親父が慌てて両手を振る。

「いやいや、いいんだいいんだ! 男やもめで正月も暇だからね。むしろ人が増えると賑やかで楽しいさ! 灯くんも、自分ちだと思って、くつろいでいってね」
「ほな、お言葉に甘えさせて頂きます〜」

 にっこりと笑う灯に、うすら寒いものを感じない訳でもなかったが、ギスギスしているよりはマシだろう。
 挨拶もそこそこに家に入ると、そこには昔と変わらない我が家があった。ふわりと香る匂いは、昔懐かしい家の匂いだ。
 持ち家だから、変わらないのは当然と言えば当然なんだけど、なんていうか、懐かしいな。まだ、家を出てからそう何年も経ってないはずなのに、随分久しぶりに来たような感じがする。
 古い家屋だから、結構痛んではいるけど、親父がきちんとこまめに清掃をしているのか、中は綺麗に整えられていた。

「狭い家でごめんな、あ、この座布団ね、この間新しくしたんだ、灯くんこっち座って」
「親父、いーから。灯、荷物貸して。こっちの部屋にまとめて置いとくし」
「あ、僕お節作ってきたんやった。ほなこれ保管よろしゅうな。お節って食べるんはお正月やったっけ? ほな蕎麦は後で茹でるとしてー……お雑煮も作るで? 材料持ってきたし。ていうか、なんやったら仕込み先にやりたいんやけど……」
「あー、じゃあ台所こっちだから、先にやりたいなら……」
「おいおいおい、良介、おい良介!」

 俺が灯を台所へ案内しようとすると、慌てたように親父が俺の服を引っ張ってきた。

「お前、今来たばっかりで疲れてんのに、お友達にそういうことさせちゃ駄目だろ!」
「でもあいつ、先に仕込みしたいっていうし……そう言ったら俺の言うことなんて聞かねえもん」
「灯くん、いいんだよ、ゆっくりしてて……あの、ほら、お雑煮とかは僕も作れないことはないしね!」

 親父が気を使うように灯へ言ったが、灯はそれを笑顔で制した。俺はもう慣れたけど、灯の笑顔は、なんというか、妙な威圧感があるんだよな。口出し無用的な空気を感じる。
 微笑む灯に、親父は笑顔を引き攣らせた。

「ええんですよお父さん、僕、好きでやってはることですから。あ、でも自分ちの台所勝手に弄られるんは迷惑やったかな……。気ぃつかんと申し訳ないです。ほな、簡易コンロだけでも貸してもらえたら……」
「いやいやいや、そ、そういうことじゃないって! いいようちの台所なんて、好きに使ってくれて! 冷蔵庫に入ってるものも好きに使っていいからね!」
「わぁ、良介君のお父さん、太っ腹なお人やなあ。ほな、僕準備あるから、良介君は待っとって」

 そう言って、自前の割烹着を身につけると、灯は台所の方へと入っていった。エプロンじゃなくて割烹着ってところもまたちょっと猫被ってるよなあ。あいつ普段はエプロンで作ってるじゃん。親父のところにきてるから張り切ってない?
 親父は「いいのかなぁ……」なんて呟きながらも、これ以上止める気はないようだった。実際、俺が今はいいから、なんて言っても、灯は自分がやるって決めたことはやるだろうし、どうせあいつが作る飯が一番美味いし、大人しく待ってよう。
 久しぶりの実家に腰を下ろしてこたつに入ると、親父が台所の方を気にしている。

「どうしたの親父、そんなちらちら見て」
「いや見るだろ……、灯くん、家に来たばっかなのに、座りもせず台所いって。お父さん客人にすごい悪いことしてる気分」
「いや逆に先にやりたいことやっておきたいんじゃないの? 完璧にレシピ覚えたっつって張り切ってたし。大丈夫だよ、あいつ料理美味いし、下手な店に頼むより美味いよ」
「……良介お前、もしかしていつもそんななのか?」
「そんなって?」
「灯くんはお前のお母さんじゃないんだぞ」

 その言葉に俺は吹き出した。
 いや、やだわ俺も! あんなことしてくる母親はトラウマもんだ。台所から覗く灯の姿は、今まで俺の家の台所にはない姿だ。一緒にいるとたまに忘れかけるけど、あいつ、結構美形なんだよなあ。こうやって見るとやっぱり絵になるというか。
 親父も息を吐きながら言った。

「しかし、顔も綺麗だし背も高いし、料理も出来て気遣いも出来て……、もし女の子だったら人気あるだろうなあ。いや、男でも人気あるか、モテるだろー、あの子」
「は? さあ。モテるんじゃねえの」
「お前も料理習ったら?」
「俺は自分の食えるものくらい自分で作れるし」
「今時は男も料理できるほうがモテるんだって」
「じゃあ親父モテねーな」
「うう、お前な……。あ」

 そういえば、と親父が声をあげた。

「そういえば良介、今回あの子は一緒に来なかったんだな」
「あの子?」
「ほら、あの子、あの子もかっこいい子だったよな。事故の時電話くれた……なんだっけ、渦見くん?」
「あー……」

 そうか、そういえば、親父は渦見に会ったことがあるんだっけ。でも、その名前は、今あいつの前では出さない方がいいだろう。俺だって、出来れば聞きたくはない。一応、灯も渦見ではあるけど。
 俺は曖昧に言葉を濁す。

「あいつはー……ちょっと理由があって、大学やめた。もう会ってないんだ」
「そうかあ、色んな理由があるんだろうけど、残念だなあ」
「んー……。なあ親父、灯の前で、渦見のこと言わないでくれよ」
「なんでだ?」
「……あいつら仲悪いから」
「…………わかった」

 俺の顔が深刻だったのか、それとも下手に首を突っ込まない方がいいと感じたのかは不明だが、親父はこくりと頷いた。

 それから、話題はいくつか転換して、俺は近況報告やら、親父の現況やらを聞いたりした。最近大学でどんなことをしているかとか、親父の仕事の話とか、再婚したりしないのかとか、電話でも話す機会はあるものの、やっぱりこうして顔を合わせて話すと、いくらでも話が出てくる。この年になれば、親父とはちょっと気まずい、なんて奴らも友達にはいるけど、俺はそういうことがない。
 いくつになっても、親父は親父だった。昔から優しくて穏やかで心配性で、ちょっと騙されやすい。話していると時間なんてあっという間に過ぎていく。
 やがて、台所ののれんをあげて、灯が顔を出した。

「良介くーん、仕込み終わったで。あ、お父さん、台所どうもありがとうございました。綺麗に片付いてはって、使いやすかったです」
「いやいや、全然使ってなくて、ははは……ごめんねえ、お客様なのに」
「いいえぇ、僕がやりたくてやってるんですから、お気になさらないでください」
「やー、良介にこんないいお友達がいたなんてなあ、いつでも遊びにきてくれよ、なんてな!」
「わあ、嬉しいですぅ〜」
「…………」

 死ぬほど猫被って死ぬほど媚び売ってる。
 親父、そいつ、普段はもっと結構暴言も飛び出したりする奴だぞ。なんなら今こうやって和やかにしてるけど、全然和やかになってない未来だってあったかもしれないからな、と俺は過去の事を思い返して思う。
 未だに、こうしているのが、不思議というか、奇跡みたいなものに思えてしまうのだ。

 テレビをつけると、正月の特番が放映されていて、俺は久しぶりにゆっくりとした気持ちで年末を迎えられそうで、こたつに顎をつけた。こたつの上に置いてあるみかんを一つ、灯へと手渡す。

「ん」
「あ、ありがとう良介くん」
「ごめんね灯くん、こいついつもこんななの? 甘えたこと言ってたら叱ってやってね」
「はあ? 甘えてねえって」
「そうですよお父さん、良介君には、僕いつもお世話になってはりますよ」
「え〜? ほんとかなあ?」

 なんて、親父はくすくすと笑っている。なんとも和やかな空気だった。
 灯が、お土産だと言って持ってきたらしい酒を開けた。いやだからいつの間にそんなの買ってんだよ。お前だけやたら荷物多いなと思ってたけど、そういうのいつ準備したの? 俺に内緒でこっそり買ったらしい酒は、ちょっといい酒だったらしく、口当たりも良く飲みやすくて、気がつけば三人で飲んでいた。
 結局、その後は、俺としては普段と変わらない正月だ。
 なんの変哲もない、当たり前みたいな年末。こたつに入って、みかんとか食って、二十歳超えた今じゃ、ちょっとお酒を飲みながら、だらだらとテレビ見て、親父と話して、そんなの、俺の中では当たり前のことだったけど、あの夏を過ごしてからだと少し、感慨深いものがあるかもしれない。もしかしたら、もう二度とこんな日常を過ごせないかもしれないという危惧だって、あの時は確かにあったんだから。
 あの部屋の中で起きた事を思い返すと、今でも動悸が収まらなくなる、体が震えそうになるけれど、少なくとも、こうして平穏な年末を過ごすくらいには、回復してきたんだろうか。

 ぼんやりとお酒を飲みながら、親父や灯と話していると、少しだけ、泣きそうになった。

****

「良介くん」

 それから、灯が作った年越し蕎麦を三人で食べた、親父は目を丸くして、美味しい美味しい! とおかわりまでしていた。灯はそれが嬉しかったのか、それともまだ猫を被っていたのかは知らないが、嬉しそうにこんなんいくらでも作ります、と笑っていた。
 親父は俺よりも酒に弱いので、今は眠っている。こたつの中で寝ると風邪を引くから、寝室まで灯と二人で移動させた。
 除夜の鐘も鳴り終わり、俺は酒で火照った体を冷ますように、どてらを被ったまま外へと出ていた。
 冷たい空気が、頬を撫でる。息を吐くと、白くなって消えていく。
 やっぱりこれじゃ薄着だったかな、と思っていると、灯が俺を追いかけて外までやってきた。

「そんな格好で風邪ひいてまうよ」
「ん、ちょっと熱くて冷ましに来ただけだから今戻るよ」

 灯の方に近づくと、灯が俺の手を掴んだ。
 なに、と聞こうとした瞬間、体が温もりに包まれる。灯が抱きしめてきた。

「おい、なに……」
「んーー……ちょっと」

 ちょっと、で抱きしめられても困る。さすがにこんな寒い中、誰かが外に出ていると言うこともないけど、人目にはつくかもしれない。
 引き剥がそうと思ったが、灯が幸せそうに笑うものだから、俺は引き剥がす手を止めてしまった。

「楽しいなあて」
「は……?」
「お父さん、僕の作った蕎麦、美味しい言うて食べてくれはったなあ」
「ああ、まあほんとに美味かったし……」
「僕、こうやって家族と過ごすの、初めてやわ」
「は?」
「お正月なんて、だぁれもおらんかったし」
「…………」
「おるのは白子ばっかりで、高いお節も、一流料理人が作ったとかいうお雑煮も、全然美味しくなかった。仮にあの時僕が作っても、あんな風に食べてくれたかなぁ」
「とも……」
「父親やって、顔も見せへんかったし、あけましておめでとう、なんて、本当に言わはるんか思っとったわ。明けておめでたいことなんて、なんもなかったから」
「…………」
「でも今日は、美味しかったなあって思うよ」

 そこで、灯は俺から体を離すと、くしゃりと微笑んだ。

「ありがとな、良介くん」
「…………っ――――」

 あの頃の事は、今でも夢に見る。忘れたくても忘れられない悪夢としてたまに蘇る。こいつのことを完全に許せるわけでもないし、許したわけでもない。でも、たまにこうなる。
 全部許してあげてもいいんじゃないかって、気持ちが湧いてきたりする。実際それを全て許容はしないけれど、わだかたまっていたものが、少し溶けていくような、どうしようもない気持ちが押し寄せるんだ。
 こんな年末は、俺にとっては当たり前だった。最近は実家に帰ってきてなかったけど、帰ってくればいつだって当たり前に迎えられる、普通の年末だ。
 でも、灯にとってはきっとそうじゃない。
 あの家で、こんな風に過ごしたことはないって言った。俺は、灯がどんな風に過ごしてきたかは、詳しくは聞いていないし知らない。
 灯の今までの生活を間違っているなんて言うつもりもない。どんな生活でも、それは今までそいつが築いてきたものだからだ。そのせいで傷ついて文句を言う権利はあるかもしれないけどな。
 でも、灯が、その今までを全部捨てて、俺と生きたいと言ったなら、それは。

「さっきなあ、お父さんに息子をよろしくって言われた」
「? 寝てたじゃん……」
「寝言かも。でも、ええお父さんやね、良介くんのお父さんは」 
「ん……」
「お義父さんに取り入り成功やな、ちょろいもんや」
「お前なぁ……」

 くすくすと笑う声が聞こえて、目線をあげると、灯と目が合った。
 掠めるように、唇が触れた。
 吐いた息が白く夜に溶けていく。地元だと、今住んでいるところよりも、星が綺麗に見える気がした。
 ぼそりと、灯が呟く。

「……これが、良介くんの普通なんやね」
「灯?」
「もっと教えてな良介君、僕、良介君のこと……、君んこと、色々知っていきたい、……良介くんと一緒に居たい」
「…………」

 静かな声で言う灯に俺は、冷えてしまった手を引いた。

「……もう寒いから、一旦家入るぞ」
「…………」
「家入って、あったまったら、出かける準備して、初詣に行こう」
「初詣?」
「初詣だよ、お前行ったことないの」
「ああ、僕んち、そういう習慣ないから……」
「ふーん……」

 まあ、変な宗教みたいな家だし、そういうのはまた違うのかな。その辺はあんまり触れないようにしよう。
 灯と一緒に再び家の中に入ると、暖かい空気にほっと息を吐く。少しの時間だったのに、頬が少し赤くなっている。

「お参りに行くんだよ」
「誰に?」
「そりゃ……神様じゃん?」
「神様……って僕あんま信じてへんねやけど、でも良介君の普通がそれなら、僕も行く」
「別にどっちでもいいけど、なんていうか、習慣みたいなもんだからな。今年一年息災でありますようにって」
「僕のも聞いてくれはるやろか」
「さぁ」
「適当やわあ」
「そんなもんだろ」

 会話もそこそこに、俺たちは準備をした。

****

 それから、初詣を済ませ、人混みの中、甘酒を二人で飲んだ。
 お神籤を引いて、俺は吉、灯は小吉。なんとも微妙な結果に終わったけれど、まあそれはそれ。どうせ、運試しみたいなものだ。
 お神籤を結んでいると、灯が家に帰ってからの話をする。未来の話だ。
 嬉しそうに口元を綻ばせながら、自信作だと言っていたお節を披露するらしい。

「お義父さんのお口に合えばええんやけど」
「親父は何でも美味いっつって食うよ」
「良介くんもいっぱい食べてな」
「んー……」

 なんてことない会話をしていると、そういえば、と灯が言葉を溢した。

「ああ、良介くん、言い忘れてた」
「……そういえば言ってなかったな」

 灯が言おうとしている言葉の検討はついていた。そういえば、年が明けたというのに、定番の言葉を言ってない。灯は、今まで特に言ったこともなかったって言ってたけど、やっぱこれは言っておかないとだろ。
 俺たちは互いに笑って、言い合った。

「明けましておめでとう良介くん」
「明けましておめでとう」

 今年は、良い年になりますように。


終わり


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