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「あ、化野……っ」
「んーー?」
「それ、な、何……っ」

 じりじりと迫る指に、僕は顔を青くした。



 化野の家に着くと、廊下を突っ切った先の階段を上り、化野の部屋に連れて行かれた。脱いで、と言われて、首を振ったところで、なんで? と聞き返された。なんでって……。

「もう、あんまり触らないでほしいから……」
「大丈夫、ケアするだけだから、ほらこっちきて」

 と、ベッドの方へと引っ張られ、押し倒された。ふかふかの布団の上で、シャツのボタンが外される。

「い、いいって、ケア、しなくていい……!」

 むしろ、それをされると、また変な感じになりそうだからやめてほしかった。
 けれど、僕が化野の手を掴み止めると、化野はピタリと動きを止めた。僕をじっと見つめて、掴まれた手を引っ込める。
 ……わかってくれたんだろうか。しかし、次の瞬間、化野は笑みを消して、ぼそりと呟いた。

「あーーー……邪魔だな」
「え」

 低い声に、一瞬体をびくつかせると、化野は僕から離れて、再び机の中を探りだした。何を探しているんだろう……。けれど、その答えはすぐに出た。あったあったと明るい声を上げて、引き出しの奥からソレを取り出した。
 取り出された物を見て、僕はお面の奥で顔を引き攣らせた。

「あ、化野、それ……」
「やー、あってよかった。もうどっか行ったと思ってたわ。はい、じゃあ正義ちゃんちょっと手だして」
「やだよ!」

 取り出されたそれは、刑事ドラマとか、ニュースとかでよく見る、いわゆる「手錠」という代物だった。鈍色のそれが、玩具なのか本物なのか、僕の目には判断が出来ないけれど、しっかりと鍵のついた手錠を持って迫ってくる化野に、青ざめて後ずさる。

「なん、なんで、そんなもの……っ」
「え? 正義ちゃん子供のころ刑事ごっことかで遊ばなかった?」
「遊んでたけど、そんなリアルな手錠持ってないよ」
「そ? これもらい物なんだけど、俺よく遊んだなあ、いや、でも子供の腕には結構でかいから付けても外れちゃうんだけどさー。あはは。まあ、とりあえず手ー邪魔だし」

 がちゃ、と朗らかに話しながら、音を立てて片方の手に手錠が嵌められた。抵抗しようとしたけれど、強い力で抑えられ、片腕が嵌まる。

「わ、わっ……あっ」

 そのまま強く引っ張られ、ベッドの上に引きずり倒されると、パイプベッドのパイプを通して、もう片方の手にも手錠が嵌まる。ガチャガチャと音を立てて、僕の両手はベッドの上へとまとめられた。玩具の手錠なら、壊せるかもしれないと思ったけど、これは結構頑丈で、引っ張っても取れる気配も鎖部分が壊れる気配もない。
 それに、お面で視界が狭くなっているから、上の方が全然見えない。外そうとパイプと鎖で音を立てている間に、化野は僕の太もも付近に座り、プチプチとシャツのボタンを外していく。

「化野、やめ、これ外して……っ」
「あー、あんまり手動かさない方がいいよ。擦れて赤くなっちゃうから、手首痛くなるからさ、あ、ティッシュ詰めとく?」
「いや、それより外し……っ」
「正義ちゃん」

 僕の言葉を遮って、僕の真上で、化野が笑う。

「ただケアするだけだっつってんだろ。それくらいでガタガタ騒ぐな」
「………………」

 笑顔なのに、どこか凄みのある言葉に、僕は押し黙った。
 こんなの、どう考えても、化野の行動の方がおかしいのに。
 僕は、文句を言う権利も、止める権利も、あるはずなのに。
 けれど、その言葉と笑顔に、僕は蛇に睨まれた蛙のごとく、動けなくなってしまった。それは、怖いと言うよりも、最早本能に近い気がした。強い者には逆らえないような気がして。
 硬直した僕のシャツを暴き、中に着ていたインナーを捲られる。貼ってあった猫のキャラクターが書かれた絆創膏は乱暴に剥がされ、その辺に捨てられた。

「いっ……」
「ちょっと待ってね」

 さっき化野が机の中から取り出した謎の缶が、手の内にある。
 蓋を開けると、中には白いクリームが入っていて、それを指先に纏うと、指は僕の胸へと迫ってくる。……何のクリーム?

「化野、それ何っ、何塗ってんの?」
「別に、ただの保湿剤だって」
「そ、そこまでしなくてもいい……っ」
「だめだめ、乾燥すると割れちゃうかもしれないし」

 にゅる、と指先に纏ったクリームを、乳輪から乳首にかけて塗り込んでくる。にゅるにゅる、くにくにと指で乳首を押しつぶしながら、すり込むように両指で摘まみ、何度も何度も塗り込まれる。

「ふっ……うっ……っや……」
「大丈夫、すぐ終わるから」

 そんなことを言う割に、化野の指は執拗に僕の乳首を責め立ててきた。保湿クリームなんて、普通は少量でいいはずなのに、塗り込み、足りなくなると再び追加してまた触れてくる。
 触られる度に、乳首にはじんじんとした刺激が走り、僕は声を殺して唇を噛んだ。

「……っ…………っ……」
「あーあ、硬くしちゃって」

 くすくすと笑いながら、化野が僕の乳首を扱きあげる。ぷくっと膨らんだ乳首を、親指と人差し指で摘ままれると、きゅっと上へ引っ張られた。

「ひっ」

 ぷりん、と上を向いた乳首が、じんじんする。空気に触れるだけで、なんだか痒くなるような気がした。
 ……これ、本当にただの保湿クリームなのか? なんか、塗られる度に、どんどん熱くなっていく気がする。確かに、前より敏感になってしまった自覚はあるけれど、今はなんか、少しの刺激にもビリビリとした電流みたいな物が走って……っ。
 ぞわ、と背中が粟立ち、声を張り上げる。

「化野、もう塗らなくていいから!」
「だめだめ、ちゃんと塗っておかないと」
「い、いいっ、もういっ、や、……っ〜〜〜〜!

 人差し指と中指でしこしこと扱かれ、窪みまで満遍なく塗りたくられる。やばい、また、変な感じに……っ! じんじんと腫れてくる乳首に、僕は浅い息を吐いた。

「えーっと、あとはクリームが透明になるまで……」
「それ何の説明文!?」
「まあまあ、よし、これでおっけー」
「…………っ!」

 ふぅ、とピンと立った乳首に息を吹きかけられただけで、びくんと体が跳ねる。そのことに、自分でも目を見開いた。
 だって、ちょっと風が当たっただけなのに、ピリピリとした刺激に、体がゾクゾクする。
 散々クリームを塗りたくられた乳首は、保湿どころか、照明に照らされてぬらりとテカっている。逸る心音に、このままセックスでもするのかと思いきや、化野は薬局で買ってきた袋を漁っていた。

「えーっと……どこだっけな……」
「…………?」
「あ、これこれ。正義ちゃん見てコレ、可愛くね?」
「……なに、それ」
「何って、絆創膏。貼らないと擦れちゃうからヤなんでしょ? あと、女子から貰ったこういう派手な絆創膏も嫌つってたから、俺が買っといた」
「ふ、普通の絆創膏でいいんだって!」
「別に、普通のだけど?」

 と、化野が掲げて見せてきたのは、ハート型の絆創膏だった。全然普通じゃない。
 サイズは普通の絆創膏よりも大きく、通常の絆創膏では隠せない怪我をしたときに貼るようなやつだけど、なんでよりにもよってその形に?
 パッケージにはラブリー絆創膏、なんて書いてある。それをつけるのって、小学生とかなんじゃないの。どうしてそれを僕につけようと思ったんだ。言いたい言葉は沢山あるのに、顔が赤くなって、それどころじゃなかった。
 絆創膏の台紙を剥がして、化野はクリームが付かないようにハートマークの絆創膏を僕の胸へと貼り付ける。ぷっくりと浮いていた乳首が、絆創膏によって押しつぶされると、また刺激に背中が反った。

「んっ……!」
「ほら、動かないで、ズレちゃう」
「そ、そんなこと言われても……」

 なぜか分からないけど、触られると、すごくじんじんするんだ……っ! むずむずするっていうか、むず痒いっていうか……。押しつぶされるだけでも、ぴくぴくと体が動く。けれど、化野は僕の言葉なんて気にも留めず、もう片方にも絆創膏を貼り付ける。胸元に張り付いたハートマークは、なんだかすごく間抜けに見えた。

「…………っ」
「ははっ、これでもう擦れないね!」

 にこりと笑みを浮かべそうのたまうと、上がっていたタンクトップを下げ、僕のシャツのボタンを留めていく。…………なんだ、今日はしないのか。
 てっきり、このままアレをするかと思っていたから、ちょっと意外だ。制服のボタンを留め終えると、化野は拘束していた僕の手錠の鍵を解除して、ついでのように僕の狐面を剥ぎ取った。

「はい、もういーよ。抑えちゃっててごめんね。手ウザかったから」
「う、うん……」
「手首大丈夫? 赤くなってない? ちょっと金具にぶつかってたかな」
「いや、大丈夫……じゃあ、僕、もう帰るね……」

 一刻も早く、この胸に貼られた絆創膏を外したかった。
 家に帰って、剥がして、塗られたクリームも洗い流したかった。
 ケアするのが目的というのなら、さっきのあれで、目的は果たしたはずだ。僕が帰っても問題ない。
 普通の絆創膏を貼られるよりも、さっきのキャラクター絆創膏よりも今貼ってるハートマークの絆創膏の方が百倍恥ずかしい。顔がさっきから熱いから、きっと鏡を見たら僕の顔は真っ赤になっているだろう。ぎしりと音を立ててベッドから降りようとすると、化野がなんで? と声をかけてきた。

「なんで帰んの? 来たばっかじゃん」
「え……」
「遊ぼうよ。ゲームでもする?」
「いや、僕は」
「あー、正義ちゃんってあんまソシャゲとかしないっつってたっけ。あ、でもこれ面白いよ。アクションゲーなんだけどさー」

 と言って、化野はスマホを取り出し、ゲームを起動させた。帰るタイミングを逃した僕は、化野に隣を陣取られ、そのゲームを持たされた。明るい音楽を上げながら起動したゲームに、僕は画面をタップする。でも、正直、これをするよりも早く帰りたかった。こんな変態みたいなことをしていなければ、僕だっていつもするアレよりも、こういうゲームの方が楽しいと思うのに。なんだか、乳首がずくずくと疼いている気がして、全然ゲームに集中できない。

「そこタップしたらジャンプで、そのアイテム取ったら加速するから」
「……う、うん……」

 というか、やっぱり熱い気がする。あのクリームを塗られたあとから、徐々にその思いが強くなっていく。いや、絆創膏をつけたからか? ちょっと痒い……、掻きたいな、と思って胸に手を伸ばそうとすると、化野にその手を掴んで止められた。

「正義ちゃん、胸触ったらだめ」
「え…………」
「だってせっかくケアしたのに、触ったらまた正義ちゃんが嫌がるエロい乳首になっちゃうよ。今日はセックスもしないし、このまま、ね?」
「…………う、うん……」

 微笑まれ、ぎこちなく頷いものの、乳首の熱はどんどん高まっていく。浸食してくる。むずむず、むずむず、という感覚に、頭の中が乱されていく。
 ゲームを持つ手が震えて、うまく操作ができない。

「そうそう、そこで加速してジャンプ」
「………………」
「あー、死んじゃった、そこ押したら最初からね。大丈夫、何度でもやり直せるから」


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