冬の日


「良介くん、あんまり意地張ってると凍死してまうよ」
「部屋の中で凍死はしねえよ。つーか俺の布団はどうした」
「捨てた」
「お前!」
「あんなん人が寝る布団やないし。茣蓙とそう変わらへんやん、昔物置にあったやつやであれ」
「喧嘩売ってんのか」
「ええやん、僕が買うてきた布団あるしこっちのが寝心地ええし、くっついたらあったかいしで一石二鳥やん。その変な柄の半纏脱いでさっさとこっちにおいで」

 ぽんぽん、と敷き布団を叩いて、灯が胡散臭い笑顔で言った。
 大学行って直行でバイト行って、疲れて家に帰ってきたら、俺の布団はなくなっていた、代わりに見知らぬ布団が置いてあった。百歩譲ってそれはいいとして、なんで俺の布団捨てるんだよ。布団買ってくるならせめて俺の分も買って来いよ。一つだけ買ってくるって嫌がらせか。これ、俺一人で使っても許されるよな?
 いかにも高そうな高級布団を値踏みしながら、布団を引っ張った。

「お前もうこの布団寄越せ、お前は一人で寝ろ」
「あ〜、もう何すんの良介くんの人でなし。寒いやん。ただでさえこの部屋寒いんやから、ほら、このすきま風。あばら屋にも程があんで」
「追い出すぞ」
「嘘や、うそうそ、冗談やって」

 若干焦りながら、灯が布団を引っ張った。人でなしとか、どの口が言ってんだ。お前ほどの人でなし、俺はそうそう見たことがなかったよ。
 布団から這い出て、毛布に包まりながら、灯が羽毛布団を俺に巻き付けた。
 その瞬間、今まで味わったことのないような、もふもふとした感触が俺を包み込む。
 う、うおお……、なんだよこの肌触り! 超気持ちいいんだけど! 柔軟材でも使ってんのか? 今まで俺が使ってた布団がマジでゴミに思えてくるからやめろ、贅沢は敵だ。つーか、一大学生が使うには豪華すぎるし、いくらしたんだこの布団?
 いや、こいつが勝手に買ったんだから、別にいいんだけど、万が一この布団に何かこぼしたり、汚したりしたら弁償を要求されたりしないだろうか? 温くて気持ちいい反面、ひやりとした予感が頭をよぎる。
 何千円……とかじゃないよな、万はするな、確実に。流石に十万とかはいかないだろ……。いやでも高いやつってそれなりの値段したりするからな。こいつ、なんだかんだ言って坊ちゃんだし、金銭感覚だだ狂いしてそうだし、あり得ない話でもない。布団に十万って、十万ありゃ安い家電一式そろえられるぞ。

「な? あったかいやろ? 気持ちええやろ?」
「懐は寒くなっただろ……」
「良介くん……ここでお金の話持ち出すんやめてくれはる? ムードないなあ」
「いや最初からムードはねえよ」

 呆れた顔で灯が息を吐いた。けど、実際気になるだろ。この布団一枚が俺の食費何ヶ月分だよって、気になったりするだろ。
 しかし灯は値段を言う気は特にないようで、自分がくるまっていた毛布も俺へと分け与えてくる。さらに心地よい柔らかな毛布に触れ、バイトと学生生活の疲れもあり、なんだか眠くなってくる。
 ああもう、ここで言い争っていても俺の布団が今すぐ帰ってくるわけでもないし、なんだか面倒くさくなってきた。

「……近々俺の分の布団も買うからな。ずっと一緒には寝ないぞ。今日だけだ今日だけ」

 とりあえずの妥協案を出して、俺は布団の中へと潜り込む。
 灯は確かに人でなしと呼ばれるにふさわしい奴だけど、この寒い時期に、布団なしで眠らせるほど、俺は鬼畜でもない。いや、布団捨てたのはこいつだから、それくらいしてもいい気はするけど、こいつめっちゃ騒ぎそうだしな。
 すると灯は嬉しそうに俺の隣へと並ぶ。

「わかった。今度良介くんの布団買ってくるわ。さ、寝よ寝よ」
「……おい」
「ん?」
「服脱がす必要はねーだろ」

 どさくさに紛れて何しようとしてんだよ。
 どてらの紐を解き、服を捲ろうとしている手を掴んで睨みつけると、灯は笑みを崩さずに答えた。

「いや別に変なこととかせえへんし、人肌の方があったまりやすいかなー思って」
「雪山か。つーか雪山でもやんないけどな、お前絶対変なことするなよ」
「あらら、釣れへんわ〜」

 砕けた口調で言いながらも、右手がズボンを下げにかかっている。

「だから脱がすなっつってんだよ! 脱がねえし俺はもう寝る! お前もう出てけ!」
 
 手を叩いて、若干距離を取ると、俺は布団を奪い毛布にくるまった。

「良介くん、僕の布団なくなるんやけど」
「そうか、風邪引かないように気をつけろよ、おやすみ」
「えー、りょーすけくーん、怒ったん? 冗談やって、嘘やん君、僕寒いと寝られへんねん。なあ」
「…………」

 ゆさゆさと肩を揺さぶられたが、無視して目を閉じた。俺は寝ました。もう起きません。おやすみなさい。
 ……まあ、あれだ。布団なしで追い出すほど鬼畜じゃないとかさっき思ったばかりだけど、一日くらいなら、布団なくても大丈夫だろ。厚着すればいけるいける。俺ここに引っ越してきたとき布団なかったこともあったけど、今も大丈夫だし。
 なんとかなるって。

「良介くん、寝た? 寝てへんやろ、君嘘つくの下手やもんな、僕冷え性やから寒いねんけど、入れて? なあなあ」
「…………」

 懲りずに布団ごと揺らしてくる。俺は尚も寝たふりを強行する。

「良介くん、良介くん、起きてるんやろ」
「…………」
「良介くん」
「…………」
「…………」
「…………、何しようとしてんだよ」
「やっぱり起きとるやん」

 間近に迫った顔を手で止めて、無駄に整った顔の口元を抑えた。危なかった。

「布団、入れて」
「……もう脱がせようとすんなよ」
「わかった」
「嘘くせえな」
「ほんまやて。今日はせえへんから」
「今日はっていうな。今後もこの布団じゃ絶対しねえよ。高そうだし、汚したら勿体ない」
「……貧乏性すぎるんも考え物やなあ」
「なんか言ったか」
「別に。今度買ってくる時はもうちょい薄い奴にするわ」

 訳の解らない納得をしながら、灯が布団の中へと潜り込んできた。
 個人的には、高い布団の方が買ってもらえると嬉しいけど、高い買い物って後が怖いし、やっぱり俺には煎餅布団の方がお似合いなのかもしれない。


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