飯倉×笠原っぽいの



 俺と笠原のつき合いは、結構浅い。というよりも短い。
 大学で一番最初にとった講義の席が隣同士で、消しゴムを忘れたから借りたら、そっからなんとなく話す様になった。
 そんでもって、よく遊ぶようになったりして、今に至る。それだけだ。

 でもまあ、話してて楽しいし。貧乏性なところ除けばいい奴だし、大学内ではかなり仲がいい部類に入ると思う。自分で言うのもなんだけど、友達は広く浅くな俺が、結構仲が良いと思う程度には、友達だと思ってる。つーか、笠原もそうだと思いたい。
 俺は笠原の事は普通の奴だと思ってるし、実際普通の奴だった。最近までは。


「うー……気持ち悪いぃ……」
「お前、飲み過ぎだから、ちゃんと歩けって」

 ぐったりした笠原の肩を抱いて、背中をさする。
 久々の合コンで、まさかこんな潰れるまで飲むとは思ってなかった。
 ペットボトルに入った水を渡して、死にそうな笠原の体を支えた。飲み会という名の合コンだけど、笠原が来たのは非常に珍しい。
 今日は俺が幹事じゃないし、笠原こんなんなっちゃったし、誘った手前、そのままにもしておけず、俺は笠原を送る役をかってでた。
 まー、今日の合コンはずればっかりだったし、別にいいかって。

「ううー…」
「大丈夫かよ笠原。ちょ、いったんそこ座れ」

 バス停に続く途中の公園にあったベンチに腰をかける。冬も近づいてきたせいか、結構肌寒いが、飲んでたおかげで結構暑いし、風邪をひくことはないだろう。
 俺は飲みすぎないようにセーブしてるけど、笠原って結構酒弱いのか?
 深夜帯のせいか、周りには誰もいない。時計を見ると、十二時三十分。もう最終のバスには間に合わないだろう。ちょっと懐が痛むけど、タクシーを捕まえるしかないかもな。後で割り勘したら、笠原二度と飲まないとか言うだろうな。
 笠原がここまで潰れなければ、普通にバスと地下鉄で帰れたんだけど。
 珍しく合コンにきたかと思えば、これだもんよ。
 隣で未だ酔いつぶれている笠原を見て、小さく息を吐いた。顔が赤い。そりゃ、あんだけ飲めば赤くもなる。

「笠原、立てる? タクシー乗り場まで頑張れ」
「う……」
「かーさはらー、起きろー」
「……あー、……渦見?」
「あ?」
「うぅ、気持ち悪い……眠い……」
「おいおいおい」

 ごん、と頭が俺の胸に当たった。
 倒れそうになるのを、支えると抱きつかれて、思わず硬直した。
 ……笠原は、普通の奴だ。
 機械に弱くて、貧乏性なところを除けば、本当に普通で、いい奴。だったんだけど、夏休みが終わってから、ちょっと認識が変わった。
 別に笠原自身がどうにかなったってわけじゃないんだけど、あろうことか渦見とつき合いだしたから、周りの目が「変な奴」になっちゃったんだと思う。
 だって渦見だぜ。あの何考えてるかわからない超変人の宇宙人。違うじゃん。お前、今までそういうのと関わろうとしなかったじゃん。
 それなのに、付き合うとかって。しかも、恋愛的な意味で。

「うー……」
「おい、起きろ」

 最初はさあ、えっ、マジ? って思ったけど、どうやらマジらしい。
 笠原も、最初はデマだと否定してたけど、最近は特に否定しないし。
 笠原自身は、ぶっちゃけあんま変わってない。前と変わらずに話している。別に男とつき合ってる以外は普通なんだけど、こうやってると、やっぱりなんか違う気がしてくるから不思議だ。

「うーずーみー……」
「酔いすぎ。俺は渦見じゃねーぞ」
「うひひひ」

 駄目だ。完全にぶっ壊れてる。けらけらと楽しそうに笑う笠原の頬を摘まんだが、手冷たいと気持ちよさそうにするだけだった。
 ……なんでこうなったんだろうな。
 渦見はいいよ。あいつは、よくわかんないし、男とつき合ってますとか言われても「ああ、渦見だもんな」でなんとなく謎の納得ができるから。
 でもその相手が笠原だと言われると、なんでだよ、て言いたくなるのは何故だろう。何か接点あったか? いや、確かに前から仲良かったけどさ。よく笠原にくっついてたし。しかも今は一緒に住んでるみたいだし。でも、別に笠原じゃなくてもいんじゃね?
 他にももっといるんじゃねえの、なんで笠原だよ。
 もやもやとした気持ちが沸いてきて、抱きついてくる笠原を強引に離した。

「俺は渦見じゃないって」
「よしよし、ははは、連絡入れ忘れたからって怒るなよ」
「いやだから俺は渦見じゃ……ってお前連絡入れてないの!?」

 やばい。
 渦見はちゃらんぽらんでいい加減に見えるけど、ああ見えて嫉妬深いって俺は知ってるし、巻き込まれたらやばいってのもわかる。俺の第六感がそう告げている。こういう勘は結構いいんだ。
 笠原には猫かぶってるかもしれないけど、あいつ、怖いからな。笠原の尻ポケットに入っているスマホを引っ張り出すと、笠原はくすぐったそうに身を捩った。

「うひゃはは、くすぐったいって」
「ああもー、笑うな酔っぱらいが。うわー、めっちゃ着信入ってんじゃん! つーかお前の彼氏怖っ!」

 笠原は気づいてなかったのか、それとも気づいていて無視していたのか、携帯には何件か渦見から着信が入っていた。多分、メールも入っているんだろう。

「……つーかお前、渦見に合コン行くって言った?」
「渦見はお前だろー?」
「聞け。いいか、俺が合コン誘ったとか言うなよ? めっちゃ怖えからな」
「よしよーし」
「聞け!」

 いつも仏頂面な笠原にしては珍しく上機嫌だ。楽しそうに頭を撫でてくる。こいつ、俺が渦見だと思ってんのか?
 対して、こっちは全然上機嫌になれない。恋人に黙って合コンとか、渦見じゃなくても怒るだろ。いや、まあ今回はタダ酒だぜって誘ったのはこっちなんだけど。合コンじゃなくて飲み会って誘ったのも俺なんだけど。
 だってあいつら笠原誘えってうるさいんだもん!
 話のタネになるからか? 女の子は渦見が気になるけど直接は話せないのか笠原誘えって言うし。結果誘われてやってきた笠原は帰ろうとしてたけど結局めっちゃ飲まされて潰されるし。そんでこんな事になってるんだけど、あれ? もしかして悪いのって俺?
 ……いや、こんなこと考えてる場合じゃない。とにかく早く家返さないと、渦見が怖い。つーかヤバイ。

「おい笠原立て。早く帰るぞ」
「んー……ははは。ん」
「う」

 ちゅ、と唇が触れた。ん?

「機嫌直せよー、悪かったって言ってんだろうがボケー」
「か、笠原くん? マジでしっかりしてくんね」

 キスした。つーかされた。笠原は俺のこと渦見だと勘違いしてるから出来たのかもしれないけど、俺はお前の事彼女と勘違いしてないからな!?
 未だベンチにかけてへらへら笑っている笠原を見て、頭を抱えた。笠原って、こういうことすんのか。マジか。こいつ結構淡白そうだし、そういうことと縁がないかと思ってた。
 まあ、つきあってりゃ普通にするよな。服の間から覗く肌が、ところどころ赤い。なんだか見てはいけない物を見てしまった気分だ。
 うわー、マジかよ。マジなのかよ。ぐるぐると、頭の中でアレな想像が駆け巡る。いや、友達のそういうシーンとか全然想像したくないけど。笠原って、上? 下? 

「渦見、まだ怒ってんの?」
「俺は渦見じゃないっつの!」
「んあ」

 呆けた顔をしている笠原の頬を思い切り引っ張ると、目を瞬かせて、笠原が俺を見た。何度か瞬きをすると、急に顔が青ざめていった。

「………………うずみ?」
「違うよな、見りゃわかるよな」
「……飯倉……」
「おー。水飲め水、あとお前もう酒飲まない方がいい」

 水を無理やり渡すと、笠原はこくこくと頷いて、水を煽った。それから、一息つくと、少し酔いが覚めたのか、気まずそうに小さく呟いた。

「………………ごめん」
「いや、いいけど……」

 や、よくないけど、でもなんだか微妙な空気になって、二人とも黙ってしまった。すると、笠原が覚束ない足取りで立ち上がる。

「……俺、帰るわ」
「送ってくって。お前ふらっふらだし、一応誘ったの俺だし」
「いい、多分見つかるから」
「? 見つかるって……」

 瞬間、近くで、車の停車する音がした。
 なんだか嫌な予感がする。俺の勘って、よくあたるんだよ。すぐに車のドアが閉まる音がして、見慣れた顔が現れた。

「笠原いたー」
「…………」
「…………」

 え、どん引きなんすけど。
 毎度思うけど、なんでこいつ笠原の居場所わかんの? 超怖ええ、ストーカーかよ。お前彼氏の選択間違ったな。
 俺が怪訝な顔をしていると、渦見は俺を無視して笠原の手を掴み、歩き出した。

「帰ろ」
「…………悪い」

 その悪いは、誰にあてた言葉なんだろうな。俺が問う前に、笠原は渦見に手を引かれ歩いて行ってしまった。

「……触らぬ渦見に祟りなしって感じ」

 確かに渦見はかっこいいよ。男から見ても、すげえ美形。でも、男って顔だけが全てじゃないだろ。お前、本当にそれでいいのか、って聞きたいけど、今更俺がきくのもなあ。
 はぁ、と小さく息を吐くと、俺は大きく背伸びをした。

「帰ろう」

 なんか、すっげえつかれた。


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