21

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「お待たせ致しました。チャーハンセットをお待ちのお客様〜」

 タイミングがいいのか悪いのか、間を割くように入ってきた店員によって、僕たちの会話は中断された。少し気まずい空気の中、持ち運ばれた料理が次々にテーブルの上へと並べられていく。
 誠が隣に座っているので、井上は席を立つ事も出来ず、僕たちは頼んだ料理を目の前に小さく頂きます、と呟いて箸をとった。
 せっかく注文したのだから食べない訳にもいかない。無言で並べられた料理をもそもそと啄む。頼んだオムライスは美味しい、と思うのに、緊張で味がよくわからなかった。
 心臓が、未だにドキドキしている。
 誰かを脅すような真似をするのは初めてだったし、本当にいいんだろうかという気持ちでいっぱいだった。
 井上は、今何を考えているんだろう。
 ちらりと目をやると、やや憔悴した顔で料理を口に運んでいた。その顔に、チクリと胸が痛んだ。


「………………ごちそうさまでした」

 ご飯を食べ終えて呟くと、井上は誠に向かって手を伸ばしてきた。

「……おい、ケータイ返せよ。もう良いだろ別に」
「良くねえよ、まだ話終わってねえだろ」

 誠は、井上にスマホを返さず僕を見た。
 そうだ、まだ何も話せていない。協力はしてくれるって言うけど、何をするかもどうするかも、決めていないのに、協力も何もない。
 僕はいのうえ、と口を開こうとして、やめた。

「…………っなんだよ、何見てんだよ」

 泣きそうな、顔をしているように見えた。
 実際に、泣いてはいないけど、一瞬、悔しそうな、辛そうな表情が垣間見えた。眉間に皺を寄せ唇を噛み、睨みつけるような顔で見られて、僕は言葉を失う。
 その表情に、なんだか無性に胸が締め付けられた。
 もしかしたら、僕は自分と重ねてしまったのかもしれない。選択肢を狭められ、選ぶしかない選択肢を選択して、どうすることも出来なかった、昔の僕に。化野の前で、何も出来なかった僕に。
 きゅ、と唇を強く結び、次に言うはずだった言葉を喉の奥へと引っ込めて、誠に言った。

「誠、あの……」
「ん?」
「……ちょっと、井上と二人で話がしたいんだけど……」
「は?」
「あ?」

 僕の言葉に、二人とも声を上げた。わかってる。井上が僕の話を聞いてくれるのは、隣に友達である誠が居るからであって、僕一人じゃ、そもそも話だってしてくれなかっただろう。それは、自分でもわかってる。
 でも、このままじゃ駄目だ。これじゃあ、化野と同じで、心を殺してしまう。初めから、こうなるってわかっていたことなのに、実際に井上の顔を見ると、胸が締め付けられるように苦しかった。
 綺麗事かもしれないけど、これじゃあ、何も報われないんじゃ無いかって、そう思ってしまったんだ。

「正義、お前……」
「誠、お願いだから、……ごめん」

 僕がそう言うと、誠は少しだけ悩んでいるようだった。当然と言えば当然だ。だって、誠が居なくなれば、井上は僕とまともに話をしてくれるかわからない。音声データを預かっているから、簡単に逃げはしないと思うけど、話を聞いてくれる保証は無い。けど、それでも。
 誠の目をじっと見つめると、やがてふいと顔を逸らして、呟いた。

「……………………十五分だけ、トイレ行ってくる」
「おい、にっしー……」
「逃げたら殴る、マジで」
「………………」

 ぶっきらぼうに言うと、誠は個室から出て行った。
 あとには、向かい合った僕と井上が残される。店内に静かな音楽が流れる中、井上は、僕が何を考えているのか、計りかねているようだった。
 そもそも、井上とはそんなに話したこともない。僕にとって井上という存在は、化野のグループの一人という認識でしかなく、井上だって僕に興味も無いと思う。ただ、化野に目を付けられてた人間という認識だろう。だけど、それでも僕は、僕と誠は、井上を選んだ。
 理由としては、やっぱり化野の友達であるということと、あと……。

「おい、自分から話したいって言ったくせに黙るのやめろ」

 井上の言葉に、僕ははっと我に返り、まずは頭を下げた。

「ごめん」

 謝罪の言葉を述べながら、頭を下げると、間の抜けた声が目の前で響いた。

「こんなことして、本当にごめんなさい」
「は……?」

 きょとんとする井上に、僕は続ける。

「……写真も、音声も、本当は誰かに見せるつもりはないんだ。……井上が、言うなら、ここで消しても良い。ただ、力を貸して欲しいだけで……、脅すようなことして、ごめん」
「………………」

 井上は、僕の言葉に息を吸い込んだ。レンズの奥の瞳を細め、僕の方を見定めてくる。緊張に、体が少し震える。
 じゃあ、今すぐ消せ、と言われるかと思ったけど、意外にも次に吐かれた言葉は、別のものだった。

「……あのさあ、力を貸すって言うけど、そもそも何を望んでんの? 俺に。そんな貸すほど力もねえんだけど」

 もっともな疑問に、僕は頷き、聞きたかった事を伝える。

「あ、あのね、……井上には、化野のこと、教えて欲しい」
「は?」
「なんでもいいんだ。些細なことでも、化野の知り合いのことでも。ただ、教えて欲しいだけ。僕たちは、化野の持っているものを、知りたいから」

 僕の言葉は、井上にとって予想外だったのか、少しだけ目を瞬かせた。

「………………それだけ? もっとこう、闇討ちしろとか、そういうんじゃねえの?」
「そ、そんなことしたら井上が怪我するかもしれないし、危ないから……」
「………………」

 井上は心底呆れたような顔をして、後ろの壁に背中を預けた。どうやら、井上の中で想像していたものと現実が剥離していたらしい。深く息を吐き、じっと僕を見据えてくる。

「……あほくせ……」
「僕は一応、真剣なんだけど」

 別に、井上に直接何かを求めているわけじゃない。協力してほしいとは言ったけど、直接的に何かをすれば、その矛先は井上に向かうかも知れない。別に、そうなりたい訳じゃない。悪戯に、誰かを傷つけたいわけでも、別の誰かに矛先を向けたいわけでもない。
 ただ、化野がそうであったように、僕たちも情報が欲しいだけなんだ。例えば、化野が普段誰と連絡を取っているかとか、誰かを脅していたりするんじゃないかとか、誰が化野のことを好きかとか、そういうのを知っているだけでいいから教えて欲しい。化野の手の内を、少しずつでいいから暴いていきたい。そうして、他に、化野のことを知っている人がいたら、教えて欲しい。
 情報を集めて、協力者を増やしていけば、状況は変えられるんじゃないかって。出来ることから始めようと思って。
 こんなのじゃ甘い、と誠は言う。化野は鋭いから、バレたらどうなるかわからないと言う。それは僕も思うけど、脅されているからといって、誰かを脅すのは、やっぱり違う気がする。
 それじゃあ、禍根が残って、また同じ事を繰り返してしまうかもしれない。テーブルの上に置かれた水を飲んで、はぁ、と井上は嘆息した。

「もっと教室で、無視すんなとか助けろって言うのかと思った……」
「そんなことしたら、井上もいじめられちゃうかもしれないから。それに、今は誠が味方になってくれてるから、またああなっても平気だよ」
「………………」

 僕の言葉に、井上は眼鏡を押し上げ、ぼそりと呟く。

「…………お前は、もっと俺寄りの奴かと思ってたのにな」
「え?」
「俺と同じで、強い者には逆らえない、害もないけど利益もない、何の力も持たないか弱い奴だと思ってたのに」

 まるで皮肉るようなその言葉に、僕は少しだけ首を傾げた。
 井上の気持ちは、理解しているつもりだ。というよりも、普通に考えれば、井上の方が正解なんだろう。
 だって、誰かと争ったり、陥れたりするのは、疲れるから、井上の行動はある意味正しい。大人しくして嵐が過ぎるなら、そうしていた方がいいに決まってる。
 でも、僕の場合は、そうじゃない。
 それに、害も利もない人なんて、きっと居ないと思う。
 何かをきっかけに、害がないと思っていても、何かをきっかけに変わるかも知れないし、井上が自分を利益も害もない人間だと思っているなら、それは違う化野は、井上を友達だと思ってる。だったら、少なくとも、化野にとって、井上は利のある人間なんだと思う。化野は、興味のない人間を隣に置かないから。
 それなのに、自嘲気味に笑う井上の姿に、僕は少し違和感を覚えた。

「僕は、井上は、別に弱くないと、思う」
「…………あっそ。つーかさぁ、そもそも、なんで俺? 俺よりにっしーのが大志と仲良いし、俺より佐々木のが、大志のこと好きだから色んなこと知ってると思うけど、俺とか役になんて立たないだろ」
「…………井上が、僕のことをどう思ってるかは知らないけど、井上が僕のことを自分寄りって言うのは、少しわかるんだ」
「は?」
「誰かと争いたくないし、静かに過ごしたいって僕も思うから、井上の気持ちもわかる。でも、そう出来ないから今こうしてる訳で……」
「突然なんだよ」
「か、考え方が近いから、なんとなく、想像が出来るっていうか、うまく言えないんだけど、井上は、俯瞰で周りを見るのが得意そうだなって……!」
「は? フカン? って何?」
「…………周りをよく見てるってこと。それが、例え自分の為でも、うまく立ち回れるのは、広い範囲を見てなきゃ出来ないことだと、思うので……」

 そう、井上は、結構周りを気にするタイプだと思う。佐々木の場合は、友達以外は、別に興味がないから気にしないけど、井上はそうじゃない。自分を平和主義というだけあって、どうすれば波風立たないか、ちゃんと考えて行動している。利己主義といえばそれまでだけど、そういうのは、やろうと思っても中々出来ないと思うから。
 だからこそ、あの時、僕にもああ言ったんだと思う。

「………………」
「それに、化野といつも一緒に居る友達だから、井上がいいと思ったんだ。きっと、井上は僕たちが思っている以上に、化野のこと、知ってるよ」

 僕の言葉に、井上は何かを言おうとしていたけど、結局言葉が見つからなかったのか、喋るのをやめてしまった。

「……大志が」
「うん」

 しかし、すぐに呟くように喋り出す。それは、僕に、というよりも、独り言に近い囁きだった。視線も僕の方は見ておらず、ただ小さく低めの声が耳に届く。

「大志が、俺を友達って思ってるかどうかは、微妙だけど」
「……僕が知る限り、クラスで仲いいのは、井上と佐々木と、誠だった」
「そんなん、佐々木が大志にくっついてるから、俺も一緒に居ただけだし。佐々木とは中学の頃からツルんでたから。佐々木はアレで人懐っこいし、誰とでも話せるけど、俺はそうでもない……、よく知らねえ奴と仲良くなれない」

 ぼそぼそと、呟かれる言葉に、僕はそんなことはないと思った。井上が、誰かに話しかけているのを何度も見たことがあるし、僕と比べれば誰だってそうなのかもしれないけど、誰かと普通に笑って話せるのは、すごいことだと思う。
 井上は自己評価が低いようだけど、僕から見れば、羨ましいとすら感じる。だって僕は、それが出来なくてこんなことになっているんだから。でも、井上は、自身のことはそうは思っていないようだった。

「ルックスだってさあ、あいつらに全然追いついてないし」
「井上は、背も高いし、僕は羨ましいけど……」
「うるせ。俺はさぁ、大志みたいに派手な美形でもなけりゃ、にっしーみたいに強そうでも男前でもない、佐々木みたいに会話上手いわけでも可愛い顔してるわけでもない、雰囲気だけの地味顔だから、毎回合コンとかすると俺に当たった女外れみたいな顔すんだよ」
「…………」
「でも、それでも一緒に居たのはやっぱ、大志が近くに居ると楽しいし、いい思いも出来るからっつー薄っぺらい理由で、お前が期待してるような友情的なもんも、多分ない……、少なくとも、俺は」

 自分でも、何を言っているのかわからないような顔をして、井上はぽろぽろと言葉を溢す。

「大志にとって俺は、別に友達とかでもなくて、ただ丁度よかっただけなんじゃないかと思うよ。周りに置くのに」
「…………そんな風に思ってたの?」
「だって、俺とあいつら、全然釣り合ってねえし。引き立て役も、一人は必要だろ」

 は、と自嘲気味に笑って三白眼の瞳を細めた。

「俺がお前の立場だったら、大志に逆らおうとは思わねえな。だって、大志に逆らっても、いいことなんて一つもなさそうだし。だから、大志は俺を側に置くんだよ、俺、大志に逆らわないもん」

 まるで、王様の部下だよな、と揶揄するように笑って、ひらひらと手を振った。
 僕はその言葉に首を横に振った。

「僕は、そうは思ってない」
「いいよ別にそういうの」
「本当に」
「だからいいって」
「僕は……っ、井上が羨ましい」
「…………は?」
「だって僕は、化野と普通の友達になりたかった。皆みたいになりたかった。それに、利用されたりとか、利用したりとか、そういうのが無くても、きっと井上は化野と友達になれるから」
「…………何、急に」
「だって、化野は、自分の好きな人しか周りに置かないよ」

 僕の言葉に、井上は黙り込んだ。
 でも、コレは本当のことだ。化野と一緒に居たからわかる。化野は、基本的に好きな人しか自分の周りに置かない。利用したりとか、そういうのはあるだろうと思う。でも、嫌いなものを近くに置くような真似は、少なくともしない。
 むしろ、嫌いになったら、徹底的に嫌い、排除しようとするタイプじゃないだろうか。そうしないってことは、化野にとって、井上はそうじゃないから。

「……だから、それは、俺が大志に逆らわないからだろ」
「そうかな」
「そうだよ。つーか、大志のこと裏切れっつっといてなんなのお前……ほんと、わけわかんね……」

 少し泣きそうな声で言う井上に、僕は慌てて謝った。
 そうだった、僕が持ちかけているのは、そういう話だ。別に、井上の人生相談なんてしていないし、井上だってそんなつもりもないと思う。ただ、井上が否定ばかりするから、どうしても言わずにいられなかった。

「……ごめんね。おこがましいとは思うけど、僕は、やっぱり井上に協力して欲しい。……だから、お願いします」

 そう言って、再び頭を下げると、目の前で大袈裟なため息が聞こえた。顔を上げると、井上は壁に背を預けた状態で、脱力したようにずるずると下へと体を落として、最終的には床に寝転がった。
 テーブルを通して、井上の姿が僕の視界から消える。僕が何も言えずにいると、やがてテーブルの下から、井上の声が聞こえた。

「………………俺、別になんも出来ないと思うけどー……、取り柄もねえし」
「ううん、そんなことない」
「……あっそ。ま、弱みも握られてるしなー」
「あ、あの、音声と画像は今消す……」
「いいよ、消さなくて」
「え?」

 パソコンに転送してしまったけど、それだって家に帰って消せばいい話だ。井上が本当に協力してくれるというのなら、僕は消すことに躊躇はない。もともと、コレだって本当に使う気はなかった。ただのきっかけだ。
 けれど、井上はそれを制止する。むくりと起き上がり、ひねた表情で言った。

「それがあるから言うこと聞かされてましたって言えば、言い訳になるから持っておけば。全部終わったら消せよ」
「……いいの?」
「むしろ、何もないのにお前らに協力したってことバレた方がやべーわ。……あーあ、変な事に巻き込まれた」
「ごめん……」

 嘆息しながら大袈裟に首を振る井上に、僕が再び頭を下げると、井上が小さく笑った。

「お前ってさー、最初と全然イメージ違うのな」
「え?」
「最初狐面つけて学校に来たとき、ドン引きしてたけど、こうやって話すとなんか、イメージ違うわ。……アレそもそもなんでつけてきたん?」
「あ、あれは……深夜のテンションで、かっこいいと思ってつけてきたら、なんか止まらなくなっちゃって……」
「は!? マジで言ってんのそれ!? ハハハハハハ! やべっ、ちょーウケる! 頭おかしーだろ! ばっかじゃねーの!」
「あは……」

 そういえば、誠にもこうやって笑われたっけ。
 確かに自分でもバカだと思うけど、井上がこうして普通に笑ってくれた事がなんだか嬉しくて、僕も頬を緩めた。あの日のことを思い出すと、今でも顔が熱くなる。本当に、なんであんなことをしちゃったんだろう、僕は。もうちょっと冷静になればよかったのに。

「……悪かったな」
「え? 何が」
「…………別に、なんでも」

 けらけらと笑い終える、一拍おいてからぼそりと呟かれた言葉に、思わず言葉を返す。けれど、井上はもう同じ言葉は吐かなかった。僕も、何が、と問いかけはしたものの、なんとなくその内容は察していた。井上も、悪いことをしたとは、思ってくれたのかな。
 それから、井上は僕に向かって問いかけてくる。
 
「あとさー、もう一個聞いて良い?」
「う、うん? 何?」
「お前さ、にっしーと付き合ってんの?」
「つ……!?」

 その言葉に、僕は目を丸くする。さっきまで赤かった頬が、更にじわじわと熱くなってくる。慌てて首を横に振って否定した。

「つ、つき、つきあってない……!」
「ふーん」

 どうでもよさそうに呟いて、じゃあ、と言葉を続けた。

「大志とは付き合ってるだろ」
「………………それは」
「別に、大志はあんなだし、お前にだけ態度露骨だしそこまで驚かんけどね」
「………………」
「大志と別れたいから、こんなことしてんの?」

 その問いかけに、僕は頷いた。
 だって、本当のことだからだ。それだけが理由じゃ無いけど、それも理由の一つではある。井上は、わかってはいたようだけど、僕の返答に、眉間に皺を寄せてうーわ、と言葉を溢した。

「クソカップルの痴話喧嘩に巻き込まれたー」
「……ご、ごめん、本当に、でも痴話喧嘩では……」
「いいよもう、俺だって別に、いじめるの楽しくてやってたわけじゃねえし。空気悪いのは、正直面倒くせえし、解決すんなら、協力してやるわ」
「………………ありがとう」

 僕が笑うと、井上は少し複雑そうな顔で舌打ちした。

「お礼言われるのはなんか違くね? 俺お前のこといじめてたっつってんのに」
「でも、協力してくれるって言うから……」
「ハイハイ、脅されて仕方なくね! つーかお前、にっしーと付き合ってないのマジ? 俺付き合ってんのかと思ったわ。だってにっしーってどう見ても……」

 バン、と部屋のドアが開いた。

「…………十五分経った」

 そこには、少し顔を赤くした誠が立っていた。

「……にっしー、もしかしてずっとそこに居た?」
「居ない」
「いや顔赤いですけどぉ」
「うるせーな」

 言い合う誠と井上を見ながら、僕は微笑む。よかった。これをきっかけに、絶交することになるかもしれないと言っていたから、すごく心配だったけど、井上と誠が普通に会話してくれるだけでも、僕は嬉しかった。
 それから、空気が少しだけ柔らかくなり、井上と誠を交えて、三人で話し合うことになった。

「そういやにっしーさぁ」
「んだよ」
「にっしーは、なんで俺を選んだの? 大志の情報なら、佐々木の方があるんじゃねえの」

 その問いに対して、誠は当たり前のように答える。

「は? 佐々木とお前だったら、そりゃお前だろ」
「……まー、そうだわな。あいつ、大志のこと大好きだし……」
「いやそれだけじゃなくて」
「なんだよ」
「お前他人に興味無さそうだから、佐々木より大志裏切って協力してくれそうだと思って」
「…………にっしーってたまにそういうとこあるよな。聞いた? 小波くん」
「誠は素直だよね」
「なんだよ、俺変なこと言ったか?」
「うるせえーふられろ」
「あ?」

 一瞬険悪なムードになったものの、それ以上、特に質問を返すことはせず、井上はどこか納得した様子で、今後の計画を練ることにした。





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