キス以上のことをしたいA


 『シコる時って小波想像してんの?』

 井上の言葉が、頭の中で蘇る。
 家に帰り、部屋の中でごろごろしながらスマホの電源を付けると、アダルトサイトへと飛ぶ。
 結局、今日も何も出来なかった。男同士って、こういう時すげえ不便だなって思うわ。
 だって、男と女なら、別に人が多いところで手を繋いでても何も言われないし、一緒に居ても付き合ってるから、ですむけど、男同士だとそうはいかないだろ。人目のあるところだと、手も繋げないし、いつも一緒に居るだけで色々言われたりする。大志は、ああいう性格だから正義にかまい尽くしていても許されていた雰囲気あるけど、多分俺はそういうんじゃない。元々、あんま人から好かれるタイプでもねえし。
 カホゴすぎ、という佐々木の言葉に、胸が苛まれた。

「…………」

 スマホのジャックにイヤホンを差し、動画を再生すると、女の喘ぎ声が耳に流れてくる。
 以前はよくおかず用に使ってたやつ。白い肌と柔らかそうな体つきがすげえツボだったし、顔も結構好みだった。地味だけど、なんかそそるっつーか。
 男の上で腰を振る姿を見ながら、俺は穿いていた制服のボタンを外し、下着ごとズボンをズリ下げて、手を突っ込む。ぐ、とちんこを掴んで、緩く扱いていく。
 正義と話してると、楽しいし、癒やされるし、正義がしたくないなら、別にしなくてもいいけど、それは正義が望むならって話で。ぶっちゃけると俺はやりたい。
 つーか、好きな奴とやりたくない男なんて居ねえだろ。
 その内、大志に取られちゃうんじゃないかっていう不安だってあって、自分でも情けねえなって思うけど。

「…………っ」

 ゆるゆると右手を動かしながら、動画の音に意識を向けようとするけど、どうしてもうまく入り込めない。
 正義は、俺とこういうことするのに、やっぱ抵抗あったりすんのかなー……。だって、あいつは元々普通に女が好きだろ? 前に好きな女のタイプとか話してたし。
 大志とのだって、大志にやらされてただけなんだとしたら、俺が望むのってすげえ残酷な気もする。勝手に俺が抱く方向で考えてるのも失礼かもしんねえけど。
 『あんっ、あ、っ、あっ、イク、イッちゃうぅっ……』
 甲高い、鼻から抜けるような吐息と共に、イヤホンから女の喘ぎ声が流れてくる。駄目だ、正義のことを考えてるとオナってるっつーのに、こっちに集中出来ない。俺は考えを振り払って、目の前の動画に集中する。目隠しされたまま犯される女。黒い髪が乱れて、たわわな胸がゆさゆさ揺れる。男優にクリ弄られて顔真っ赤にして喘いでる姿に、むらっとした感覚が襲ってくる。
 『あっ、あ、気持ちいいっ、あ、あ、あっ……!』
 じゅぷじゅぷと濡れた音を発しながら、クリとまんこ弄られて喘いでる女に、意識を向ける。あー、いい感じ……。段々と硬くなってきたちんこを扱きながら、目の前の動画に集中する。俺だって、女でも、普通に勃つんだよな。正義はどうなんだろ……。
 そう考えた瞬間、目隠しで挿入されかけている女の映像に、正義の姿がダブった。

「……っ!」

 いやいや、違う違う、この映像は女だし、俺が前から抜いてた、おかず動画だろ? 正義じゃねえって。
 頭ん中ではわかってはずなのに、目を閉じると、あの時の正義の映像が頭の中に浮かんでくる。
 あの時っていうのは、あの時だ。
 正義には話してないことがある。学校の奥、薄汚れたプレハブ小屋で見せつけられた光景。もし、あの時俺が声を上げたりしなければ、喋ったりしなければ、未来は違うものになっていただろうか。
 俺と大志は、約束をした。あいつが守るかどうかは別として、正義には喋らないことを条件に取り付けた秘め事がある。
 俺が、あそこで喋ったりしなければ、大志は正義をもういじめたりしないと言ったのだ。辛そうにしているあいつを見てられなかった。俺は別に、どうなってもよかったから、あいつに関わるのをやめるように言った。
 そうして、大志が提案したことがあれだ。
 『セイがそんなに言うなら、ゲームしようよ』
 楽しそうに言う大志の顔が蘇る。
 『何もしない、動かない、喋らない。俺がいいよって言うまで、約束できたら、もうセイが望むような、酷いことはしないであげる』
 そう言って笑った大志のことを、悪魔だと思った。けど、それで助かるなら、俺は喋るべきじゃなかったんだ。
 結局俺はあの時、助けることが出来たかも知れない正義を、助けることが出来なかくて、声をあげてしまった。痴態を見せつけ、俺のを咥えようとする正義の姿を見て、どうしようもなく逃げ出した。怖かったんだ、認めるのが。
 『ああっ、もっともっと、もっと欲しいのぉ、おっきいのちょうだい……っ!』
 耳に流れる嬌声に、俺は目を瞑り、ぐっと手に力を込める。硬く起立したちんこを握り、しゅ、しゅと扱いて、枕に顔を埋めた。忘れろ、そう思うのに、忘れられない。
 玩具を咥え込む穴に、真っ赤になって快楽を耐えるような顔、一度も見たことの無い表情に、震える声。可哀想だ。こんなのあんまりだろ。確かにそう思ったはずなのに、どうにかしてやりたいと思うのに、俺の意思とは反するかのごとく、下半身が反応して、それを。

「……っふ……っ」

 指を使って、亀頭を親指で撫でる。いつの間にか、女の喘ぎ声は、頭の中で正義の声に変わっている気がした。
 『誠の、大っきいね、僕、全部口に入らないかも』
 勃起した俺のちんこに、鼻先を寄せ、頬ずりをしてたあの映像が、頭の中で蘇る。口で引っ張ってパンツ下げて、躊躇いもなくキスしてきたあの光景が、脳裏に焼き付いて離れない。
 あれは、大志が仕込んだんだろう。大志がそうするように教えて、それを忠実に守ってたからこそ、あんな、男を誘うような、エロい仕草。

「…………はっ……」

 指先が先走りで湿ってくる。硬くなったちんこが、あっつい。
 正義が、自分の意思でやったんじゃないってことは、わかってるんだよ。わかってるけど、あいつが、自分からそういうことをしてきたって事が、信じられなくて、怖くて、認めたくなくて。
 興奮して、勃起していることすら、意味がわかんなくて。
 だから、つい叫んじまった。
 やめろ、って。
 でも、俺の妄想の中の正義は、あの時の続きをする。俺の足の間に屈み込み、竿に口づけて、小さな唇で横から咥えたまま、舌を出して舐め続ける。

「っ……くそっ……」

 『いいよ誠、僕、誠のことが好きだから、誠の好きにしていいんだ』
 五指で握り込んだ棒が更に硬くなっていく。ちんこを扱く手が早くなる。汗ばむ体に、顔が熱くなり、早くなる鼓動に、俺は息を漏らした。
 正義は、こんなこと言わないし、俺にしたことなんてない。でも、頭の中で、あの時の正義が咥えてくる。
 ごくりと喉を鳴らし、溢れてきたカウパーを舌ですくって、舌の腹で亀頭を擦り、撫でてくる。覆い隠していた目隠しの先から、正義の瞳が覗き、俺を見つめて、はにかみながら笑った。少し照れくさそうにしてるくせして、唇は俺のモノを離さない。ちゅう、と先端に吸い付き、下から上までべろりと舐め上げてくる。こんなこと、あいつはしない。わかってんのに! 正義の口が俺のちんこを飲み込むと、小さな口がいっぱいに広がり、頬が少しだけ歪む。そのままちゅこちゅこと口で扱いてくる。
 『誠、気持ちいい? 僕、もっと誠が欲しい……』
 言わない、あいつはこんなこと言わない。わかってんのに、手が止まらない。呼吸も脈拍もどんどん早くなって、心臓の音がうるさく響く。熱くなる体に、頭の中で正義が言った。
 『誠、僕に誠のを』

「……っ……う……っ!」

 ティッシュを掴むのが間に合わなかった。
 どろりと手の内に吐き出された生暖かい精液を見つめて、ティッシュを数枚掴む。

「あー………………またやっちまった……」

 出し終わった瞬間、罪悪感が胸にずしりと落ちてくる。掴んだティッシュで手を拭い、ゴミ箱に放り投げると、換気も込めて窓を開けた。
 秋風が顔に冷たく当たり、射精後の虚無感と相まって、こうすると頭が妙に冷えてくる。さっきまで妄想していた正義は俺の妄想で、本物じゃない。
 だというのに、最近はいつもこうだ。

「あーーーー……」

 なんでこうなる。
 最初は、確かに女で抜いてたはずなのに、いつの間にか正義に入れ替わってる。井上は、彼女は別とか言ってたし、俺だって今までそうだったはずなのに、最近は抜くとあの時の光景が蘇る。井上は男で勃つかと言ってたけど、めちゃくちゃ勃つわ。それもこれも、あの時の映像が強烈すぎたからだ。
 あんなの、一生忘れられねえよ。夢にだって出てきたし。
 指示されてやっていたことかもしれねえけど、そういう色事に縁の無さそうな、穢れを知らなそうな顔をしてるせいか、あんなことをされたら、頭に残りもする。
 つーか、悪いのはそんな姿を魔改造して妄想に出演させる俺なんだけどな! がしがしと頭をかいて、さっきの妄想に頭を打ち付けた。
 童貞の妄想かよ! 痛すぎんだろ……!
 目隠しした正義の姿は、いつしか積極的なもんに変わり、最終的には俺に跨がってくる。甘い声と、少しはにかんだ顔で……って、いやいやだから違うんだって、あいつは、そういうことしないって! わかってんの! わかってんだけど、俺の脳が! 妄想が!
 俺ってこんなだったか? 元カノん時は、こんなこと考えなかったのに!

「っは〜〜〜〜……キモ……」

 え? 俺、キモ……。
 こんなん考えてるって知られたらぜってー引かれる。一生バレたくねえ。あいつ、なんか知らんけど俺を格好良いとか思ってるし。こういうこと妄想してるのバレたら死ねるな。
 つーか、こんなこと考えてっから手ぇ出せてねえんだよ。

「おにぃ〜〜、ご飯だってー」
「うおっ!? い、今行く!」

 唐突に部屋のドアの向こうから妹の声がした。

「早く来て手伝えっておかーさんが!」
「わかったって! 今行くから絶対ドア開けんなよ!」
「はぁ? 開けんし。おにぃの部屋とか興味なしっ」

 クソ生意気な妹が、部屋から遠ざかっていく音がして、俺はほっと胸を撫で下ろす。乱れていた服を慌てて整え、居間へと向かった。
 俺んちは手伝わないと自動的に飯の量が減るシステムの家だから、食い逃すとまずい。そういうとこすげーシビアなんだよ。父さんは仕事だから、そういう食卓戦争には巻き込まれねえけど、俺は戦争だ。
 居間へ向かうと、妹がテレビでやってるアイドル番組を見ながらスマホを弄ってソファに座っていた。んだよ、手伝ってねーじゃん。

「ひよ、テレビ消せ」
「はぁ? 無理だし、今日はジュンぴ出るからぜってー見るし」
「知らねえよそんな男。つか居間の壁にアイドルのポスターはんなっつの、誰だよこいつ」
「やめてー! ひよの部屋もう貼る場所ないの!」

 妹の陽愛(ひより)が貼ったどっかのアイドルのポスターが、居間にでかでかと貼られている。アイドルファンっつーかドルオタっつーか、基本的にミーハーなんだよな。
 この間剥がしたっつーのに、また貼ってやがる。毎回俺が剥がしてんのに懲りねえやつ。
 父さんも母さんも、末っ子の妹に甘すぎんだろ。

「邪魔、剥がす」
「や〜〜、おにぃの鬼!」
「自分の部屋に貼れねーなら買うな! つーかなんだその髪の毛!」
「あ、これ? 染めた。かわいいっしょ〜」

 ピンクに染めた毛先に、ひよが笑顔を見せた。かわいいっつーか、アホっぽいし、来年受験だろ? 大丈夫かよこいつ。

「お前、そんなんで受験大丈夫かよ」
「おにぃが受かったんだから余裕じゃん?」
「は? ひよ、うちの学校くんの? やめとけ、もうちょっと勉強してせめて東校くらいにはいっとけって」
「えー、でもおにぃのとこ染髪じゆーじゃん。いろんな色にしたいしー。次はじゅんぴとおそろにすんの!」

 嬉しそうに言ってるけど、受験の時に髪ピンクに染めてくる女は落ちるから。つーかこのアイドル、若干大志に似てるのもむかつく。
 長い爪でスマホを操作するひよの近くで、外に居るクーガーが鳴いた。

「ガウッ! ガウッ」
「つーか、お前今日クーガーの散歩行ったのか? クーガー鳴いてるじゃん」
「んー、あとでいく〜」

 スマホでラインをしながらアイドル映像垂れ流しにしている妹に、イラッとしながらクーガーを見た。くぅん、と鳴きながら耳を下げている姿に、俺は眉をつり上げる。

「お前そう言って昨日も行かなかったろ! クーガー可哀想だから俺が行ったんだぞ」
「んじゃ今日も行けばいーじゃん。夜は一人で行くの怖いし。おにぃなら顔怖いから、クーガーと一緒なら誰も襲ってこないしょ〜」
「あのなあ、そういう問題じゃねえんだよ、飼うときに当番決めただろ! そもそもクーガーはお前がドーベルマンかっけーから欲しいっつったんだからな、俺はチワワかポメラニアンが欲しかったのに!」
「うるさ。つーかおにぃその顔でポメとかうけるし女子か? クーガーもおにぃのこと一番好きだからいいじゃん。おにぃクーガー嫌いなん?」

 ひよの言葉に、俺は窓の外から俺を覗くクーガーを見る。ぺたん、と尻尾が下がった姿に、窓へと駆け寄った。

「きっ……嫌いなわけねーだろが! っめちゃくちゃ可愛いだろクーガー! ごめんな、後で俺が散歩連れてってやるからな……っ」
「ガウ!」
「ヨロ〜、てか、クーガー、ひよの顔見るとめっちゃ吠えるし、散歩も勝手に好きなとこいこうとすんだもん」
「お前がそうやってクーガー舐めてっからクーガーもお前のこと嫌いなんだよ、お前がちゃんとクーガーの世話すればクーガーだって」
「説教っぽくて草〜、おっさんかよ」
「母さん! ひよがマジくそ女!」

 こいつ、本当になんでこんな生意気なの? 昔はもうちょっとマシだったのに! 台所に居る母さんに言うと、面倒くさそうに言う。

「はいはい、いいからご飯運んで! ひよもスマホ弄るのやめないとご飯なしだよ!」
「別にいいし〜、今ダイエット中だもん」
「家のWi−Fiも切るよ」
「や〜〜〜!」

 ネット世代に抜群の言葉に、スマホを放り投げて、ひよができあがった食事をテーブルへと運ぶ。
 姉の真実(まみ)は、母さんの料理を手伝っていたらしく、エプロン姿で気だるそうな顔をして、俺を睨みつけてくる。カウンターに置いてある皿を指さして顎でテーブルを示した。

「誠、さっさとこれ運んで」
「姉ちゃん今日も隈やべーな、なんかすげえブスだけど」
「うっせーな殺すぞ。いいからはよ運べウドの大木」

 マジで口が悪い。美大に通う姉ちゃんは、よくわかんないことばっかしている上に、不眠がちなのか、常に目の下が隈っぽくなってる。化粧してっとわかんねーけど、すっぴんはやばい。
 一生彼氏できねえぞこのクソ女って思ってたけど、意外にも常に彼氏が居るのが不思議だ。たまに料理の手伝いはするし、母さんとも仲はいい。でも、基本的に俺には辛辣だ。ひよのことは可愛がるくせに、贔屓だと思う。
 食卓に並んだ飯を囲んで食いながら、姉ちゃんが言った。
 皿の上に積み上げられた唐揚げを黙々と食っているとテレビからは、ひよが好きなアイドルの歌が流れている。

「あ、そうだおかーさん、あたし来週の金曜泊まりで居ないから。友達と課題やる」

 すると、食ってる途中で姉ちゃんが言った。来週の金曜日か。よかった、鬼が一人消えるな。すると、母さんが驚いたように反応する。

「あら、まみちょも居ないの?」
「まみちょって何。きめー言い方すんなよ母さん」
「だって、ひよが最近そう呼んでるから」
「にひひっ、まみちょ〜」

 悪戯っぽく笑う妹に、俺は眉間を寄せた。

「キモ」
「は? キモくないし! てかおかーさん、ひよも来週の金曜日りよぽんとこ泊まりに行くからいなーい」

 お、鬼マイナス2。やった、と内心ガッツポーズを決めると、母さんが更に驚く。

「えー、二人とも? お母さんも来週の金曜日は松坂さんと温泉行くって言ってたでしょ。お父さんは出張だし」
「え? じゃあおにぃ一人じゃん。やっば! ホラー映画借りてきて後で一緒に見よ!」
「うぜぇことすんな! ……え、てか俺一人なの?」
「今そう言ったでしょ」

 俺の言葉に、姉ちゃんが冷めた目線を送ってくる。
 普段、姦しい女の声に囲まれた家の中で、突然やってきた自由に、俺は目を輝かせた。誰も家に居ないんだったら、誰か呼んで泊めても、文句とか言われないよな?
 突然降って湧いた幸運に、口を開いた。

「……俺、その日家に友達呼んでもいい?」
「え? いいけど窓ガラス全部割らないでね」
「割らねえよ!」
「でもあんた中学の時割ってたし……」
「もういいだろその話題は!」
「あ、おにぃが死ぬほどイキっててダサかった時代だ!」
「あれダサかったねー」
「うるせーわ!」
「てか友達って誰? 井上? 佐々木? 大志はアメリカ行ったんでしょ」
「……そいつらじゃねえよ」

 姉ちゃんに聞かれて、俺は目線を逸らす。俺の姉ちゃんは基本的に性格が悪いと思う。人の悪口とか普通に言うし、クソ女だと思ってる。だから、出来れば正義の事もバレたくない。
 俺は姉ちゃんの言うことなんて気にしないけど、悪く言われたらムカつくし、万が一正義の耳に入って気にされたらすげえ嫌だ。
 口ごもる俺を見て、姉ちゃんは鼻で笑った。

「あ、女?」
「ちげーよ、男だよ!」
「反応あやしー」

 おちょくるような笑い方に反論しようとすると、隣でひよが声を上げる。

「てかさー、たいぽよなんでアメリカ行っちゃったの? ウチめっちゃショックなんだけど、おにぃの友達って友達に見せると大体反応いいし。あ、てかてかっ、おにぃたいぽよのインスタ見てる? フォローしてる? ひよこないだフォロー返して貰っちゃった!」
「クソみてえな名前で呼ぶな。見てねえしフォローもしてねえしブロックしろ。良いだろ別に誰が来たって!」
「お父さんのお酒隠しておかなきゃ」
「飲まねえよ!」
「この反応はぜってー女、おかーさん、アタシやっぱ家に居よっかな、どういうタイプの女か見てみるわ」
「うぜーー! マジうぜーー! さっさと就職して家出ろやマジで!」

 頭を抱える俺の隣で、女達のトークが加速する。

「ねー、まみちょ、おにぃの趣味っぽい女、大体腹黒って感じするよね」
「あー、こいつ若干女に夢見てるよな」
「にひひっ、ウケるー!」
「でもお母さん、今までの誠の彼女はちょっと苦手だったかな〜、もうちょっと上品な子がよかった」
「おにぃって押したらいけるタイプだと思われてるっぽ」
「てかブスばっか、怖面だけど面は悪くないんだからもっと上狙えっつの」

 ケラケラと笑うクソ女共を後目に、飯をかき込むと、俺は早々に食事を終えた。なんで俺の彼女把握してんだよ、家に連れてきたことあんまねえぞ! 上品とかどの口が言ってんだよ。自分が育てた娘見てから言えっつの! 
 うちの女は、顔は悪くないのかもしれないけど、とにかく気は強いしデリカシーも恥じらいもプライバシーも何もない。マジ最悪。グレた中学時代の俺の気持ちとか考えろ。
 こいつらと正義、絶対会わせたくねえ……。いや、そもそもその前に来てくれるのか?

「誠が昔連れてきた彼女さー、アタシにすっげーガン飛ばしてくんの。クッソっむかついた。ああいう女連れてきたら西園家出禁だから」
「ひよは、やたら媚び売ってくる女マジ死ねって感じ」
「二人とも怖くてお母さんやだ〜、お母さんは普通にお話出来る子がいいから、そういう子にしてね」
「ごちそーさま!」

 ばん、と箸を置いて、俺は玄関へと向かう。

「あれ、おにぃ、どこ行くの〜?」
「クーガーの散歩!」
「マ? ヨロ〜」

 ひらひらと手を振って見送ってくる妹に、俺はどうやって誘おうか考えていた。なんにしても、とりあえず、あいつらの居ない時間帯に来て貰おう……。

 


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