スマイルペット@



 大学から家に帰ると、部屋の前に奇妙な生物がいた。
 薄汚れた着物を着ており、笑顔でんーんー鳴いている。大きさ的には膝より下の大型猫程度。だけど、猫っぽい要素は耳としっぽが生えてるくらいだ。顔は人間に見えるけど、やたら笑顔だし、薄汚れてるし。な、何だあれ? ねこ……いや、ね、ねこ? 妖怪?
 二頭身で首をゆらゆら揺れていて、正直気味が悪い。

「……なんかきもい」

 思わず本音を漏らすと、突然その猫? はすっくと立ち上がり俺の方へと歩いてきた。
 に、二足歩行だ! とか思ったら勢いよく蹴ってきやがった。

「いってー! 蹴ってきた!」

 ガン、という効果音でも付きそうな音を携えて俺の脛を蹴ってくる。しかも執拗に何回も蹴ってくる。嫌な奴だな。何しやがる! と下を睨みつけると、興奮したような声で猫? が鳴いた。

「ん゛ん゛ん゛っ! ん゛ん゛!」
「う、うるさっ! 声でっか! きもっ」

 予想以上にでかい声かつ、地獄の底から這いあがってくるようなドス黒さに、すぐさまそいつの口を押えた。にやけた顔が腹立つけど、小動物っぽいし、首とか絞めたら死んじゃうよな。じたばたと暴れるのを、とりあえず抱き込んで黙らせる。猫? 俺の腕の中で抵抗しているが、流石に人間様の力には敵わない様だ。

「ん゛んー!」
「うるさい、大家に見つかる!」

 別に俺が連れてきたわけじゃないけど、見つかって何か言われたら面倒だ。ここってペット禁止だった気がするし、追い出されたりなんかしたら超厄介。ていうか困る。
 こういう時に限って、大家が在宅だったりするし。俺は部屋の鍵を開けると、中にそいつを放り込み、見つからぬよう部屋の鍵をかけた。……とりあえず、これで見つかる危機は回避できただろう。
 謎の生物は畳の上をころころと転がっていくと、最終的には壁にぶつかって止まった。そしてそのまま動かなくなった。

「……お、おい、大丈夫か?」

 まさか死んだわけじゃないよな? ボールみたいに転がっていったのでちょっとびっくりした。
 ていうかこいつなんなの? 猫……いや、猫か? 猫耳っぽいけど、顔は人間みたいだし。二頭身で二足歩行で……こんな生き物見たことない。テレビ局とかに持ってったらすごい騒ぎになるんじゃないの?
 頭の中に一瞬「金」の文字が浮かんだが、微動だにせず転がっているそいつが心配になって、靴を脱いで駆け寄った。ゆさゆさと揺らしてみると、耳が僅かに動く。よかった、死んではいないみたいだ。

「おーい、生きてるか?」
「んっ! ん゛!」
「いてっ、いててっ!」
「ん゛! ん゛!」
「いてーよ! なんなの!?」

 生きていたのはよかったけど、勢いよく飛び上がると、今度は俺に向かって爪を立ててきた。その爪が尖っていてやたら痛い。猫に引っかかれたみたいに腕が赤く蚯蚓腫れになっていくので、慌てて抱きかかえた。

「おい、やめろ! 放り投げたのは悪かったから……ってきったねえ! お前すごい汚いな!? ドロッドロじゃん!」
「ん゛〜〜〜!!!」
「あだだだだだ!」

 俺の言葉が気に障ったのか、更に暴れてきた。
 もしかして、この生物は俺が喋ってることある程度理解してる、のか? ますますこの生物がわからなくなってきたけど、このまま暴れられたら部屋の中が汚れる。俺は謎の生物を抱きかかえたまま風呂場へと駆け込んだ。脱衣所で屈みこむと、生物が逃げない様扉を閉めた。

「ん゛ん゛! ん゛! ん゛ー!」
「イテテテテ! 暴れんなって! ほら、いーこいーこ、よしよーし。なっ、これ以上暴れんな」

 頭をぐりぐりと撫でると、少しだけ大人しくなる。未だ俺の腕には爪が食い込んでいるけど、もしかしたら撫でられるのが好きなのかもしれない。ならば、と俺はジブリのヒロインよろしく優しく頭を撫で続けてみた。髪も泥がついているけど、これは後で洗えばいいだろう。

「よしよし、爪立てるなよ〜」
「……んー」

 すると、さっきまで険しい笑顔だったのが、少しだけ和らいだ笑顔に変わった気がする。どちらにせよ笑顔というところが気持ち悪いけど。尻尾が俺の腕にからみついてきて、喉がごろごろ鳴りだした。こういうところは、猫っぽいんだけど。

「ん〜」
「お、大人しくなったな。よしよし、もう暴れたらだめだぞ」
「ん〜〜」

 にこにこと無邪気(?)な笑みに変わったので、俺はようやく一息ついて、そいつの着物に手をかける。そもそも、なんで着物を着ているのか不明だが、全体的に泥やらなんやらでぐっちゃぐちゃに汚れている。こんな姿で駆けずり回られたら、狭い俺の部屋はすぐに要掃除空間になってしまうだろう。着物の帯を解いて服を脱がすと、普通の肌が出てきて、少し安心した。……この着物が毛皮とかだったらどうしようかと思ったよ。知らず知らずの内に毛皮を剥いでいた、なんてことになったら嫌だしな。
 洗濯かごに汚れた衣類を放り込み、俺も着ていたシャツとズボンを脱いだ。どうせ汗かいていたし、家に帰ったらシャワーを浴びようと思っていたところだ。丁度いい、ついでにこいつを洗って俺もシャワー浴びちゃおう。
 ぽいぽいと衣類を洗濯かごに放り込んでいると、床に座っている生物がこっちをじっと見つめていることに気付いた。

「…………」
「? なんだよ」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」
「うわっ、何!? 何で急にテンションあげた!?」

 突然ジャンプして頭突きしてきた。なんだよ、今度は!? 俺の足にしがみついてよじ登ってこようとするのを阻止して、どうどうと落ち着けるよう屈みこんだ。さっきまで大人しかったのに、なんなんだ急に。髪についていた泥が跳ねるので、ジャンプするのはやめてほしい。下着を脱いで抱きかかえると、さっさと風呂の中に駆け込んだ。ここなら多少汚れてもお湯で流せばなんとかなるだろう。

「ん゛ん゛ん゛っん゛っん゛っ!」
「うるせーな、どうしたんだよ」

 風呂の椅子に座らせて、シャワーの口を捻る。最初は冷たい水が出ていたが、すぐに熱いお湯に切り替わったので、とりあえず頭からお湯をかぶせた。さっき引っかかれた腕にもお湯がかかり、少し痛い。
 そういえばこいつ、何で洗えばいいんだろ。謎の生物だけど、なんか違う方法とかあるのかな? まあ石鹸とかでいいか。ていうか、石鹸くらいしかないし。
 近くにあった石鹸を手に取り泡立てると、タオルでがしがしと擦った。すると今まで俺のことをじっと凝視していたのに、また奇妙な鳴き声を上げはじめた。

「ん゛……」
「いいから大人しくしてろ、綺麗にしてやっから」
「ん゛ん……」
「やめろ、どこ触ってんだ。次頭な」

 俺のちんこに手を伸ばしてきたので、その手は払い落として、今度は髪を泡立てる。こいつ、本当になんなんだろ。ていうか、顔だけじゃ判断しにくかったけど、こいつもちんこついてるし、多分オスなんだろうな。
 頭にお湯をかけて、しゃかしゃかと頭を泡立てると、少しだけ不満そうな声を上げた。

「ん゛ー……!」
「なんだよ」

 すると、俺を見上げて、近くに置いていた石鹸を浴室の壁に投げつけた。鈍い音を立てて、石鹸が浴槽内へと落ちていく。

「おいっ、何すんだ!」
「ん゛!」

 自分の髪を指さして、その後石鹸を指さした。それから、不満げに声を漏らす。笑顔の癖になんだよ、石鹸で髪洗うなとでもいいたいのか? 謎の生物の分際で生意気なこと抜かすな。腹が立ったのでそのままシカトして頭を擦った。

「ん゛ん゛〜〜!」
「ははは、バカめ、人間様の力には敵うまい……ってイテテテ! 噛みつくな! 痛いって」

 胸辺りに爪を立ててきたので、慌てて引っぺがした。あー、腕に続いてここまでひっかき傷が……。じろりと睨みつけると、生物は嬉しそうに手を上げる。何笑ってんだよ! ちょっと腹が立ったので、馬鹿にするように舌を出した。
 ある程度人間の言葉は理解しているみたいだし、少しくらい煽っても勝てるだろう。

「ばーか」
「ん?」
「ばーかばーか、二頭身ー」
「……ん〜」

 よくわからない煽りを入れると、小ばかにしたように笑われた。ク、クソムカつく……。こんな訳の解らん生物、風呂から出たら捨ててやる!



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