全てが終わった後、僕は灯様のお体を綺麗にするため、お湯を張った盥を床に置き、タオルを絞っておりました。灯様は、まだぐったりしたように、というよりも、気を失って、布団にその身を投げ出しておりました。色は白く、血の気が失せておりましたが、犯され死んだということはないようで安心しました。
 いくら仕置きだったから触った、犯した、といっても、灯様は渦見の人間です。元々身分が違います。こんな場所で、裸で転がっていていい筈がないのです。先輩方は皆そもそも旭様の熱狂的な信者なので、すでに引き上げておりますが、僕は少し灯様に思うところもあり、その後のお世話を申し出ました。旭様の命令を遂行した今、早いところ身を清めて差し上げなければ。
 濡らしたタオルで体を拭いていると、意識が戻ったのか、ゆっくりと目が開きました。長い睫が、何度か影を作ります。僕は慌ててお体を支え、手をお貸ししました。顔色はとても悪いですが、意識ははっきりしているようです。近くにいた僕をじろりと睨みつけ、洗面器を持ってくるよう命じました。幸い、使用するかもしれないと持ってきていたので、すぐ様それを灯様にお渡しします。

「っ、お、えぇえぇえぇぇぇぇ」

 僕から引ったくるように奪うやいなや、びしゃびしゃと吐寫物を洗面器内にぶちまけました。胃液ではない白い液が、多量に中へ収まりました。

「げほっ……げほっ、うええぇええっ、おえっ」

 何度かえづいて咽ると、息を乱しながら、洗面器から顔を上げました。口の端から垂れた体液を僕の服で勝手に拭うと、腹いせとばかりに殴られました。

「いっ……!」
「ああー……胸くそ悪……くっさいもん飲ませよって。僕はあんな風に良介くん犯してへんわ」

 灯様は、機嫌悪そうに眉を寄せると、苛立たしげに髪をかきました。精液まみれの御髪が乱れたので、そっとタオルを差し出すと、うるさいと言わんばかりに顔にタオルをぶつけられました。しかし、腹の虫は収まらない物の、僕が想像していたよりも遙かにまともな意識を持っておられました。もっと錯乱して取り乱すかと思っていたのですが、灯様も渦見の家の子。もしかしたら、慣れていらっしゃるのかもしれません。灯様のお父上の龍様も鴇様も、灯様に厳しいとお伺いしておりましたので。
 気だるそうに首元を掻くと、灯様は僕を睨みます。その目が今にも僕を殺しそうな程憎悪に溢れていたので、ぞくぞくと肌が粟立ちました。殴られた頬が痛みますが、灯様に殴られたと思えば、そう悪くありません。渦見の方に殴られるのは、名誉なことなのですから。

「おい、お前」
「はい」
「何しとんの」
「と、灯様のお体を綺麗にしようかと……」

 そう言うと、灯様はげらげらと笑いました。

「お前らが汚したんやろが! くっさいザーメン擦りつけて僕ん中にどんだけつっこんどんねん! 何がしたことをされてみろや、僕あそこまでしてへんわ! あーくそ、腹立つ! ぼけっと突っ立って見とんなやこん木偶の坊!」

 さっき吐かれた精液混じりの胃液が入った洗面器を僕に投げつけると、近くにご用意しておきました着物を羽織りました。僕は異臭に塗れた服で灯様を不快にさせない様、早々に袈裟を脱ぎ、ひっくり返った吐寫物をタオルで拭いました。

「だいたい、僕をお前らと一緒にすんな、良介くんも、何で終夜やねん、あんな奴と一緒におっても不幸になるだけやんなあ、お前もそう思うやろ!」
「お、仰る通りです」

 急に話を振られてたので、慌ててお答えしました。ご自身が犯された事よりも、贄がいなくなってしまったことの方が、灯様はお悔しいのでしょうか。そもそも、灯様がどうして本家のご命令に逆らってまで、贄なんて手中に入れようとしたのでしょうか。贄なんて、それこそ代わりは沢山いるのに。終夜様と仲が悪いからでしょうか。
 僕の同意に、少しだけ気分を落ち着けられたのか、僕を冷めた目で見てきました。この目は、旭様に欲似ておられます。

「ちゅーか、お前誰やねん」
「白子です、灯様」
「そんなんわかるわこのクソボケアホんだら、魚みたいな面しよって殺すぞ。誰の白子や、旭兄か」
「は、はい……」

 勢いに押されて頷くと、灯様は何か考え込むような顔を致しました。何を考えていらっしゃるかは、白子である僕にはわかりませんが、やがて顔を上げると、やはりそのお顔は綺麗だな、というのが僕の感想の全てでした。

「旭兄の白子なら、なんでまだここにおるん。もう命令終わったやろ」
「あ、いえ……その、お体が汚れたままだと、申し訳ないので」
「……ふーん」

 すると、灯様はにこりと笑いました。にこりというよりも、にんまり、という表現が似合いそうな笑みでした。僕を片手で呼び寄せると、するりと長い指を僕の頬に這わせ、つつつ、と下へなぞっていきます。その仕草に、思わずどきりと心臓が飛び跳ねました。
 先ほどのお姿も扇情的でしたが、それとはまた別種の、色っぽいお顔をされていたので、逸る心臓を押さえながら、もったいないとばかりに、僕は後ろへ下がりました。

「お前、名前は」
「し、しろ」
「せやから白子なのはしっとる……まあええわ、シロでも。何歳?」
「は……」
「何歳か聞いとんねん。その耳は飾りか、削るの希望なら削ったんで」
「今年で、25になります」
「年上かい、童顔やな。まあええわ。……なあシロ、僕お前に頼みがあんねん」
「た、頼み、ですか?」
「そう」

 ぴたりと肌を合わせてくる灯様に、僕の心臓はさらに早くなりました。唇から覗く赤い舌が、そんな僕を笑うように、小さく揺れました。灯様の手が僕の手の上に置かれます。誘惑でもしているかのような仕草に、、いえ、実際、誘惑されているのかもしれません。誘うような視線に、僕は狼狽えました。白子は、何があっても狼狽えないようにと言われているのに、こんなだから、いつまでたっても新参者扱いなんです。

「あ、あ、あの」
「お前も僕に突っ込んだっけ? 意識とんどったからなあ。あんま覚えてへんけど、気持ちよかった?」
「は、はい」

 素直に頷くと、灯様はにっこりと笑いました。
 お恥ずかしい話ですが、最後の方は僕も参加させてもらえたので、灯様の中に、己の欲望をぶつけました。あまり長くは持たず、すぐに達してしまったのですが、灯様の中はとても心地よかったです。
 灯様は、両手で僕の頬を包むと、耳元で甘えた声で囁きました。

「もう一回、したってもええよ、お前と」
「え、え」
「その代わり、協力してほしいねんけど」

 相変わらず美しい笑みを浮かべながら言う灯様に、僕はねじ巻き人形の様に首を縦に振りました。ごくり、と自分で生唾を飲み込んだのがわかります。魅惑的な誘いに、僕の手が灯様の方へと伸びていきました。
 くすくすと笑う声に、僕の思考は麻痺していったのです。


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