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幼児化パロ。灯ルート設定(?)

何がどうしてそうなったのか、全く理解できないし、非現実じみているけど、今目の前で起こっているのは完全なる事実な訳で……。
 いくら現実逃避しても、そいつは俺の目の前で小動物めいた顔を怯えさせているのだから、目を逸らす訳にもいかない。これは夢だと納得させて目を瞑るのは、実はすでに一度やったが、目を覚ましても状況は変わらなかった。
 現実、これは現実。
 俺は首を軋ませながら動かし、隣で固まっている灯に声をかける。

「お前のさあ……親戚の子とかじゃねえの?」
「ちゃうよ。そもそも、此処に居る意味もわからんし、部屋鍵かかっとるしな」
「……そうか……」
「誰? ここ、何処?」
「…………」

 目の前で、きょどきょどと不安そうに辺りを見回している子供が、俺たちの前にいる。いつの間に現れたのかとか、どうやってここに入って来たのか、全くわからない。朝起きたらそこにいた。天使の様な顔で、俺の目の前ですやすやと寝息を立てていた。
 最初女の子かと思ったくらい可愛い顔立ちの子供で、頬はふっくらと丸っこく、髪の毛には天使の輪が出来ていた。美幼女と呼んでも差し支えのない顔だったから、いつの間にか犯罪に手でも染めたかと思ったけれど、俺は酒を飲んで記憶を飛ばしてないし、そんなことをした記憶もない。
 何より、その子が最初に放った一言に、俺達は硬直した。

「誰? 旭兄と夕姉は? 白子もおらんし……お母さんは?」
「……えっと、君、名前は?」
「うずみ、ともす」

 俺のすぐ隣で、舌打ちが聞こえた。



**



 深呼吸して、灯を見た。

「状況を整理しよう、つまりこの子は、子供の頃のお前ってことか……?」
「クローンでも作ったんやなければ、そうなんやないの。旭兄はともかく、夕姉知っとるこのくらいのガキなんて居てへんよ」
「ちょっと待て。簡単に言ってるけどな、そんなことあってたまるか。あり得ねえだろ、お前、小さい頃こういうタイムスリップ的なことしたのか?」
「良介君て夢見がちやなあ。あるわけないやん。普通に楽しくない子供時代やったで」

 乾いた笑みを浮かべながら、灯が灯を見た。
 面倒くさいので、いつの間にかやってきた小さい灯は、ちび灯と呼ぼう。チビ灯は、突然知らない所に来たせいか、部屋の隅っこで座ったまま動かない。
 さっきから、俺達を観察するように眺めている。警戒しているんだろう。っていうか、そりゃそうか。俺たちが朝目覚めたら、突然現れていたんだ。向こうも、朝目覚めたら突然知らない場所にいたのかもしれない。
 何歳くらいだろう。見た感じ5歳? 6歳? そのくらいの子供が、怖いだろうに、よく泣かずに黙っていられるもんだ。

「つーか、実はお前の子供じゃねえの? 知らない間に……とか」
「僕は避妊もせんと女孕ます様なことせえへんもん。面倒やし。まあ良介くんには中出ししたけど」
「子供の前でそういう事言うのやめろ」

 意味はわからなくても、良心的によくないだろ。ただでさえ変な状況なんだ。これ以上混乱させたくない。

 それに、仮にチビ灯が、過去からタイムスリップしてきた存在だとして、そのことを伝えるのってどうすればいいんだ。君は過去から来たんだよって言うのか? 漫画やアニメじゃあるまいし、言ってどうすんだよ。
 混乱に、頭がついていかない。戻れるのか? 戻せるのか? いや、そもそも本当にタイムスリップ? 壮大なドッキリの可能性もあるけど、そんなドッキリを仕掛ける意味がわからないし、誰がするってんだそんなこと。
 それに、さっき少しだけ話したけれど、灯自身が、子供の頃体験したエピソードを知っていた。それは灯しか知らない事だと言っていたので、誰かが騙っていたりするのは考えにくい。
 つまり、今隅っこに座っているのは、本物の子供時代の灯の可能性がある……けど、こんなこと現実であり得るのか?
 俺が悩んでいると、灯がチビ灯に近づいた。

「お前、捨てられたんやで」
「えっ?」

 灯が、ちび灯に向かって口元を歪めた。ちび灯が、その言葉に目を見開く。

「皆お前の事嫌いやから、寝とる間にこのボロ屋にお前のこと捨てたんや」
「う、嘘や! そんなん!」
「本当やで、わかっとる癖に。知らないふりしようとして、アホやなあ。ほんまはわかっとんのやろ。だーれもお前のこと……」
「やめろ馬鹿!」

 突然過去の自分に向かって非道なことを言いだした灯の頭を叩くと、灯が発言をやめた。というか、舌でも噛んだのか口を抑えて悶えている。自業自得ということにしよう。
 だって、見知らぬ場所で目覚めて訳のわからないことになっている子供に対して、何を言い出すんだ。つーかさりげなくボロ屋とか言ったか。頭かち割るぞ。

「何言ってんだよ……!」

 いくらこいつが子供時代の灯でも、流石に可哀想すぎる。知らない所に来たとおもえば、捨てられたとか言われて。俺だったら泣くぞ。
 案の定、チビ灯は唇を結んで、半ズボンを握りしめている。けれど、涙は浮かんでなかった。

「そんなことあらへんもん……、僕、捨てられてへん」
「そ、そうだよ。ごめんな、こいつ変なこと言って」
「……誰?」
「あ、えーと、俺は笠原良介って言って、うーーーんと、き、君の親戚の友達で、ちょっと色々あって、君を家で預かることになった、んだよ……、少しだけな」
「良介くん、何い……」
「だから、ちょっとの間よろしくな、大丈夫、捨てられてなんていないから!」

 しょげいていたチビ灯を励ますように、ぐりぐりと頭を撫でると、元々大きく黒目がちな瞳が、ぱちくりと瞬いた。横から、灯が俺の腕を引っ張ってくる。

「何言っとんの? ここに置く気なん?」
「仕方ないだろ、本当の事なんて言っても、信じられないだろうし、怖いだろ、こんな状況。知らない大人二人に囲まれて」
「警察にでも連れていけばええやん」
「お前、一応自分だろ? 連れてった所でどうにもなんねえじゃん。そもそもどうやって説明すんだよ。下手したら俺ら誘拐犯になるぞ」
「ただの馬鹿なガキやで。最悪外に放り出せばええ」

 灯は、この子供時代の自分に対して、あまりいい感情は持っていないらしい。というか、嫌っている様にすら見える。俺が昔の自分が今目の前にいたとして、こんなこと言うだろうか。
 どんだけ屈折した子供時代を送ってたんだコイツは。
 子供時代のこいつの方がよっぽど子供らしくて、まともに見える。撫でられた頭を抱えながら、チビ灯が俺を見ていた。

「……僕、しばらく此処に居らなあかんの?」
「ん?あ、ああ、すぐ家には戻すけど、心配するな、大丈夫だから」
「…………わかった、いる」

 意外にも、素直にチビ灯は頷いた。
 成長してもこういう風に素直だったらいいのに。ひねくれて嘘ばっかつくしな。どこをどうしたらこう育つんだ。

「怖かったか?」
「別に……、このくらい怖ないし」
「そうか、すごいな、偉いぞ」

 明らかに怖がっていたのに、そっぽを向きながら強がる姿は微笑ましいし、可愛らしい。子供らしくて、俺は笑みを溢した。
 どうしてこいつがここに来たのかわからないけど、来たんだったら、戻す方法だってあるはずだ。ある日急に戻るかもしれないし。灯は隣でにこりとも笑わなかったが、俺だって、こんな真冬に子供を外に放り出したりしたくない。
 もっと自分に優しくなれよと言いたいが、そもそも灯の中でこの子供時代の自分は別物と分類されているのかもしれない。
 まだジト目で俺を睨みつけているが、とりあえず自己紹介しないと始まらない。

「俺は、笠原良介、こいつは、えーっと……」
「渦見灯」
「僕と同じやん、真似せんといて!」
「は? お前が真似しとんのやろ」
「子供と同じ争いすんな。じゃー灯と同じだから……えーっと、ともすじゃ紛らわしいから、ともすくん、でいいか」
「なんや新鮮やわ」
「お前じゃねーよ」
「……名前、呼んでくれはるん?」
「え?」

 きょとんとした目で、ちび灯が口を開いた。呼んでくれるも何も、呼び名がないと不便だろうに。灯は、罰の悪そうな顔でそっぽを向いている。

「そりゃ、名前は呼ぶだろ、あ、別の呼び方のがよかったか」
「ええよ、それでええもん」
「そうか」

 首を左右に振ると、ちび灯は俯いて、しゃがみ込んでしまった。俺、何かしたか? 本人に直接聞いてみようと灯に目を遣ると、底冷えした目でちび灯を睨みつけていた。
 怖っ、何がそんなに気に食わないんだ。

「とりあえず、飯にするか……、ともすくんは何食べたい」
「りょーすけくんが作ってくれはるん?」
「良介くんって呼ぶなやクソガキ」
「う……」
「怖がらせんなアホ! 気にすんな、それでいいよ」

 さっきから何が気に食わないのか、敵対心丸出しで、灯はちび灯に冷たく当たる。すでにとんでもなく面倒くさい事態だけど、更に面倒くさくなりそうだ。



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