目を開く@



 思えば、その日は、最初から奏の機嫌が悪かった。
 だから、駄目だったんだろう。

「っ……! ……あっ、う、うぅ、うぐっ」
「おい、もっと足を開け」
「奏様のご命令だ、悪く思うな」

 じっとりと蒸した空気の中、真っ暗な世界で、知らない男の声が俺に命令する様、上から降ってくる。後ろ手に拘束された腕で必死にもがくが、頭を床に押しつけられているせいで、碌な抵抗もできなかった。押しつけられた額が痛い、掴まれた腕が、足が痛い、でもそれ以上に痛いのは。

「ふ、あっ、ゃえおっ!」

 閉じることができない様固定する器具を口に取り付けられたせいで、呂律の回らない声しか出せず、口の端から垂れる涎が、床に押しつけられ顔へと広がった。断続的な荒い息を吐いていると、首輪を引っ張られ、生臭い物が耳に擦りつけられた。むっとしたような雄の臭い。顔を伝ってぬるりと液が垂れてくる。それが何か、なんて、考えるまでもなくわかっている。

「あーっ、うぅ! いあ、あっ」

 嫌な音がして、青臭いどろりとした物を、耳付近にかけられた。耳の裏から頬を伝って、鼻の方まで流れてくる。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。俺の息なのか、そいつらの息なのかわからないけれど、その音ばかりが耳に響いて、視界がぐるぐると回る。せせら笑う声が、目が、俺を見下している気がする。粘液がべたべたと体に張り付いて、自分のものでない体温が俺に触れることが嫌だ。
 ああ、気持ち悪い。胃の中をぐちゃぐちゃにかき回されて居るみたいだ。虚ろな頭で吐きそうになるのを堪えていると、尻穴に異物が宛がわれた。

「ひっ、う! うぅっ! ぅうー! ぁえおっ、いぅあっ!」
「おい、暴れるな!」
「全く往生際の悪い……」
「ふぅーっ、ふーっ…!」
「ははっ、まあ暴れても無駄だが……、なっ」
「っ……!」

 いやだ、嫌だ! 気持ち悪い、入ってくるな! 無理矢理突っ込まれたそれはぐちゃぐちゃと音を立てて、何度も俺の中に入ってくる。男に犯されるのは、初めてじゃないけど、何度やられても慣れないし、慣れることなんてないだろう。感じるのは気持ち悪いということだけだ。
 内蔵を引きずり出される様な感覚に力を込めて暴れるが、押さえつけられて禄に動けなかった。目から溢れた涙で、目隠しされた布がびしょ濡れになっていく。

「うぇあっ、あーっ! うぁっ、あぅあっ!」
「何言っても、無駄だよ」
「大人しくしてろ」
「うぅぐっ」
「奏様が薬を使わせてくれたなら、もう少し楽だったかもしれないが、お前も気の毒にな」
「うっ、うぅう〜」

 尻の中に見知らぬ男のちんぽぶち込まれて暴れない奴なんていないわけねえだろ。ぬぽ、という音と共に、肉棒が俺の中を出ていくかと思ったら、またもや音を立てて中に入ってくる。じゅぷじゅぷと泡だった様な音が、耳にまとわりついて、頭が変になりそうだ。

「あっ、う」

 嫌だ、やめろ、離せ。聞きたくない。そう言いたくても、口から漏れるのは涙混じりのうめき声だけだ。骨ばった手が、俺の尻を掴んで、自らの物を押し進め、打ちつけてくる。口の中に、誰かのちんぽがねじ込まれて、舌先や喉に擦りつけられた。喉の奥を突かれて、吐き気が催してくる。痛いし、そもそもそこは挿れるような所じゃない。体の色々な箇所に見知らぬ奴らの雄を押しつけられてぬるぬるして、思い切り喚いた。

「あーーっ、あぇうっ!」
「結構具合がいいなこいつ」
「おい、口を慎め、これは奏様の命令だ」
「っあ……!」

 なんで、俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。
 そもそも、どうしてこんなことになっているのかと言えば、全て奏の機嫌が悪かったせいだ。



***
 

 その日は、部屋に入って来たときから奏の機嫌は悪かった。スマホをいじりながら、いらいらした様子で入ってきたので、俺は刺激しないように隅の方に正座していた。何をされるかわからなかったからだ。案の定、奏は、正座している俺を見て嘲笑すると、簡単な拷問を施した。またドライヤーでも当てられるかと思ったが、今日は違った。
 最初は、まだよかったんだ。指で抓る程度の、可愛いものだったから。柔らかい肉の部分を執拗に抓り、俺が痛い、と言うと離す。その繰り返しだ。子供の遊びのような拷問だったので、その時はこれが続けばいいと思ったくらいだ。
 一度抓っては、俺に渦見のことを好きか聞き、頷けば本当かと確かめる様に何度も抓られた。ちなみに、否定すると殴られる。しかし、それはやがて裁縫の時に使うような、マチ針へと変わった。
 露出した脹ら脛に、一本、二本と、注射みたいに刺していく。拘束した俺の体に、針を刺していく時の顔は楽しそうなものだったけど、やられている俺はぜんぜん楽しくない。そもそも、注射だって嫌いなんだ、なんの意味もなく針を刺されるなんて、イヤに決まっているだろう。痛みに耐えきれず、俺が暴れた瞬間、腕が奏の体にぶつかってしまった。たぶん、それが駄目だった。決定的によくなかった。俺自身、一瞬空気が凍った気がした。
 奏は後ろに倒れ、体のどこかをぶつけたんだろう。しばし静寂が部屋を包んだが、やがて奏は無言で立ち上がると、謝る俺を無視して笑った。

「うふふ〜、暴れる元気があるんじゃ、全然辛くないよね〜」

 その言葉が、悪夢の始まりだった。
 奏は一度部屋を出ると、すぐに白装束を何人か連れて戻ってきた。困惑する俺を無視して、そいつ等に俺を押さえつけさせた。嫌な記憶が蘇る。そんな俺を見透かしたように奏は笑い、ゆっくりと周りの男たちに俺の服を剥がさせた。恐怖に震える俺を犯すよう命じると、俺が叫ぶのも無視して、視界を塞ぎ、口に妙な輪っかをはめた。針を刺されるのだって辛いけど、男に犯されるのに比べればだいぶマシだった。

「い、いやだっ! やめろー! 離せっ、離してくれっ! いやだっ」

 奏はあざ笑いながら、俺を撫でた。許してもらえるのか、なんて、甘い考えを持つこと事態が、間違っていたのかもしれない。にっこり笑って、そして、白装束たちに俺を犯させた。

 俺が声を上げる度に「辛い?」と聞いてくる。
 そんなの、わかりきってることなのに。これで辛くない奴がいないわけない。嗚咽を漏らしながら頷くと、奏は嬉しそうに「その苦しみを救ってくれるのは呪い子だけやで」と囁いた。何度も、何度も、俺の耳元で。まるで洗脳でもするかのように。
 呪い子が、渦見のことだってのはわかってる。何故か知らないが、この女が俺が渦見を好きになるようにし向けているのも知っている。どうして、そんなことをしたがるのかは、ぜんぜんわからないけど。けれど、その言葉は俺が犯されている間、何度も繰り返された。
 俺を救ってくれるのは、渦見だけだって。

 俺を救ってくれるのは、渦見しかいなのか。


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