A


〇月×日

 良介くんが催眠術にかかった。
 驚く程簡単にかかって拍子抜けや。良介くんがこんなに騙されやすいと、将来悪いやつに連れていかれへんか心配やわ。というか、今時あんなんでかかる奴が、居てる訳ないやんって、正直今でもちょっと疑っとる。
 やって、普通小学生でもかからんであんなん。せやから、かかってなければ絶対にせん様なことさせていこうと思う。僕がかけたこの催眠術は、手を叩いたら催眠が解けて、もう一度叩くと催眠がかかる仕様になってはる。ああ、なんて便利なんやろ。あの本書いた作者には、お礼を言いたたいくらいやわ。


「とりあえず、敬語も新鮮でええけど、やっぱり普段の口調のがええなあ、戻して」
「……わかった。これでいいか?」

 ぱたん、と催眠術の本を閉じて、ぼんやりとしたままの良介くんに話しかけると、口調がいつもの砕けた感じの物に戻った。うんうん、良介くんはくそ生意気なそっちの口調の方がええね。それから、無表情なのも僕としてはあまり好ましくないので、いつもみたいに表情豊かにするよう命じた。ただし、僕の言うことに絶対には逆らわないように、と付け加えて。無表情だった顔が仏頂面に変化した。これで、完全に普段の良介くんだ。催眠術にかかってる様子なんて微塵もない。

「これでいいだろ」
「……ああ、せやね」

 うーん、しかしこれ、ほんまにかかってはるんやろか。本当はやっぱり嘘ついとるだけなんちゃうやろか? 基本的にあまり人を信じないようにしている僕は、やっぱり担がれとるんやないかなって疑ってまう。

「そういや、飯まだだったな。灯、お前の方が得意なんだから、お前作ってよ」
「んー、今日は良介くんが作ってよ。はいエプロン」
「わかった。何食べたい?」
「なんでもええけど、良介くん、エプロンする時は服脱いでな。エプロンしかつけたらあかんで」
「ああ、わかった」

 何の疑問も持たず、良介くんは着ていた衣類を脱ぎ捨てて、僕が手渡したエプロンを身に着けた。うん、裸エプロンは男のロマンやね。……でも、本当にするとは思ってへんかったわ。良介くんが僕を騙そうとしていても、こういうこと言えば一瞬隙が出来るかと思ってはったんに。やっぱりこれ、かかってはるんやろね。
 かかってなければ、絶対にしないであろうその格好に不覚にも下半身が疼いてくる。僕の命令に絶対服従ってことは、なんでもしてくれはるってことですよね? あんなことからそんなことまで? 自分の恰好を全く気に留めず、料理に取り掛かろうとしている良介くんに声をかけて、近くまで来るよう命じた。

「なんだ?」
「……良介くん。僕に笑顔で、――――って言ってみて?」

 耳にそっと囁くと、良介くんは、いつもの仏頂面を崩してにっこりと笑った。嘘やん。こんな笑顔、特売の時くらいにしか見いひんわ。

「わかった。灯、大好きだ。渦見よりも好き。一番好き」

 ぎゅっと抱き着きながら、そんなこと言われたら、普通エッチしたくなるやん。
 下半身やってそりゃ元気になるやろが。普段そんなこと絶対言ってくれへんもん。「何言ってんのお前……」とか言いながらドン引きするに決まってるやん。それが何? 笑顔で耳元で囁かれたら、欲が出るやろ。

「……っ! も、もう一回。今度は……」

 ひそひそと囁くと、良介くんが頷いて僕の膝の上に座り、口にキスをしてきた。

「灯、好き。愛してる。渦見より好きだ。灯が一番好き」
「はあー……終夜に聞かせてやりたいわ……」

 催眠術にかかってる、とか、そういうのは考えへんようにしとこ。こんなん言わせたもん勝ちみたいなところあるし、これ聞いてめっちゃ悔しがっとるあいつの顔想像したら超気持ちええわ。抱き着きながら僕にキスしてくる良介くんを撫でると、にっこり笑って抱き寄せた。

「良介くんは、僕の言う事なんでもきいてくれはるんよね?」
「ああ、なんでも聞く」
「ほな、僕にエッチしよってお願いしてみて。可愛く頼むで」

 可愛く、というお願いに、しばし逡巡した後、良介くんは僕の頬を両手で包み額にキスをしてきた。それから目を合わせて僕に言う。

「なあ灯、セックスしよ。俺お前とエッチなことしたい」
「…………」
「灯?」

 あーーー。なんやもう、催眠術最高!
 こんなん催眠かかっとらんかったら絶対言ってくれへんもん。しばらく近寄るなとか言われてまうもん。顔を両掌で覆って上を向き、しばし感傷に浸る。これが良介くんが可愛いと思う誘い方なんやろか。それとも自分がこういわれたらかわええなって思う言い方? まあどっちにせよかわええからもうどうでもええよ。膝の上に乗っている良介くんの体温が伝わってきて、下半身が疼いた。
 ……ええよな、食っても? ていうか、ここでやらへんかったら据え膳どころのレベルやないしな。ちらりと良介くんへ視線を送ると、ばっちり目があった。良介くんが首を傾げて僕を見てはる。裸エプロンで。

「……良介くん」
「なんだ?」
「僕良介くんに挿れてもええ?」
「いいよ、灯の好きにしろ」

 はい、これ僕悪ない! ていう事にしとこ。
 こんな煽ってくる方が悪いやん。僕は理性を放棄して、エプロンの裾を捲った。赤いチェックのエプロンの奥から、良介くんの性器が顔を出す。右手で触れると、良介くんの体が少しだけたじろいだ。

「良介くん」
「っ……何……」
「これからは、僕が質問したらなんでも素直に答えるんやで」
「わかった」

 こくりと頷くのを確認して、僕は陰茎を握る。そのまま緩やかに扱くと、良介くんが僕のシャツを握った。

「っ、ぁ」
「良介くんて、いつオナニーしてはるん?」
「あ、お、お前がいない時とか、よ、夜寝てる時、でも最近は、頻度、へ、減ったかも」
「ふうん、全然遭遇せえへんし、してへんのかと思ったわ。まあそんなはずないな」

 ぐちゅぐちゅと、垂れてくる先走りを親指に乗せ、そそり立つ陰茎を手で擦る。頻度が減ったと言うだけあって、簡単に勃ち上がった熱の塊を何度も扱く。溜まっとったんやろか。言ってくれればいつでも僕が抜いてあげたのに。まあ抜くだけじゃ済まんかもしれへんけど。ぐりぐりと亀頭を人差し指でほじる様に爪を立てると、良介くんの体がびくりと跳ねた。

「あっ、あ」
「おかずは?」

 大体ネットが多いけど、良介くん、ネット関係疎いしなあ。

「い、っ友達から借りたDVDとか本とか、色々」
「へー、どんなんが好きなん?」

 手を休めず、責めたてると、伏せられた顔が高揚しているのがわかる。言い渋る様に口を噤んだので、恥ずかしいのかもしれへん。まだ、ちょっと理性のこっとるんやろか? 陰嚢まで揉みしだくと、どんどん先っぽから溢れ出てくる。なんや、簡単にいってまいそうやん。どんだけしてへんかったん?
 がくがくと震える良介くんを意地悪く見つめながら、反応を待った。例え恥ずかしくても、僕の質問には必ず答えを返さなあかんよ。

「どんなんが好きなん?」

 再度尋ねると、良介くんは、顔を赤らめながらも答えてくれた。

「はっ……、ふ、普通の」
「普通のって?」
「女子高生ものとか、ナースとか……」
「ふーん、あ、制服物とか好きなん?」
「あ、す、好きっ……」
「なんや意外やわ」

 淡白そうな顔して、結構むっつりやん。まあ気持はわからなくもないけど。制服ねえ、今度着せたろか。熱い息を吐いて腰を浮かせる良介くんに向かって、僕は別の質問を投げかけた。

「良介くん、これ気持ちいい?」

 ぐりぐりとカリ部分を指で嬲ると、良介くんは何も言わずにこくりと頷いた。あー、ええわ。こういうん。素直な良介くんなんて希少価値、レアすぎるで。催眠術様様やな。この催眠術って、どこまで効くんやろ。悪戯心が湧きあがってきて、僕は良介くんの耳元に囁いた。

「良介くんは、僕にこうされるのが大好きなんや」
「大好きっ……、?」
「せや、僕にいつも触って欲しい思ってはる。僕に触られると自分でやるよりええって思ってまう」
「あ、お、俺、灯に触ってほしい……と、思ってる、これが、好き」

 ぐちゅ、と濡れた音を響かせながら、鈴口を掻くと、良介くんの体がびくびくと震えた。反芻するように僕が言った言葉を繰り返す。眼がぼんやりと光を無くしているのを見て、さらに続けた。

「良介くんは、僕とセックスするのが大好き」
「はぁっ、は……大好き……せっくす……」
「良介くんは、僕が一番好き」
「あっ……、ぅあ」

 裏筋を手のひら全体で撫でた瞬間、手の中に精液が迸った。ああ、いってもうたんやね。思ってたよりも早かったなあ。にちゃりといやらしい音を立てて、溢れる雫を見ると、良介くんが息も絶え絶えな様子でもたれかかってきた。。

「気持よかったん?」
「……気持ちよかった……」
「良介くん、これ好きやろ?」
「好き……」

 ぼんやりとした表情で頷くのを見て、内心ほくそ笑む。これがどのくらい効いてはるんか知らんけど、少なくとも、今だけはあのストイックな部分脱ぎ捨ててはる。そう思うと笑いが漏れてしまいそうやった。あの良介くんが、こんなこと言うなんて、嘘みたいや。

「良介くん、立って」
「……ん?」
「これからもっと良介くんが好きになること、したるから」

 にっこりと笑って、僕は良介くんを膝から降ろした。ズボンの上には、さっき良介くんが放った精液がべったりついてはる。後で洗っておかなあかんな。ふらふらと足元の覚束ない体を支える様にして、僕も椅子の上から立ち上がった。


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