B



「……最っ悪だよ……!」
「笠原ー、そんなに落ち込まないで」
「落ち込むわ! この年になって浣腸されるとは思ってねーもん! 泣くぞ!」
「いーよー」
「ばかやろー!」

 反響する浴室の中で、俺は涙ながらに叫んだ。死にたい、というのが今の俺の率直な気持ちだ。渦見が、手にアレを持って俺に下を脱げと言った瞬間、嫌な予感はしたんだ。男同士の準備ってなんだと思ったけど、そういうことかよ。なんであいつ、浣腸なんて持ってんの? 変態か? もうやだ、もう家に帰りたい。体を洗いながら、涙を堪えていると、背後から渦見がお湯をかけてきた。

「まーまー、だって中は綺麗にしなきゃ、突っ込めないじゃーん」
「突っ込むとこじゃねえんだから、無理に突っ込もうとすんな!」
「あひゃ、でもアレだよ? 肛門は性器だって政府に認められたらしいよ?」
「狂ってんだよ、いろいろと!」

 もう、何に怒っていいのかわからなくて、情けなくて、ただひたすらやるせなかった。俺は一体此処で何をしているんだろう。なんでこいつと風呂入ってんの? 同年代の友人に浣腸される男の割合ってどんくらい? おかしいよな? 切実にそう聞きたかった。渦見はといえば、風呂に備え付けてあった何かを混ぜたらしく、ぬるぬるのお湯を手で掬って、ローション風呂〜とか言いながら遊んでいる。部屋は和室だけど、風呂に関しては普通に洋風だった。やたら大きな鏡が浴室内にある以外は。

「トーロトロー」
「…………」

 くそ、無邪気に遊んでんじゃねえよ。お前はいいよな、浣腸とかされなかったんだから。あれ、めっちゃ辛いぜ。俺的には、もうやりきった感すらあるんだけど、帰っちゃダメかな。ていうか、帰りたい。ああー、やっぱり一回だけならとか言うんじゃなかった。後悔しながらシャワーで泡を洗い流していると、渦見が浴槽に浸かりながら俺の首に腕を回してきた。俺よりも少し逞しめの腕が、胸をまさぐる。

「笠原ー、終わった? 早くしてよ」
「……お前、どの口で……」
「洗い終わってないんだったら、俺が洗ってあげよっか」
「終わった。終わりました、必要ない!」

 早口で告げる。こ、これ以上変なことをされて堪るか!
 ……いや、これからされるの? 恐怖しかないぞ。腹をお括ったつもりでも、後から後から、自責の念が沸いてくる。畜生、マジ、なんでこんなことになってんだよ。渦見が、俺の手を引っ張って、浴槽に連れ込んだ。俺を後ろから抱え込むように入ると、小さめな浴槽のせいか、さすがにぎゅうぎゅうできつい。ていうか、構図が寒い。

「……おい、狭いから出ようぜ」
「ん? 早く布団の上でエッチしたい?」
「……。このお湯すげーな。どうなってんの?」
「あひゃひゃ〜」

 渦見の言葉をスルーして、湯の中に手を入れた。熱い湯船の中、ぬるぬるとした液体が、手の間を滑り落ちていく。湯気が蒸気して、俺たちの体を包んでいた。触れあう肌の部分は滑りがよくて、気持ちいいけど、男って時点で台無しだ。自分のものじゃない体温に、なんだかむずむずする。声が反響する浴室の中、これからどうしようかと考えていると、渦見の手が、俺の陰茎に延びてきた。

「ひっ!?」
「ぬるぬるして、気持ちいーよねー、笠原」
「ちょ、ばっか、お前、どこ触って」

 竿部分を掴んで、上下に扱かれると、嫌でも反応してしまう。ローション風呂のせいで、滑りの良さはハンパない。なまじ、同じ男な分、どこが弱いかなんてわかっているようで、先端を指でぐりぐりと刺激され、もう片方の手で玉を揉みしだかれると、口から漏れる声が震えた。ばしゃばしゃとお湯の跳ねる音をかき消すように叫ぶ。

「お、おいって、やめ、ろって……!」
「ん? 気持ちよくない?」
「そーじゃなくてっ……あッ、ぅあ」
「あひゃひゃ」

 そうじゃない、気持ちいいから性質が悪いんだ。やめろよ、そこ。すっぽりと包み込み、ゆるゆると動かされる手に、出したくもない声が漏れる。浴室のせいか、自分の声がやたら大きなものに聞こえて、赤面した。男に弄られて、こんな声が出るなんて、自殺ものだ。でも、襲ってくる快感は我慢しようにも、難しい。最近は、入院してたせいでオナニーもあまり出来ていなかったし。口を押さえて、声を我慢していると、焦れたように渦見が耳を噛んできた。べろりと舌をねじ込まれると、反射的に声が出た。

「ひっ」
「声、抑えないでよ、つまんない」
「〜〜っ……!」

 びくびくと震える体を抱き抱えたまま、渦見の手が、尿道付近を引っかく。カリ部分を一気に攻められ、裏筋をなぞるように扱かれると、下半身から足先まで快楽が襲ってくる。っあー、やばい、これ、まずい。このまま続けたら、イっちゃいそうだ。
 焦る俺の尻に、勃起した渦見のモンが当たっていた。勃起しなければやめるっていう希望が、ここですでに潰えている。このままここに居たらまずい、俺は背後から回っていた腕を外し、浴室から出ようと縁を手で掴んだ。

「も、もう出る」
「待てってば」
「うぁっ!?」

 しかし、すぐに腰を掴まれ元の位置に戻された。背中を渦見の胸に預けると、逃げられないように足で固定される。

「あひゃひゃ、そんな怖がらなくてもだーいじょうぶだって、優しくするからさぁ」
「む、無理だって! ……ひっ」

 ぐぷ、と音を立てて、渦見の指が俺の尻穴の中に入ってきた。うわあああ、なにやってんのこいつ!? あがく俺を抑えつつ、指はどんどん中に入ってくる。ローション代わりのお湯に浸かっているからか、そんなに痛くはない、けど、異物感だけは拭えないし、何より気持ち悪かった。普段入らない所に入ってくる異物感、中をまさぐられるような感覚に、ぞわぞわとした何かが這い上がってくる。

「笠原がぁ、中、ちゃあんと、洗えてるかどうか、見てあげるねっ」
「ひ、ひ……」

 ひきつった声が、喉の奥から漏れてくる。見なくていい、見なくていいから! 渦見が立ち上がると、中のお湯に流されるように、体が揺れた。俺は浴槽の縁に両手をつくような体制にされると、再び中に指が入ってくる。ぐちゅぐちゅと卑猥な音を上げながら、侵入してくる感覚に、目を瞑った。ふぅ、と息を吹きかけられ、体がビクついた。

「っ……!」
「笠原ー、指、中で動いてんのわかる? あひゃひゃっ、ちゃあんと洗えてるみたいだねっ、中ピンク〜」
「うっせ……! 見るな言うなっ、あ、ぅあっ!?」

 中に挿れられた指が、ちょうど付け根の裏辺りを擦った瞬間、体に電気が走ったみたいに体が震えた。な、何? 今の。ばくばくと逸る心臓を抑えて、後ろを振り向くと、渦見が楽しそうに笑っていた。それから、前を擦りながら、さっき掻いたところを執拗に突いてくる。その度に、上擦ったような声が口から漏れた。

「ひっ、ちょ、何っ……!?」
「ああー、笠原は此処が弱いんだ?」
「っ、ち、違う……!」
「でも、勃ってるよ? ゼンリツセンって言うんだってさあ、男の性感帯。でも、感じる人と感じない人がいるらしいから、笠原は才能あってよかったねえ、あひゃひゃっ」
「うっ……!」

 そんな事言われて、喜ぶ奴なんかいない。唇を噛みしめて、縁を掴む手に力を込めた。髪の先から落ちる滴が、ぽたぽたと湯船に垂れるのをじっと見つめていた。屈辱だ、なんで、こんなことされなくちゃいけないんだ。振り返って睨みつけると、嬉しそうに笑う渦見と目があった。何笑ってんだこのクソ野郎!

「もう一本入るかな? 入るよね」
「あっ、あ、あ」
「あー、ちょっときつい、かな? でも挿れちゃえ」
「ひぅっ」

 ずぷっ、と音を立てて、指がもう一本侵入してきた。軽いノリて言ってるけど、入れられる身としては、全然軽く流せるノリじゃない。マジ、きっつい。滑りがいいせいか、痛みはそれほどでもないけど、むず痒い様な、この感覚が嫌だ。体内でバラバラと動き、何度もさっきの、ゼンリツセン? だかを擦られる度に、声が出る。掴まれた俺の陰茎は、すでに硬く勃ち上がっていて、腹にでもつこうかって勢いだ。先走った汁とローションが混ざりあう。ぬぷぬぷと抜き差しされる指と、扱かれる感覚に、頭がおかしくなりそうだった。
 はぁはぁと、荒い呼吸の音が、浴室内に響く。

「……う、うっあ、渦っ、い、一旦、ぬ、抜いてっ……」
「ローション風呂でよかったねえ。もう一本くらい入るかなー」
「ひっ、あ、人の話っ」
「あひゃ、三本だと、流石にギチギチだあ」
「っ〜〜ふ、う、……はぁっ……はっ……い、たい……っ」

 呼吸、しづらいっつーか、マジ苦しい。下から圧迫されて、抜き差しされる度に、内蔵とか引きずり出されそう。

「渦、み……っぬけって……」
「えー? 笠原は仕方ないな〜」
「っ!? ち、ちがっ」

 言いながら、渦見が俺の陰茎を扱いてきた。ぬ、抜けってそっちの意味じゃねえよ! けれど、すでに我慢の限界だったらしい俺の息子は、尿道を引っかかれると、呆気なく達してしまった。白い精液を渦見の手の中に放つと、名残惜しむように、数滴湯船の上に垂れた。

「ふっ……ううっ……」
「あひゃ、気持ちよかった?」
「…………っ」

 もう、なんて返せばいいのかわからなくて、俺は涙目で渦見を睨んだ。顔中が熱い、なんで、こいつの前でイかなきゃいけないんだ。けれど、渦見は俺が渦見を睨む度に、なんだか嬉しそうな顔をする。濡れた髪をかきあげて、再び指を動かした。

「うぁッ、あ!」
「笠原って、虐めたくなるような顔してるよねえ」
「なにっ、いって」
「んー、やっぱ駄目かもなあ……駄目だよねえ」
「……? 駄目って、何がっ、ひ」

 こっちの話、と渦見は舌を出して答えた。それから、指をもう一本増やしてくる、膝がガクガクと震えてきた。縁を掴む手に力が入らなくて、崩れ落ちていくのを、渦見が支えた。

「も、無理だって! あ、あぅ」
「だめだめ、ちゃあんと慣らしとかないと、ね?」
「っ――!」

 悪魔にも思える笑みを浮かべながら、渦見は俺の体を支え、指を突っ込んできた。



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