スマイルペットA


「おい、出てこいっての!」
「ん〜〜ん〜〜」

 風呂から上がり、タオルで包んで水分を拭き取ると、俺の適当な服を着せてやった。もうぼろぼろになってもいいかなっていう覚悟のTシャツ。しばらく喜んでいた様だけど、俺が着替えて立ち上がった瞬間、何故か謎の生物は逃げていった。
 止める間もなく走りだし、あっという間にテレビの裏に入り込んで、笑顔でんーんー鳴き始めた。手を伸ばして引っ張り上げようとしても、拒否するように引っかいてくる。今日だけでやたらひっかき傷がすげえ増えたぞこの野郎。この家から追い出そうとしていたことがバレたんだろうか。猫撫で声で優しく対応してみるが、警戒して出てこない。

「おーい、出てこいよ。別に追い出さないから」
「んんんんん……」

 しかし、目線?が嘘をつくなと物語っている。そしてそれは事実当たっているのだ。大家に見つかる前に外へと離したい。なんかぼろぼろで可哀想だったけど、養えるような経済力は俺にはないのだ。

「……でてこいって」
「ん」

 くそー、妖怪(?)め。暢気にテレビの中に蹲りやがって! 俺のテレビ壊すんじゃねーぞ。

「……腹とか減ってんのかな」

 そこで、ふと思いついた。何故かわからないが、こいつは随分薄汚れていたし、もしかしたら腹が減っているのかもしれない。
 どうせあいつの着物が乾くまでしばらく時間がかかるだろうし、餌位はやってもいいかな。あそこから出さなくちゃいけないなら、餌付けってわけではないけれど、エサで釣って出した方が効率的かもしれない。
 けど、こいつって何食べるんだ? 猫は魚でもやっとけみたいなイメージがあるけど、あれはそもそも猫なのか? 考えていると、俺の腹も小さく鳴った。ついでに、俺用の飯も作ろう。簡単だし、炒飯でいいかな。台所に立ち、フライパンとまな板を取り出し、冷蔵庫を開いて具材を漁った。具はソーセージと卵と葱と……うわ、何もない。
 冷蔵庫を開けるとガラガラすぎて寂しい食材が目についた。まあいい、食えそうなもん全部ぶち込んでおけばいいだろう。卵を溶いて、葱を刻んでいると、後ろからズボンを引っ張られた。

「なんだ?」
「んー……」
「お、出てきた」
「んー、んー、」

 いつの間にか、テレビの裏から出てきたらしい。謎生物は俺の足にしがみつくと、すりすりと頭を擦りつけてきた。これはあれか? 猫的に言えば、じゃれついてるってことなんだろうか。俺、猫飼ったことないしなあ。

「なんだよ、今包丁持ってるから危ねえぞ。ほら離れろ」
「んー」
「…………くそっ、何だこの力っ……!」

 見た目よりも大分強い力でがっちりと足を掴まれ、剥がれない。その内疲れてきたので、無視して飯を作ることにした。どうせこいつも、しばらくすれば飽きるだろう。それよりもこいつの餌、どうしよう。魚なんてないしな。最悪、牛乳とかでいいか。
 あれ? 牛乳って猫にあげたらだめなんだっけ? 頭の中で、うろ覚えの知識を引っ張り出すが、イマイチ思い出せない。そしてその内面倒くさくなってしまった。こいつ猫かどうか微妙だし、死にはしないだろ。

「んー」
「はいはい」

 俺の足にしがみ付いて離れない謎生物に声をかけながら、俺はフライパンを火にかけた。

***


「出来たー。いただきます」
「んっ」
「お前は牛乳。ほれ飲め」
「…………」

 特別美味そうでもないが、食えないというレベルでもない炒飯が出来上がると、皿に盛りつけスプーンを添えた。結局こいつは何をやればいいのかわからなかったので、牛乳を皿に注いでおいた。謎生物はそれを笑顔で見つめているが、明らかに不満そうだった。さっきまでの上機嫌が嘘みたいだ。俺は見ないフリして、炒飯を口に運ぶ。
 うーん、相変わらず我ながら微妙な味だ。でも、食えないわけじゃないし、考えようによっては美味しい。と、思う。もぐもぐと咀嚼していると、謎生物が俺の膝の上に座り、スプーンで掬った炒飯を口に咥えた。

「あっ、こら!」
「………………ん゛ん゛……」

 しかし、ちょっと低い声を上げた後、すぐにスプーンは手放し、牛乳が入った皿を両手でつかんで飲み干した。な、なんか腹立つ……、俺の炒飯は、そのなんの手も加えていない牛乳以下だとでも言いたいのか? 謎生物は俺の胸に頭を預けて、がりがりと皿を噛んでいる。何アピールだそれは。

「……くそー、後で追いだしてやる」
「んーんー!」
「なんだよ、いてっ」

 その言葉に反応したのか、首を振って、俺をパンチしてくる。謎生物の頭を掴んで止めた。やはり、俺の言いたいことはある程度理解しているらしい。そういえばこいつ、ずっと謎生物とか猫らしきものとか呼んでるけど、他に名前はあるんだろうか? 俺がこの生物の第一発見者的な感じはするけど、こいつ個人の名前とかって……。

「そういやお前、名前なんていうの?」
「ん?」
「まあ、キモネコとかでいいか、見た目的に」
「ん゛ん゛っ」
「イテッ、なんだよ、気に食わかなかった!? だめ!?」

 見た目よりも重いパンチを繰り出されて、腹が痛い。
 俺の膝の上に座りながら、胸のあたりをカリカリとひっかいてくる。やめろ、服がぼろぼろになる。

「んー! ん゛!」
「何怒ってんだよ……」

 まあ確かに、キモネコはちょっと言い過ぎたかもしれない。見た目的にはそれがベストだけど、きもいなんて言われたらいやだもんな。俺は少し反省して、今度は真面目に考えることにした。

「じゃあ、かまぼことかどうだ? あれ美味しいし」
「ん゛ん゛ーー!」
「イッテェ! これもダメなの!? じゃあはまぐり! これだったら可愛いだろ!?」
「ん゛ーーー!?」
「イテテテテテテ!」

 思い切り胸に爪を立てられて、俺は大きくのけぞった。目線がふざけるなという感情を物語っていた。
 な、なんでそんなに怒ってるんだ!? 食い物の名前だったからか? でもまずい食い物の名前つけた訳じゃないし、そんな怒ることないと思うんだけど。慌てて引っぺがすと、謎生物は俺の手を離れ、勝手に俺の鞄をあさりだした。

「あ、コラ! 俺のノート!」

 大学のレポートやら課題が入っている鞄からノートとシャーペンを取り出すと、キモネコ(仮)は両手でペンを掴んで大きくノートに文字を書いた。

『灯』

「んっ!」

 指さされた。ともす? あかり? 悩んでいると、横に今度は平仮名でこう書かれた。

『ともす』

 なるほど、ともすと読むらしい。流れ的に、こいつの名前か? ていうか……

「……字、書けるんだ……」
「んっ」

 誇らしげに胸を張ると、灯は俺に頭を撫でることを要求するように手の下に頭を潜らせてきた。俺は諦めて、その手をがしがしと動かした。

「……はいはい、すごいすごい」
「んー! んー!」
「はいはい、よしよし。よくかけました」
「んっ」

 嬉しそうににこにこ笑うと、灯は俺に抱きついてきた。




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