京都に向かう笠原と灯の話

※渦見家に向かう途中の笠原と灯の話です。

 京都に向かう途中のパーキングエリアで、一時休憩を取ることにした俺達だったが、近くにある有名茶屋に灯が行きたいと言い出したので寄っていくことになった。
 なんでも、この近くに美味しいかき氷屋さんがあるらしい。こういう情報、こいつ、どっから見つけてくるんだろう。確かに、ずっと車に揺られているのも飽きたし、夏真っ盛りの今、かき氷は魅力的だ。車内は涼しいけど、外は暑いし。雑誌を見ながら楽しそうに笑っている灯を見ていると、これから京都に何をしにいくのか、忘れそうになる。
 ……いや、忘れちゃ駄目だろ。
 店内に入ると、涼しく華やかな店の中、店員がいらっしゃいませ、と俺たちを席に案内してくれた。灯と二人、椅子に腰掛けて、メニュー表を見る。かき氷だけかと思いきや、結構メニューが豊富だ。灯が目を輝かせてメニュー表を指さした。

「良介くん、何にする? 僕はこの宇治抹茶ミルク金時がええかな」
「俺はこのいちごかき氷……っつーかここ女の人ばっかで恥ずかしくないか?」
「なんで? 他人の目ぇ気にして美味しいもん逃したら勿体ないやん」

 と、灯はこともなげに言う。店内は、男がゼロって訳じゃないけど、かなり女性率が高い。ただでさえ男二人で浮いてるっていうのに、灯の顔で一層周りの注目を集めている様に思えた。ちらちらと、周りの視線を感じる。
 まあ、美形だもんなあ。作り物みたいな、綺麗な顔してるし。渦見も整った顔立ちをしているけど、灯はまた違うタイプだ。しげしげと灯の顔を眺めていると、そんな俺の視線には気づかず、上機嫌でかき氷のメニュー表を眺めている。相当甘いものが好きらしい。

「あ、こっちのもよかったなあ」
「なあ、運転手の人はいいのか?」
「ああ、あいつは甘いの好きやないから、ええの」
「そうか……」

 ちなみに、運転してくれてる坊主頭の人は、車の中で待っているか、近くで一服しているらしい。こんな長時間運転してくれているのに、なんだか申し訳ない気分になる。
 少しの時間を置いて、店員さんがかき氷を持ってきてくれた。

「お待たせ致しました、宇治抹茶ミルク金時のお客様」
「ああ、僕です。わぁ、美味しそうやね」
「ありがとうございます。どうぞごゆっくりお召し上がりください!」

 心なしか、店員の女性の顔が赤い気がするし、テンションも高い。俺のかき氷は何も言わずに目の前に置かれた。別にいいんだけど、なんか面白くねえ。むっと灯を見ると、灯は気にせず俺に笑いかけてくる。

「良介くん、食べないん?」
「食うよ。つーかお前、散々甘いもの食ってきたのに、よくまだ食えるよな」
「ん? 良介くんも食べるやん。甘いものは別腹やで」
「食うけどさあ」
「ああ、冷こくて美味しいなあ、もうちょっと控えめな甘さやともっと好みなんやけど」

 しゃくしゃくとスプーンで氷を崩しながら、灯が言う。こうやって、普通に接してると、なんか友達みたいだ。
 勿論、俺達は友達というよりも、ただの知人に近い関係なんだけど。甘味を味わう灯の姿は、飯を美味そうに食ってる渦見の顔と少しだけだぶった。
 そういえば、兄弟なんだよなあ。タイプが違うけど、普段どういう会話とかしてたんだろう。興味本位で、俺は灯に訪ねる。

「なあ、渦見とは普段どんな話してたんだ?」
「は? なんやの急に」
「いや、あいつが他の人と話してるところってあんま見ないから、普段どんな感じだったのかなって……仲、いいんだろ?」

 すると、一瞬だけ、ほんの一瞬だけど、灯の顔が翳った気がした。でも、それは本当に一瞬で、すぐにいつものにこやかな笑みを浮かべて、かき氷にスプーンを突き刺す。

「そやね、仲はええよ。良介君の話もよく聞いたし」
「マジ? え、あいつ何て言ってたの?」
「んー……、楽しい友達が出来た、って言うてはったよ」
「へー」

 ……友達、そうか。一応、あいつにも友達って認識はされてたんだな。よくわかんない奴だったし、俺の事を友達と思ってるかどうかすら微妙だったけど、そう言われると、少しだけ嬉しくなる。
 口の中にイチゴ味のかき氷を放り込んでいると、前に座っていた灯が言った。

「なんや、ええなあ。良介君、僕とも友達になってくれはらん?」
「え?」
「僕も、友達あんまり居いひんから、良介君が友達になってくれたら嬉しいんやけど」
「…………」
「あははっ、嫌そうな顔! だめやったかあ、僕信用ないなあ!」
「いや、ち、違う、嫌なわけじゃないんだけど、お前のこと全然知らないし」
「そんなん、終夜も一緒やろ。僕とあいつやったら、終夜の方がええ?」
「なんだよその質問……。てか、いいだろ、そんなのはどうでも。とりあえず、渦見に会いに行くだけなんだし」
「……そうやね。どうでもええなあ、こんなん」

 そう言って、灯は再びかき氷を食べ始めた。俺はというと、誤魔化すように一気に食ったから、少し頭が痛い。冷たさにキンとした頭痛が走った。
 別に、灯の事が嫌いな訳じゃない。普通にいい奴だとも思うけど、何となく、近づいちゃいけない空気があるような気がして、俺は灯の言葉に頷く事が出来なかった。溶けて水になり始めているかき氷を掬って食べていると、静かに灯が言った。

「良介君」
「ん?」
「早く、本家に行って、終夜に会えるとええなあ」
「ああ、そうだな」

 そう、この旅の目的はそれなんだから、さっさと目的地に向かわないと。笑う灯にそう答えて、俺はかき氷を頬張った。

終わり


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