ハッピーエンド

何もかも放り投げたオールキャラハッピーエンドルート
渦笠灯と同じ設定かと思われます。笠原総受け気味。百合含む
IFルート限定キャラも出ます。














 部屋の外で、蝉が喧しく鳴いている。俺は額から一筋流れた汗を手の甲で拭うと、テーブルの上に置いてあった、氷の説けた水を一気に飲み干した。……ぬるい。

「……あっつ……」

 熱気の籠った部屋の窓は、とっくに全開だ。
 エアコンもないこの部屋では、氷を入れてもすぐに温くなってしまう。テーブルの上に、結露で残った雫がじわりとしみだしていた。 もともとエアコンを取り付けるための専用回路というものが備わっていないらしい建物なので、工事をすると高額になると聞いた。
 俺は、例年通りうちわと扇風機で乗り切ろうと思っていたけれど、渦見と灯が、自分たちで出すからつけてくれと懇願してきたので、とうとう今年はつけることになった。けれど、連日の猛暑で、今はどこの店もエアコンが品切れ中らしい。
 諦めるかと思ったけれど、耐え切れなくなったのか、渦見も灯も、今はどこかの店にエアコンがないか探しに行っている。最悪引っ越すとか言い出して、何を言ってんだと思った。
 ちなみに、俺は温室育ちの軟弱なお坊ちゃん達とは違って、毎年エアコンなしで猛暑を過ごしてきた。
 だから、このくらい余裕余裕。
 まあ、ちょっと目の前くらくらするけど。

 水風呂にでも入ろうかと思案していると、唐突にインターホンが鳴った。
 緩い足取りで玄関へ向かうと、玄関越しに相手へ声をかける。新聞の勧誘とかだったら嫌だし。

「はい」
「はーい笠原きゅーん、ウチやで〜」
「っ」

 はんなりとした、柔らかな女性の声が、ドア越しに聞こえて、俺は思わず背筋を伸ばした。覗き窓から覗いてみると、そこには巨乳の美少女が立っている。
 夏らしいノースリーブに胸元を少しばたつかせて、可愛らしい笑みを浮かべていた。

「も〜外暑いなあ。ウチ、倒れそうやわぁ」
「…………」
「おいコラはよ開けろや、京花ちゃんが暑がっとるやん」

 開けずにいると、しびれを切らしたのか、がん、とドアを叩かれて、俺は反射的にドアを開けた。どうも、この声を聴くと萎縮してしまうのだ。
 ドアを開けると、そこには二人の女性と、一人の少年が佇んでいる。渦見京花と、渦見奏、それから、渦見雨。渦見の実家にいる、本家の連中だ。俺はへらりと愛想笑いを浮かべて、彼らに頭を下げる。

「ども……こ、こんな暑い中、どうしたんすか」
「視察に来たんだ。悪いな笠原」

 答えたのは、京花さんだった。
 いつも涼しい顔をしているイメージだったけど、流石に熱いのか、顔が赤い。近くにいた雨くんは、何も言わずにそっぽを向いていた。

「そ、そうですか。でも今渦見も灯もいないすよ」
「そうなん? でも、その内帰ってくるやろ」
「まあ……あ、どうぞ。中暑いですけど」
「ほなお邪魔しま……って暑っ! なんなんこの暑さ!? 笠原きゅんはサウナに住む趣味があったん? しかも臭い! 汗臭っ! ウチこんなん嫌や〜! 京花ちゃんも上がらせられへん!」

 散々な言われようだった。

「ていうかその恰好も女の子二人お迎えするにはあり得へんやろ!」
「いや突然来るから……」
「私が終夜に事前に連絡を入れたはずだが」

 聞いてない。渦見め、忘れやがったな。せめて灯なら知らせてくれて……いや、灯の場合、俺に事実を明かさずに、俺だけ連れてどこかに逃げそうだな。対応したのが俺でまだよかったと思うべきなんだろうか?
 とりあえず、確かに人を迎えるような恰好をしていないので、部屋に入ってシャツを羽織った。上半身全裸は、下手すりゃ通報される。
 部屋の鍵を持って、俺はドアを閉じた。

「えーっと……近くにファミレスあるから、そこであいつらが帰ってくるまで涼んでます?」
「ふぁみれす」

 京花さんが、反芻するように繰り返した。
 それから、少しだけ嬉しそうにして、こくりと頷いた。

「行こう、ファ、ファミリーレストランに」
「はあ……、あ、雨くんは?」
「僕は、ただ連れてこられただけなんで、どうでもええです」

 相変わらずやる気のない返事だ。今時の少年って、皆こうなんだろうか。
 京花さんが嬉しそうなのが気になるけど、とりあえず俺は携帯から渦見と灯に本家の人たちが来ていると言う旨をメールで送った。
 ついでに、近くのファミレスで待っているということも。炎天下の中歩くのは嫌だなと思っていたら、近くに白子を待機させていたらしい。その車で、俺達はファミレスへと向かった。


***


「……わ、私はこの、夏みかんパフェーとレモンソーダとバジルパスタにする!」
「ひゃーん、ほなウチもウチも! 京花ちゃんとおそろで食べるぅ、あっ、それとも別々の頼んで食べあいっこする? やんっ、それもう間接キスやんなあっ」
「……いつもこうなのか?」
「いや、そもそも僕は姉らと一緒にこういうところで食事することもないんで。これかて、旭さんがくるはずやったんです」

 注目を集める美少女と美少年は、店に入った瞬間から、注目の的だった。結構な美男美女が揃っているしな。その中で俺だけ浮いている気がする。
 席を案内してくれるお姉さんも、かなり可愛い方なのに、この二人と並ぶと平均的に見えてしまった。

「四名様ですか?」
「あ、えーと、多分あとから2人来ます」
「かしこまりました」

 席に案内されて、着席すると、物珍しいのか京花さんが辺りをきょろきょろと見回している。あの家の、しかも本家の跡取り娘だもんなあ、多分こういう所は来た事ないのかもしれない。せっかくわざわざ京都から出てきたんだから、少しくらい観光していくかな。

「後でどっか観光でもしてきます?」
「えっ……、い、いや、私は視察に来たんだ。観光は、その、いい」

 一瞬期待に満ちた目を向けたが、すぐに目的を思い出したように、軽く咳払いをした。雨くんは、届いたカルピスサワーを飲んでいる。奏にいたっては、俺に余計な事を離したら殺すという目をしていた。この女、本当怖い。

「視察っていっても、別に前と変わらないすよ」
「けど、あれは危険だからな。分家はともかく、呪い子に関しては一応、一般人である君を犠牲にして野に放っているんだ」
「そんな動物みたいに……」
「事実だ」

 冷たく言い放つと、置いてあるお冷に口をつけた。
 なんだかんだと色々あって、俺は今灯と渦見と、三人で暮らしている。
 ただ、それには様々な弊害もあるらしく、時折こうして本家の奴らが視察に来るのだ。灯はともかく、やはり渦見は「危険」と同時に、渦見の家にとって、なくてはならない存在らしいから。
 逃げられたくないんだろう。

「笠原は、あいつらと暮らしていて大変だな」
「まあ、慣れました」
「へえ〜、ウチあんなキチっとる男と暮らすの嫌やわぁ、笠原きゅんって変わり者やねっ」

 可愛らしい笑みを浮かべて奏が言ったが、それをお前が言うのはどういう了見だと思った。気狂い具合で言えば、渦見もこいつもどっこいだ。やがて注文したアイスコーヒーが届いた頃に、灯と渦見がお店に入ってきた。
 同時に、店の注目度が更に上昇した。美少女二人に美少年一人、美青年二人、そして俺。完全に違和感しか感じない組み合わせだ。

「良介くんっ! なんでこいつらとおんねん!」
「かーさはらー、外暑かった。俺ね、クリームソーダがいい」

 血相変えてやってきた灯と、全く動じず当たり前の様に俺の隣に座って店員のお姉さんにジュースを注文する渦見。こうやって見ると、一応兄弟なのに、全然似てないな。
 俺は落ち着けるように灯の肩を叩いた。

「まあ落ち着けって。別に連れ帰しに来たとかじゃないから」
「ほんまに?」
「状況による」
「こう言うてるやん!」
「お、大人しくしてたら大丈夫だって。……すよね?」
「状況による」
「僕良介くんと離れるのいややで! こいつは別に連れ帰ってもええけど! おい、お前もなんとか言えや」「あっ、きょーかちゃん、何飲んでんの? 俺一口貰っていい?」
「はぁ!? あかんにきまっとるやろ呪い子の分際で何京花ちゃんの飲食物に手ぇつようとしとんねんキショい」
「奏っていつもヒステリーババアで俺きらーい」
「ウチもお前のこと嫌いやわぁ〜」
「笠原さん、僕、帰ってええですか」

 混沌としている。
 各々が好き勝手喋ってるし、その割に話をあまり聞いていないし、なまじ見た目がいいだけに、妙な迫力がある。雨君の面倒くさそうな物言いに、俺も思わず帰りたくなった。そもそも、仲悪すぎるだろ。お前ら兄弟とか親戚なのに、この家の奴らは全員そうなんだろうか?
 他の客や店員の目が痛いので、帰りたいけど、このまま帰るわけにもいかない。こうなったら話題を逸らそう。

「そういえば灯と渦見、エアコンどうなった?」
「んっ、あったけど予約二週間かかるって。あの部屋で二週間とか俺死んじゃうよ〜」
「あー、僕も色々聞いたけどやっぱ工事となるとそんくらいかかるらしいて。二週間くらいやったらホテルに住む?」
「アホ、金いくらかかると思ってんだ」
「俺が出すのに」
「僕も出すよ」
「…………駄目」

 魅力的な話ではあるけど、対価として何か要求されたら怖いし、俺はエアコンなしでも過ごせないこともない。

「どうしてもっていうなら、お前ら二人でホテル泊まれよ」

 そう言うと、苦虫噛み潰したような顔で二人は顔を見合わせた。

「絶、対、嫌や」
「俺もやだー」

 届いたクリームソーダのストローを齧りながら、渦見が眉間に皺を寄せる。いつの間にか、オーダーした料理が届いていたらしい。テーブルの上を所狭しと料理が並んでいいた。
 京花さんの目の前には、大き目なパンケーキが置かれていて、目を輝かせながらナイフとフォークを入れていた。やっぱり、女の子だから、ああいう甘い物が好きなんだなあ。と思ったら、隣の奏はそんな京花さんを幸せそうな目で見つめながら、苦瓜ジュースとかいう、全く需要の無さそうなドリンクを飲んでいた。見た目だけなら女の子そのものという容姿なのに、やっぱりこの女はずれてる。
 見た目だけなら、最高なのに。

「笠原さん、頼んだ炒飯来てますよ」
「あ、ああ、ありがと。雨くんはカルピスだけ? 飯いいの?」
「そんなお腹空いてないんで。でも、笠原さんが何か食べたいものがあるなら頼んで分けてもええですよ」
「え、マジで? じゃあ俺この唐揚げとポテトの盛り合わせとレッドスパイシーチキン」
「良介くん、そんなジャンクなもの食べたらあかんよ! 僕がもっと美味しいご飯作るし!」
「お前のジャンクじゃないじゃん。俺はたまにはジャンクなものが食いたい」
「このチキンのやつ俺も食べるから二個頼む。おねーさん! 注文追加ー! あとこのカツ丼大盛りとー」

 渦見が手を上げると、店員が駆けつけてくる。見た目に似合わず、良く食べる渦見と京花さんに、店員も少し動揺している様だった。

「今日は、この後どうするんですか?」
「むぐっ……ん、んん。そ、そうだな。とりあえず今の所大丈夫そうであれば、後はもう帰るだけだ」

 食べている最中に話しかけたせいか、少しだけ驚いた様に咽ながら、京花さんが答える。

「そうすか」
「ほんまは、一泊くらいしていこうと思ったんやけど、あの部屋は無理やね、人が住むとこやないもん」
「……すんませんね」
「笠原きゅん、おうち来る? 雨くんも待ってるよ」
「僕、待ってないです」
「こう言ってますけど」
「ツンデレなんよ」

 にやにやと笑いながら言う奏に、雨くんがそっぽを向いた。その隣で、灯が嫌そうな顔で奏を見ている。渦見と京花さんは、食べるのに夢中の様だった。
 こうやって見ると、あの異常な出来事なんてなかったかの様に見える。普通の大学生と変わらない平和な日常風景に、少しだけ和んだ。ずっとこうだったらいいのにな。




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