エイプリルフール性格逆転渦笠


エイプリルフールのネタです。
逆っぽく見えますけど渦見×笠原










 パチンコから負けて帰ってくると、部屋の中の毛布がこんもりと盛り上がっている。次いで聞こえてくるすすり泣く声。
 またか、と俺は呆れながら部屋に足を踏み入れると、そのまま毛布を蹴飛ばした。

「あうっ」

 現れたのは渦見だった。俺よりも幾ばくかでかい図体を前のめりにして、畳の上で顎を打っている。すすり泣きの原因は、大抵こいつだ。

「おい、今夏だぞ、なに毛布かぶってんだ」
「うっ……うぅ……」
「つーかその格好暑苦しいからやめろ」

 無理矢理毛布をはぎ取ると、中から涙と鼻水でくしゃくしゃになった渦見の顔が覗いた。せっかく作りがいい顔も、こうやって見ると台無しだ。未だ毛布に縋ろうとしていたので、とっとと毛布を畳んで押入に閉まった。
 外を出歩くのが好きじゃない渦見は、大抵こうやって俺の家に引きこもっている。渦見は、俺の顔を見ると、ゆっっくりとした動作で後ろから抱きついてきた。

「笠原ぁおかえり……おばけでた……怖かった」
「あっ、こらくっつくな! 鼻水がつく!」

 力だけは無駄に強い、絡まってきた腕を無理矢理ひっぺがすと、渦見は情けない顔をしてまたしくしくと泣きだす。
 傷ついたらしい。めんどくせー。こいつは、本当に泣き虫だ。何かあるとすぐ泣く!
 それでも男か、と窘めると更に涙を溢れさせる。メンタル脆弱にもほどがあるだろ。

「幽霊なんていたとしてもどうってことないだろ、バカかお前」
「だ、だって、怖いし……あの、顔が真っ白で、俺見て笑ったんだよぉ〜、怖かった……笠原今日一緒にねよ」
「ハハ、死んだ人間が何しようと無駄、生きてる人間の方が強いし。そんなことより今日またパチンコ負けてさあ、ほんっとついてねーわ」
「えっ、またパチンコいったの? 俺、ギャンブルは駄目だって言ったじゃん! 笠原もっと将来のことちゃんと考えて……」
「金ってのは使うためにあるんだよ、貯めてどうする」

 ふん、と笑って、その場に腰を下ろす。将来だって、なんとかなるだろ。貯金ゼロでも生きてりゃいいんだよ。渦見はおろおろとしていたけど、その内携帯をいじっている俺の隣に寄り添ってきた。
 どこが気に入ったのかわからないが、こいつは俺のことが好きらしい。ギャンブル癖のある浪費男が好きとは奇特な奴と思うけれど、実際付き合ってみると犬みたいに従順で泣き虫で常識的なことばかり言う男だったので、意外と楽しかったりする。こいつと一緒にいると、女の子と遊ぶのにもことかかない。なんせ黙ってたたせているだけで、女の子が寄ってくる。便利便利。
 俺のことが好きというから、セックスでもしたいのかと聞けば、顔を真っ赤にしながら「そんなつもりじゃ……」とか言う。お前は処女の女子中学生か。

「はー、腹減った。渦見、なんか作って」
「う、うん。笠原何食べたい?」

 俺が言うと、渦見はにこにこしながら台所へと向かった。こうやってみると、本当に便利な奴だなと思う。しょっちゅう変な物を見たといって俺に泣きついてくる意外は。
 俺自身、部屋に突然生首の女が床に転がっていたのとかも見たことあるけど、とっとと蹴飛ばして寝た。家主の俺の許可も取らず勝手に上がり込むとかどういう了見だよ、だいたい死んだなら大人しく死んどけっつーの。ぴいぴい騒ぐ渦見も渦見だ。

「笠原は……ぜんぜん怖がらなくて本当すごいね、俺、昔から怖がってばかりで……」

 そういう渦見は、自信なさげに笑った。これも、俺と一緒にいる理由の一端なのかもしれない。渦見は、おばけと呼ばれるこの世ならざるものが怖くて、俺はぜんぜん怖くない。
 なぜならば、俺は生きてる人間が最強だと思っているからだ。
 夜中に人の腹に乗ってきたり首絞めてきたりする女は髪の毛ひっつかんで風呂場に放り込んでるし、寝ている最中にぼそぼそうるさい男は逆にもっとうるさい音を聞かせてやった。テレビに映った妙な男は本気でいらついたのでそのままテレビを森に不法投棄。首がねじれた女は善意でもむ180度回転させた。そういうことをしてたら、近寄らなくなってきた。あんなやつらどうとでもなるわ。
 なのに渦見はいつまでもうじうじと怯えている。

「お前って本当こわがりな」
「笠原が強すぎるんだよ……。はい! ご飯できた!」
「ん、サンキュ」

 簡単な野菜炒めと白飯と味噌汁を受け取って、俺は飯にありついた。渦見は俺が食べる姿を嬉しそうににこにこと見守っている。

「見てんじゃねえよ」
「あっ、ご、ごめん」
「お前も食えば?」
「うん、……あひゃっ、俺、笠原とご飯嬉しい」
「あっそ」

 その瞬間、後ろの壁から舌打ちが聞こえた。それから、棚の上に置いてあったはずの物が落ちていく。
 声が聞こえた壁の向こう側は外で、ここは二階なのだから、誰かがいることはあり得ない。渦見がひぃっと引き攣った声を上げた。俺は舌打ちしながら立ち上がり、その壁に向かって、渦見の手をひっつかんで近づいた。

「か、笠原やだやだ! 俺そっちいきたくない!」
「いいから来い」

 いやがる渦見を抱きよせて、壁際に向かって舌を出した。それから、バカにしたように笑ってやる。

「羨ましいだろ、ばあーーか、生身の人間に触れられなくて残念でしたあ。お前にはもう無理。おい渦見、セックスするぞ」
「えっ、そ、そういうのは、は……、はしたないよ笠原っ」
「どこの処女だよ。いいからするぞ、飯食ったら、その壁の向こうにいる奴は、ただ黙って見てる位しか出来ねえんだから」
「う、うん……」

 顔を真っ赤にして、小さく渦見が頷いた。どうせ突っ込むのはお前のくせに、今更何恥ずかしがってるんだ。
 飯を一気に口の中へかっこむと、水を飲み干し、そのまま渦見にキスをした。渦見は慣れない様子で、目を堅くつむっている。

「か、笠原……すきぃ……」
「あっそ」

 とろんとした顔の渦見を押し倒すと、服を脱いで、キスして、それから……。
 こんなの、死んだ人間には出来ないだろ。だからやっぱり、俺ら生きてる人間が一番強い。
 死んだ奴は、そこで指咥えて見てろよ、バーカ。



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