なんやかんやあって、渦見と、灯と、三人で暮らすことになった。

「…………重い」

 朝、目が覚めると、体が重い。
 これは前からあったことだ。夜寝ていると妙に体が重かったり、耳鳴りがしたり、いつの間にか見知らぬ女が俺の上に座っていたりとか。ただし、これは金縛りとか、そういう霊的な類のものではない。今は単純に、物理的な意味で体が重いだけだ。
 というか暑い。両端から、大の男二人に抱きつかれていれば、そりゃあ重いし、暑くもなるだろう。両横で安らかな寝息を立てている兄弟の間から抜け出そうとしたが、がっちり捕まれていて、抜け出せない。

「…………おい、渦見、灯、起きろ」
「ん〜」
「ふぁ……」
「おい! 起きろっての!」

 灯の手が、俺のシャツの中に入ってきて、渦見の唇が、俺の首もとに寄せられた。

「つーかお前ら二人とも起きてんだろ!? いい加減にしろ!」

 無理矢理手を引き抜いて、二人の顔面を叩いた。鈍い声を上げながら、ようやく二人が離れたので、俺は起き上がり、未だ転がっている兄弟を足で蹴飛ばした。

「とっとと起きろ!」
「……おはよー、笠原」
「おはよう、良介くん」
「…………おはよ」

 寝ぼけ眼でほほえむ二人に、俺は小さくため息を吐いた。


***


 色々あって、渦見と灯と暮らし初めてから、もう三ヶ月ほど経つ。何があってこんな生活をしているかは、あまりにも長い話になるので省略するが、結果からすると、俺はあのぼろアパートを引っ越して、新しい住居にいる。
 いくらなんでも、一人用、ギリギリ二人暮らせる程度の広さのあのボロアパートに成人男性三人は暮らせない。
 それ以来、渦見と灯が勝手に決めたマンションで慎ましく生活している。まあ、大学も結構近くにあるし、前のぼろアパートより広いし、結構気に入ってはいる。家賃は前の三倍だけど、決めた手前渦見と灯が多く出してはいる。俺も一応家賃は払ってはいるが、正直一人だったら絶対住まない、いや、住めないだろうな。払わなくてもいいと言われたけれど、そうすると後が怖そうだった。
 シェアハウスといえば聞こえはいいが、各部屋があっても、すぐに渦見か灯が部屋に侵入してくるから意味もないし、正直爛れている。
 何がって、生活が。

「笠原ー、俺朝ご飯目玉焼きね!」
「僕は卵焼きがええ」
「俺はスクランブルエッグが食いたいんだよ」

 シャワーを浴びると、飯の支度。
 今日の食事当番は俺、だから、俺が食いたいものを作る。口を尖らせる二人を無視して、卵を三つ、器の中に落としてかき混ぜた。
 渦見の料理は当たり外れが激しいし、俺もあまり得意な方ではないので、普段は灯がしているが、稀に俺が作ることもある。普段は俺が買い出しやゴミ捨て。渦見は掃除を担当しているが、正直何をやっても灯が一番器用にこなすので、性格さえ直せば本当にハイスペックなのに、残念な奴、と密かに思っている。
 フライパンを熱して、油を引き、卵を中に落としてかき混ぜていると、灯が皿を用意する。渦見はお腹空いたとか言ってる。いや、お前も少しは手伝えよ。

「良介くん、今日は大学行くん?」
「行く。お前らは?」
「僕も行こうかな。一緒にいこ」
「俺も行く!」
「んー」

 今は、灯も渦見も同じ大学に通っている。渦見はともかくとして、灯はよく大学に編入できたなと思うが、灯は得意げに「僕頭ええねん」とか抜かしてきた。つまり、金と入れるだけの頭脳があれば編入は簡単だったらしい。本当に、性格以外は無駄にハイスペックだな。
 けど、こいつら二人と一緒に大学に向かうのは正直遠慮したい話だった。良くも悪くもこいつらは目立つ。顔がいいし、渦見はもともと大学の有名人で、灯は編入した謎のイケメンというアホなが立っている。そんな奴らの間に挟まれて見ろ。好奇の目に晒されるに決まっている。というか、もう晒されてるんだけどな。一緒に住んでいる時点で、手遅れかもしれない。
 簡単なサラダと飲み物、食事の用意をして、三人で食卓を囲む。これだけのために、謎の三角テーブルなんてのを買ってこられたので、誰が隣ということもない。
 灯が、箸で卵を摘みながら聞いてきた。

「今日はバイトあるん?」
「おう、スーパーでバイト」
「ほな、夕飯はいらへんね」
「そだな。渦見は?」
「俺もバイトー、終わったら笠原迎えにいくね」
「いいよ別に」

 最初はどうなることかと思ったけど、日常生活は大分慣れてきた。衝突しあっていた渦見と灯も、最近はお互いあまり見ないことにしているのか知らないが、喧嘩することは少なくなったし。まあ、一緒に暮らす上でのルールにしたせいもあるかもしれないけど。喧嘩禁止ってな。
 ただし、それでも俺の生活はやっぱり少し、爛れていると思う。

「笠原ー、行ってきますのちゅーしようよ」
「…………」
「良介くん、僕も」

 食事を終えて、歯を磨き、身支度をし終えて、さあ出るか、というところで、渦見が馬鹿げたことを言ってきた。玄関で立っている俺に向かって両腕を広げ、首を傾げてにっこりと笑う。いや、何笑ってんだ。それに便乗するように、灯も笑う。…………。
 ダメだ。やっぱりこういうのは、おかしい。

「……朝っぱらからアホなこと言ってんなよ」
「えー」
「ケチやわ、ほな夜ならええんやね」
「うるせえ! いいから行くぞ」

 ああもう、全くもって爛れている。
 いつからこんなことになってしまったんだろう。


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