キス以上のことをしたい@

 大志がアメリカに行って、正義と付き合うようになってから、もう何ヶ月かが過ぎた。夏は終わり、制服も衣替えして、また学ランを着る季節。俺と正義は特に喧嘩することもなく、未だに付き合い続けている。
 正義のことは好きだったけど、男と付き合うのは初めてだったから、正直どうなるか不安な面もあった。
 けど、付き合ったからといって、俺たちの関係に劇的に変化があった訳でもなく、人が居ない時、ちょっと手を繋いでみたりとか、こっそりキスしたりするようになったくらいで、エロいことは全然してない。
 あとは、一緒に帰るようになったくらいか。

「誠、肩にゴミついてるよ」
「あ? どこ」
「ここ」

 帰り道、そう言って、正義は俺の肩についていたゴミを取ってくれた。正義の手が俺の肩に触れ、距離が近づくと、正義の顔も少し近づいた。

「…………」

 今、いけるかな。頭の中で俺がゴーサインを出す。
 けれど、そっと正義の頬に手を伸ばそうとした瞬間、タイミング良く正義は離れ、俺の肩についていたらしいゴミを捨てた。

「取れたよ」
「……おー、サンキュ」
「誠、ちょっと背伸びたね。僕あんまり伸びてないから、羨ましいな。学ランさあ、入学の時ちょっとでかいの買ったでしょ」
「あ、ああ」

 平常心、平常心。焦ったらがっついてるって思われそうだし、こいつなんか俺に妙に格好良いイメージ抱いてるっぽいし。
 俺はドキドキしているのを悟られないように、正義に近づくと、そっと手を掴もうとした。今、この時間帯、この辺には誰もいない。もともと人通りの少ない道だから、繋ぐなら今しか無い。
 ここが一番チャンスだと思う。
 けれど、掴もうとした手はするりと空を掴んだ。正義は自分の手を額から頭の方へと持って行き、身長を計る。

「ほら、誠のこの位置だよ僕。せっかく制服おっきいの買ったのにダボついてるのちょっと恥ずかしい」
「あー、でも買い換えると高ぇしいいんじゃね。俺なんてこれ以上でかくなったら買い換えだからもうでかくなるなとか言われてるし」
「あはは、僕んちと逆だ」

 くすくすと笑う正義に、俺はぐ、と掴み損ねた拳を握って、口を開いた。平常心、平常心。

「な、なぁ……」
「ん?」
「キスしていい?」
「………………」

 俺の言葉に、正義は少しだけ目を丸くした。
 やべ、ちょっと直接的っつーか、がっつきすぎたか? 引かれたかな……、と思ったけど、正義は周囲をキョロキョロと見渡して、俺に近づくと、少しだけ背伸びをして俺の唇にちゅ、と唇をあわせた。
 柔らかく、触れるようなキスは一瞬で、触れたと思った瞬間、すぐに離れてしまった。顔を真っ赤にしながら、少し困ったように眉尻をさげて、ふにゃりとした顔で笑う。

「はは……、僕からキスしちゃった」
「………………」

 なんだこいつ、可愛くね?
 初めてでもないのに、毎回赤くなる姿が、毎回胸に来る。

「でも、外はちょっと恥ずかしいね……」
「…………おう、いや、うん、そう?」

 口元を抑えて、耳まで真っ赤にしながら、焦ったように正義が歩調を早めたので、俺も隣に並んで歩く。にやけそうになる口元を必死で抑えた。ぴょんと跳ねた髪の毛が、歩く度に揺れている。
 あ゛〜〜〜〜……かっわい。つか、手ぇ繋ぎてえなあ……と思っていたら、正義の手が俺の手に触れた。
 正義は俺をちらりと見て、少しだけ微笑むと、人差し指が、俺の指に繋がった。俺はそのチャンスを逃さないように、正義の手に自分の指を絡める。じわりと温かい熱が、手のひらを通して伝わってきた。
 この時間帯、周囲に人は居ないし、静かで閑散としている。だからこそ二人きりになるチャンスっつーか、学校だとやっぱ人の目とかあるしな。
 この時間が今の俺にとって、一番大事なのかもしれない。制服から伸びた手を繋ぎながら、正義が言う。

「……もうすぐ冬になっちゃうねえ」
「……そーだな」
「学年上がっても、誠と同じクラスだといいな」
「ああ」

 まあ、クラス変わっても会いに行くけど。
 手を繋いだまま歩きながら、じっと正義の方を見つめた。身長は、俺より低いせいか、どうしても見下ろす形になる。正義が低いというよりは、俺がでかい。無駄にでかいせいで、いいことないと思っていたけど、いいこともある。あー……もっかいキスしてーな……。

「な、何? どうしたの?」
「いや、なんでも! ハハハ……」

 顔を上げた正義と目がかち合い、俺は引き攣った笑みを浮かべた。言おう、と思った言葉は、結局言えず仕舞い。俺ってこんなにヘタレだったか?
 照れくさそうに笑う正義の顔に、ただ胸がぎゅうっと握りつぶされた気分だった。

****

「いや、ハハハじゃね〜〜〜〜んだわ……!」

 昼休み、俺は心の欲望を吐露するように床を叩いた。
 井上は、相変わらず冷めた表情で俺の言葉を聞ききながら、ジュースのパックを開けた。元々三白眼気味の瞳は、俺の話が進むにつれ、胡乱なものへと変わっていく。心底どうでもいい、という表情はわかってはいるけど、誰かに言わずには居られなかった。
 紙パックのバナナジュースを吸いながら、井上はどうでもよさそうに言う。

「にっしーさあ、毎回そういうの、なんで俺に言うかな」
「お前ぐらいしか俺らの関係知ってる奴いねーし、相談出来る奴もいねえからだよ、悪いか」
「悪いよ」

 冷静に言う井上の言葉を無視して、俺も持っていたペットボトルを握りしめた。

「正直、付き合う前とほとんど変わらねえんだよ。全然警戒されてねえっつーか、飼い主に懐く子犬みたいな……それはそれで嬉しいんだけど、でも違うじゃん? 付き合ってるじゃん俺ら! だったらさあ、そういうことするだろ! 俺あいつにすっげー紳士だと思われてんの? それともそういうことしたがらない奴って思われてんの? キス以上に、一切発展しねえんだよ……!!」
「俺が知るか。つーか、友達同士のそういう会話聞くのキッツイんだってマジで」

 呆れた様子で、レンズの奥の瞳を細める井上に、悪いと思わないわけじゃない。俺だって、例えば井上と佐々木が付き合ってて、その相談をされたらマジかよ、キッツいなってなるし。正直友達同士のそういうのとか、全然想像したくないし。
 でも、話せる奴も相談出来る奴も井上くらいしか居ない。

「佐々木とかに話してみれば?」
「いや、佐々木は無理だろ……」

 俺と正義が付き合ってることを知っているのは、大志を除けば井上だけだ。一応、巻き込んだ負い目もあるし、報告したんだが「別に言わなくてよかったのに」と心底面倒くさそうな顔をされた。
 悪かったな。
 けど、井上なら他の誰かに面白おかしく話すこともなさそうだから、結局こいつに話しちゃうんだよな。他人にあんま興味なさそうだから、話してても苦にならないし。
 こいつ、聞き手の才能があるよ。
 大志が居なくなってから、いつの間にか自然と俺と井上と佐々木、それから正義でつるむようになっていた。最初は仲悪そうにしていた、というか一方的に嫌っていた佐々木も、気がつけば普通に正義と話すようになっていた。佐々木の中で、一応正義も友達というカテゴリに落ち着いたらしい。内心よかったと思う。
 俺も一応、友達と友達が仲悪いのは嫌だなって思うし。
 気がつけば、学校に居るときはこの四人でつるむようになった。
 今も、昼休み、あまり人の通らない廊下の方で飯の用意をしていた。いつもは全員弁当だけど、今日は佐々木が弁当がないのと、正義も飲み物を買ってくるとかで、一緒に居ない。
 二人で購買に行っている。

「おかしいと思った。普段小波が行くっつったら、いつもついてくにっしーが今日は残るっつーから。こういうことか……」
「悪かったな。でも俺マジで悩んでんだって」

 俺はここぞとばかりに井上へと相談した。

「なあ、どうすればいいと思う……?」
「いや俺に聞かれても。つーか、にっしー童貞だっけ? やり方知らんの」
「童貞じゃねえわ」

 一応、今まで何人か彼女が出来たことはあるし、セックスだってしたこともある。やり方を知らないわけでもない。つーか普通にヤりたい。
 俺だって、健全な男子高校生なんだから、性欲だってもちろんあるに決まってる。

「だって、あいつそういうの全然空気読まないっつーか……、キスしてもそこからまた会話になっちゃうんだよ……」
「テンション低いにっしーおもろ。写真ラインに貼って良い?」
「貼んな」

 キスだけが嫌なわけじゃないし、正義がするのが嫌っつーんなら、いつまででも待つけど、そもそもそういう雰囲気にならない。キスしたあと、嬉しそうに笑う顔は正直死ぬほど好きだけど、そっからの進展が一切ないのは辛い。
 キスだって、ただ触れるだけの、可愛いもんだし。

「手を繋いでキスだけって、中学生じゃねえんだぞ……」
「いいじゃん、中学生日記、せいしゅーん」
「お前、どうでもいいだろ」
「まーね。てか、そういうのは大志に聞けば? 小波と付き合ってたんだろ?」

 地雷製造マシーンかこいつ?

「大志に聞くのは気が狂ってるだろ。つーかあいつクソみてえなラインばっか送ってくるから今ブロックしてる」

 俺の言葉に、井上はケラケラと笑った。アメリカに行った大志とは、ネットがある現代じゃ、簡単に連絡は取れる。
 そもそも、大志はラインを沢山送る癖があるし、井上や佐々木なんかは、普通にやりとりしてる。まあ、佐々木と井上は大志が小波にしてたことなんて知らねえから、そうなるわな。
 井上がスマホを開いてインスタのページを開いた。

「にっしー、ブロックしてんなら大志のインスタ見てない? フォロワー数えぐいことになってるよ」
「は? うわ、何コレ」

 大志は、元々インスタはやってなかったはずだけど、向こうに行ってから始めたらしい。
 自撮りやら、俺にはよくわからん写真やらで、始めて間もないくせに、フォロワー数はすでに5桁を超えて、コメントが溢れている。何やってんのあいつ?
 まあ、元々顔もスタイルもいいから、顔出ししてやればある程度は増えるんだろうとは思ってたけど、ここまで増えるか普通。
 英語も喋れないくせに、アメリカでどうしてるんだろうと思ったけど、意外とうまくやっているらしい。
 空港で、どこか吹っ切れた様な顔をしていたし、元々コミュ力はある奴だから、どこに行ってもうまくやるのかもしれない。

「あの野郎、どこ行っても人気者か?」
「いやー、なんか有名なユーチューバーとコラボしてフォロワー増えたらしいよ。ほらこれ、大志も動画あげてる」

 井上が見せてくれた動画には、確かにアメリカに居る大志が居た。現地のユーチューバーなのか、なかなかのイケメンと一緒に動画で何か喋っている。つーかめちゃくちゃ日本語喋ってるし。けど、何故かかみ合ってるのが笑える。
 コメントすげえついてんな。

「あいつこういうのほんと上手いよな。人脈また広げてやがる」
「そこが大志じゃん? 繋がり大事にするよな、大志は」

 クスクスと笑う井上に、内心俺は笑えなかった。
 俺が、正義と全然進展しない理由の一つに、大志の存在がある。
 大志と正義が、付き合ってて、そういうことをしていたのは知っているし、見せられたこともある。
 正義が初めてじゃないことも、下手すりゃ俺より慣れてる事も知ってる。だからこそ、実際したときに「下手くそ」って比べられたら、正直立ち直れねえかも……。考えるだけで、気が重くなる。
 いや、正義は絶対そんなこと言わないだろうけど、言わないからこそ、気を遣わせたくないっていうか。俺も、正義と付き合う様になってから、男同士のやり方はネットで調べた。
 正直かなりエグくてこんなこと出来るかと思ったけど、正義相手なら多分、普通に出来る……と思う。
 問題は、女と男じゃやっぱ違うだろうから、俺は男相手には初めてってわけで……。男相手には童貞ってわけで。キスする度に赤くなる正義の顔を思い出すと、あいつも童貞っぽいけど、処女じゃねえのは確かなんだよな。俺、失敗したらどうしよう。
 大志から来た「もう正義ちゃんとエッチした? どうせ手も出せてないでしょ」という煽るようなラインを見て、反射的にブロックしたことを思い出す。

「は〜〜〜〜……」

 あの野郎、毎回毎回、手が早ぇんだよ。なに付き合った瞬間すぐ手ぇ出してんだ。昔っからそうだよあいつは。付き合ったなら手を出さないと失礼でしょみたいな謎理論掲げやがって。
 おかげで、俺が手を出さないことが最早正義のなかで当たり前みたいな空気になってて、手を出しづらいんだよ。
 それに、大志はいずれ戻ってくるし、もし戻ってきてとられたらと思うと……。
 諦めてないよ、と軽い顔で笑っていたけど、そういう宣言に関しては大志は嘘をつかない。諦めてねえっつんなら、諦めてないのかもしれない。俺も、とられるつもりはないけど、今のままだと……。

「…………た、大志って、今まで男と付き合ってたことあんのかな」
「いや、知らねーし。にっしーのが詳しいんじゃん? そういうの」
「俺が知る限りでは、なかったと思うけど……」
「ふーん、ってか、俺からすれば男相手によくそういうこと出来んなって感じだけど。聞いて良い? にっしーって小波相手に勃つん?」

 聞いていい? と前置きをしてきた割には、コンマも挟まず堂々と聞いてきた。

「お前って、たまにマジで遠慮なしに聞いてくるよな、ちょっと性格変わったんじゃね?」
「やー、もうにっしーに遠慮しても無駄かなって思って。で、実際どうなん? てか、シコる時って小波想像してんの? それとも普通にAVで抜く?」
「あー……まあ、半々?」
「だよな、俺も今は別れたけど彼女居たとき、毎回彼女で抜いてた訳じゃ無いし。むしろ、彼女のが割合少なくない?」
「まあ……」

 どうでも良さそうに言うけど、俺としては結構重要な話してんだけどな。そういうのは、井上はあまり気にしないぐいぐい聞いてくる。
 けど、別れたっていったか今。

「ってか、あれ、井上彼女居なかったっけ。別れたん?」
「別れた」
「マジか。いつ?」
「お前らのゴタゴタがあった時、なんだかんだあって別れた」
「え、俺らのせい?」
「いや、それなくても終わってたわ。なんか束縛激しかったし」

 井上は、結構でかいこともどうでも良さそうに言うんだよな。彼女と別れたことをそんな淡々と言うなよ。と思ったけど、俺も今まで彼女と別れたとき、逆にテンションが落ちて淡々と言ってたかもしれない。
 でも、今正義に振られたら井上のテンションでは言えねえな。

「にっしー何で抜く? 映像派?」
「いやまあ、そこはいいだろ」
「えー、気になるぅ〜、ははは」

 ケラケラと笑いながら下ネタを振ってくる井上に、俺は口を噤んだ。抜く時のおかずなんて、普通にスマホで見るサイトとかだけど、ぶっちゃけ他にも……いや、この話は井上にも流石に言えない。

「てかさあ、マジどうすりゃいいかな」
「普通に誘えば? エッチしよって」
「いや、普通に誘うの意味がわかんねえ……」
「にっしー、今までの彼女の時どうしてたの?」
「あ? 大体、向こうから誘われたし、親居ないときに家に行けばそうことになるじゃん」
「じゃあ、家に誘えよ」
「いや、俺んちもあいつんちも親兄弟居るから……」
「ラブホは?」
「正義が行くと思うか? てかあいつは入れねえだろ」
「あー……」

 そこまで話したところで、佐々木が帰ってきた。けれど、そこに正義の姿はない。

「ただいまー、何話してんの?」

 佐々木が井上の隣に座ると、井上が淡々と嘘を言った。

「あー、ウチのクラスの小坂と大宮が付き合ってるって話」
「おいっ」
「はぁ? 小坂と大宮って男同士じゃーん、きっも! やべー話してんなって!」

 パンの袋を開けながら、ゲラゲラと笑って佐々木が井上の肩を叩く。小坂と大宮は、俺らのクラスにいる、若干根暗なグループの連中だ。佐々木は馬鹿にしたような面でキモイキモイと連呼している。
 ……まー、男同士だとそうなるよな。やっぱこいつには相談出来ねえ。つーか話すのは無理。小さく息を吐くと、井上が続けた。

「嘘に決まってんだろ」
「なーんだ、つまんね」
「あー、でも内海と吉川は付き合ってるらしいよ」
「は? 女同士じゃん、エッロ。ドスケベかよ!」

 同じクラスの肉感的な美女二人の名前を挙げた瞬間、佐々木が食いついた。間に挟まれてえ〜とか言ってるけど、マジな話だったら邪魔じゃねえ? てか同じ同性なのに、女同士はいいのかよ。
 いや、というよりも、ただこいつの好みかどうかってだけなのか?
 俺の考えを察したように、井上が口を開く。

「嘘だけど」
「さっきからなんなんその嘘祭り!」
「なー、佐々木。じゃあもし大志がアメリカで今男と付き合ってるって言ったらどうする?」

 大志、という名前を聞いて佐々木の眉がぴくりと持ち上がる。

「は? 何ソレ聞いてねえんだけど。え、ニューハーフ?」
「いやもしもっつったろ」
「また嘘かよ。んー、まあ、大志ってやっぱする事がちげーなって思う。真似できねーわ! てか、大志ならアリじゃね?」
「んじゃ、にっしーは?」
「あ?」
「ごほっ」
「にっしーが男と付き合ってたらどうする?」

 おい、井上お前何言い出してんだ。話せねえっつったろ! 佐々木の背後から井上を睨みつけるが、井上は俺を無視した。こ、こいつ……! 佐々木はといえば、井上の質問に対して、怪訝な顔をして俺を見たが、次の瞬間噴き出して笑った。

「あ〜! にっしー人気ありそうよな! 男に! 二丁目とか行ったら人気出んじゃね? 何? ホモビでも出んの?」
「………………」
「てかさー、さっきからその嘘なんなん? 井上好きな奴が男なの? ギャハハ! そういやあのまんこ臭いっつってた女と別れたんだっけ」
「別れた」
「ギャハハハハ! 正解でしょ、井上ってMっぽい女が好きだよなぁ」


 よかった、佐々木が鈍くて。
 井上の嘘が連続したおかげか、俺に関しても嘘だと思ったらしく、もうすでに別れた井上の彼女の話題に移っていた。
 俺はほっと胸を撫で下ろして、さっきから姿の見えない正義の所在を聞く。

「おい佐々木、ところで正義は?」
「ん? あー、トイレ寄ってから来るっつってから、先に来た」
「……マジか」

 大丈夫か? あいつ、この学校に居るとすぐ輩に絡まれるからな。
 大志が居た頃は大志の存在があったし、お面被ってるやべーやつみたいな認識があったから、誰も話しかけたりしなかったけど今はお面もしていないし、大志も居ない。後ろ盾もない。
 この学校だと即カモられそうな顔してっし。…………やべ、不安だわ。
 俺は食いかけの飯を置いて立ち上がる。

「ちょっと行ってくる」
「えー? にっしーカホゴすぎじゃね?」
「馬鹿佐々木、お前あいつの絡まれっぷり知らねえだろ。あいつ、マジですぐ絡まれるんだよ。トイレとか絶対絡まれてる。つーか、佐々木もトイレくらい待てよ」
「俺腹減ってたもん。なんで俺があいつを待たなきゃなんねーんだよ。つか大丈夫だって、逃げるくらいは出来るっしょ」

 口を尖らせてる佐々木を置いて、俺は正義を探しに行った。

 案の定、知らない奴にカツアゲされそうになっていたところ捕まえる。やっぱ言うとおりだったじゃねえか!
 何故か謝ってくる正義に対して、俺は小さく息を吐いた。……目、離したくねえな。


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