28

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 化野がいなくなってから、考える。

「…………」

 化野、居なくなっちゃうんだ。
 一年って言ってたけど、また学校に戻ってきたりするのかな。ベッドに戻り、ぼんやりと考えていると、再びドアがノックされた。

「? 化野……?」

 また、化野が戻ってきたのかと思ったけれど、違った。
 がちゃりとドアが開き、その向こう側には、誠が立っていた。

「ま、誠!」
「……よぉ」

 頭に包帯を巻いた状態で、誠が手を上げる。
 周りをきょろきょろと見回して、バレないようにそっと病室の中に入ってきた。僕の部屋は大部屋ではなく個室だったので、あまり人が頻繁に出入りするところを見られたらまずいのかもしれない。あるいは、誠が外出を禁止されているのか。

「だ、大丈夫? 怪我……」
「ん? ああ、全然平気、てか座ってろ。今そっち行くから」

 そう言って、ベッド近くの椅子に腰掛ける。

「……今、化野とちょっと話したよ」
「ああ、……俺も、今そこで会ってちょっと話した」
「そっか」
「おう」
「化野、学校やめちゃうって」
「休学っつってたけどなぁ、戻ってくるかは微妙かも」
「仲直りした?」
「…………お前って、そういうとこ以外と拘るよな」

 だって、気になるから。喧嘩したとは言っていたけど、子供の頃からずっと友達だったのに、喧嘩別れはちょっと悲しい。
 すると、僕の表情を汲み取ったのか、誠はぶっきらぼうに言った。

「仲直りはしてねえよ。あいつがやったこと、俺別に許してねえし」
「……そう」
「……でも、連絡先は消さないでおく、から、連絡はするかも……」
「うん、よかった」

 その言葉に、ほっと息を吐いた。よかった。僕が微笑むと、誠は複雑そうに眉を寄せた。

「つーか、俺よりお前はいいのかよ」
「え?」
「お前は、大志のこと許すのか?」
「…………」

 許すとか、許さないとか、こうやって面と向かって問いかけられたのは初めてな気がした。
 化野のやったことだけを言うならば、僕はきっと許したくないと答えるかもしれない。けど、僕にとって化野は、色々と強烈で、決して消えることのない人間で、許す、とは少し違うかもしれないけど……。

「僕は、化野のことずっと覚えてるよ」
「…………」
「化野がやったことも、言ったことも、きっとずっと忘れないと思う」
「…………」
「許すとか許さないとか、それよりも、僕はそっちの方が大事だと思うから……だから」
「付き合ってくれ」
「え?」
「………………あ?」

 ぽろりと誠の口から溢れた言葉に、目を丸くすると、誠は僕以上にきょとんとしていた。
 一瞬の間の後、誠は顔を赤面させ、勢いよく否定し、僕の目の前で手を振った。

「ち、ちち、ち、違う! 今のは、そうだなって言おうとおもっ……! …………っおも、って」

 否定の言葉を、途中で途切れさせ、振っていた手の動きを止めると、その手を下ろし、膝の上に持ってきた。

「……いや、やっぱ違わねえわ。お前が、大志のことずっと覚えてるって言うから、まだ大志のことばっかかよってなって、なんかこう、むずむずするっつーか……イライラして」
「え……」
「大志より、俺と一緒に居て欲しいって思うし、忘れろとは言わねえけど、お前の中の大志成分を減らしたいっつーか、あ〜〜〜……何言ってんだ俺!」

 がしがしと自分でも訳がわからないというように頭をかいて、誠は頭を抱えた。僕は目を丸くしたまま、その様子を見つめる。けれど、胸がなんだかドキドキした。

「……誠……」

 僕の言葉に、がばり、と誠が顔を上げる。

「あのさ! …………俺、やっぱお前のこと好きだわ。こんな時に、こういうこと言うのもアレだと思うけど、返事はいつでもいいから。……俺と、その……付き合って、ほしい……!」

 静かな病院の中で、誠の言葉が部屋の中で響いた。
 僕は、顔がどんどん熱くなる。最近、こうしてすぐ真っ赤になることも少なくなっていたように思っていたけど、昔からの体質は、やっぱりそう簡単には変わらない。でも、同じくらい、誠も顔を赤く染めていた。
 時が止まったような空間の中で、誠が立ち上がる。

「じ、じゃあ、あんま長居するとバレるから……また学校で」
「僕!」
「うおっ!?」

 そのまま病室を出て行きそうな雰囲気の誠を、慌てて袖を掴んで止めた。
 もしかしたら、転校するかもしれない。だから、誠の言う"また"、はもうないかもしれない。そう思うと、伝えたい、いや、伝えなきゃいけないと思ったんだ。
 頬が赤くなり、口も震える。ドキドキと心臓の音が、胸の奥から響いてくる気がした。でも、言わなきゃ。
 ここで、伝えないと。

「僕っ、僕は、ずっと誠が一緒に居てくれて……、感謝してて……っ」
「お、おう」
「でも、感謝だけじゃなくて、誠が一緒に居ると、胸の奥がこう、暖かくなるっていうか、安心して、その、もっと、一緒に居たくなるというか…………」
「…………そりゃ、友達だし」
「違う! 誠は友達だけど、この気持ちは、そういうんじゃなくて……! ……ぼ、僕も、誠のこと、好きなんだと思う……………………その、友達じゃない、好き……」

 かあ、と熱くなる顔に、誠をちらりと見ると、誠も顔を真っ赤にしていた。自分だけじゃ無いことに、少しだけ安心する。
 掴んだ腕を外して、ぎゅうと手を握った。誠の手は、熱かったけど、僕の手もすごく熱い。
 誠の顔が、少しだけ近づいてきた。ぎゅっと目を瞑ると、触れるように唇が重なる。それは本当に一瞬で、目を瞑っていたから、キスかどうかもわからないようなものだった。
 でも、確かに柔らかい物が唇に触れたし、目の前には、顔を真っ赤にした誠が居た。

「あーー………………やべ、どうしよ俺……、すっげーーーーー……嬉しい」

 そう言って、嬉しそうに笑う誠に、僕の胸の奥がきゅんと高鳴った気がした。キスをしても、全然嫌じゃ無かったし、満たされるような気がした。
 僕も笑って、握っていた手に力を込める。

「僕も、嬉しい……、僕も、誠のことが、好きだよ」
「………………っ」

 そうして、静かな二人きりの病室の中、もう一度だけ、触れるようなキスをした。



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