誰かの日記

 誰かの日記

○月×日

 子供が産まれた。あれとの子供。
 産みたくなんてなかった。この世に産まれてくることが可哀想だったから。『××』になると知っていて、生まれることを望む人なんているのかな?
最初からわかっている不幸な子、可哀想な子。産みたくなんてなかったのに。
 この子の体に、あれの血が流れていると思うだけで、憎くて憎くてたまらない。いっそこのまま殺してあげた方が、そう思っていたのにこの胸に抱いた瞬間、どうしようもなく愛おしくてたまらなかった。小さな鼓動が、暖かな体温が、息遣いが、私の指を掴んだ掌が、長い睫も柔らかい髪も、目も、鼻も、唇も、その一つ一つが全て愛しくて仕方ない。望んだ子じゃなかったのに、こんなにも愛しいと思うのは、どうしてなんだろう。

○月×日

 あの子に会わせてもらえない。
 こんな所に閉じこめられた時点で覚悟はしていたけど、会えないことがこんなに辛いだなんて、思わなかった。愛してるの、こんな感情が湧いてしまう位、あの子の事を愛していて、憎んでいる。

○月×日

今日もあの子には会えない。もう会える日はこないのかもしれないと思う度に、眠れなくなる。最後にあの子を抱いたのはいつ? 憎いのに、幸せになってほしいと思ってしまうの。あの子が幸せになってくれるなら、もうそれでいいって。

○月×日。

 最近、ここにあれ以外の人間が来るようになった。多分、目を盗んできているんだろうけど、あれのもう一人の子。あれとは違って、いい子だけど、あの子を見ていると、思い出してしまうの。この手に抱いた愛しさを。
 寂しくて悲しくて、気が狂いそうだよ。

○月×日
 
 あれのもう一人の子供も、可哀想。
 あれの血が流れているだけでも可哀想なのに、あんな扱いを受けていて可哀想。あの子の事も、教えてくれる。優しい子だね。
 もしこんな境遇じゃなかったら、あの子達は、仲良くできていたのかな。普通に、一緒に、なんてそんなこと、考えても仕方のないことかもしれないけど。
 今日もあの子に会えない。寂しい。ここは真っ暗だから。

○月×日

 ここから出して。
 あの子に会わせて。
 会って話がしたいの、頭を撫でてあげたい。声を聴きたい、笑顔を見たい。
貴方は今どんな子に育っているの? 元気な子? 内気な子? 優しい子? それともちょっと怖い子だったりするのかな。あれに似てたら、お母さん泣いちゃうかも。
 本当は、私が育ててあげたかった。おっぱいをあげて、胸に抱いて、お母さんだよって言ってあげたかった。
あの子にお母さんって呼んでもらって、贅沢なんてしなくていい、一緒に暮らせたら幸せだったかもしれないのに。そんなことすら望みすぎなの?
ねえ、今何してるの、どこにいるの。
 お願い、ここから出して。

○月×日

 今日は何日? 何曜日? 夜なのか朝なのか、日付もわからない。
 太陽の光も夜の月も私の目には映らないから。このままここで死んじゃうのかな、私。小さな窓から手だけを覗かせて、外の温度を感じる。でも、ここもまた闇の中だから、息が詰まりそう。息が詰まって、このまま死んでしまいたい。ああ、またあいつがきた。
 死ぬ前にあの子に会いたいな。まだ私の事、憶えていてくれる?

○月?日

 助けて。
 助けて。
 助けて。
違うの、助けてくれなくてもいい。ただ、あの子に会いたい。もうそれだけでいいから。そうしたら、この箱の中で死んでもいいよ。お願い、龍さん。

○月 日

 あの子に会わせて!
 私が産んだ、私の子なのに、どうして会えないの!? なんで! なんで!
 どうして、愛させてもくれないの!
 酷い、悔しい、ずるい、悲しい。
どうして、

 月 日

 耐えられない。
 もう全部いやなの。
 私は何も悪いことなんて、してなかったはずなのに。どうして助けに来てくれなかったの、了英さん。
 愛していたのに、どうしてあの子を産ませたの。もう嫌い。何もかも嫌!
 ごめんね。お母さんがこんな風に産んじゃったから、きっとあなたも囚われたまま、逃げられない。
 ごめんなさい。ごめんなさい。全部おかあさんが悪いから、おかあさんを恨んでもいいよ。
  許さなくていいから、もうすぐ貴方の側に行くから。側で、あなたのことを見守っているから。
 あなたが幸せになれるように、あなたのことを見ているから。どうか、幸せになって。
 産んでしまって、ごめんね。


 終夜

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