13

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 恋、というのがよくわからない。

 小学生の時、好きな子が居た。
 隣の席の子で、引っ込み思案な僕によく話しかけてくれた。明るい子だったと思う。可愛いとか、可愛くないというよりも、その子と一緒に居ると嬉しかったし、楽しかった。
 同じ班になって話すとドキドキしたし、一緒に帰りたくて、わざと教室に残ったりなんてしてみたり。
 結局、その子とは特別何かがあったわけでも無く、クラスが変わると共に疎遠になってしまって、同時にそんな気持ちも消えていった。
 それから、同じような事は何度かあったけど、結局、離れればそこまで執着というものは湧かなかった。だから、それが恋なのか、恋じゃないのか、わからなかった。
 中学に上がってからは、そんなことを考えている余裕もなかったし、女子と話す事なんてほとんどなかったから、そんな気持ちも湧かず、もちろん彼女なんて出来たこともない。
 だから、世間一般的に言われる、恋というのがいまいちイメージが掴めなかった。
 アレが初恋だったというのなら、簡単に冷めてしまうことが悲しいし、恋じゃなかったのなら、恋がどんなものなのかわからない。

 でも、一つ確かに言えることは、化野のコレは、きっと恋とは似て異なるものだということだ。

「…………っあだ、しのっ……」
「んー?」
「指、あんまり、動か、っさな……」

 エアコンのない、蒸し暑い小屋の中、僕は机にうつ伏せ状態で掴まり、途切れ途切れに、声を振り絞った。にゅくにゅくと肛門を滑る指の感覚が気持ち悪い。異物を挿入されているという感覚は拭えないはずなのに、背中から這い上がってくる奇妙な感覚に、僕は身を捩った。
 けれど、すぐに「暴れたら駄目」と化野に叱咤される。

「んっ、……くっ……!」
「あ、ここ気持ちいい? そうだよなぁ、ここ好きだったもんね」
「……っ……ぁ!」

 化野の指が、腸壁を擦り上げながら、中をじわじわと広げ、解していく。顔に集まった熱をなるべく見られないよう、僕は机に顔をくっつけた。
 あの日から、僕と化野はこうして、この化野の「秘密基地」でこんな事をしている。今では、この行為がどんな意味を持つのか知っているのに、前と同じように。いや、その時よりも頻度が多いかもしれない。以前は友達だったけど、今は恋人だから、と化野に言われてしまえば、僕はその言葉に頷くよりほかなかった。
 あの日以降、僕への嫌がらせやいじめの類いはさっぱりと消え、同時に僕も学校で喋ることをやめた。
 元の狐面をつけた、変な無口の小波正義に戻ってしまった。
 どうしてかといえば、化野がそれを望んだから。俺以外と喋らないでよ、と笑顔で言われて、首を振っても化野はゆっくりと一つずつ、僕の退路を潰していった。
 丁寧に丁寧に、言葉と提案と笑顔で意思を手折られ、崖の縁で選択を迫られた。
 結局、僕は化野の言うとおり喋ることをやめた。勿論、家族間では話すけれど、学校では口をきかない。
 それに、僕自身、何を喋ればいいのかもわからなくなってしまった。だって、何を伝えればいいのかも、そもそも自分がどうしたかったのかも、よくわからなくなってしまった。
 変わりたいと思ったし、変わらなきゃとも思っていたはずなのに、今こうしていると、自分がどう変わりたかったのか、変わったらどうなるのかも不明瞭になった。
 誠とはあれから会っていない。
 ラインで会話はするものの、実際に家に行くことも、会おうとすることもなかった。だって、どんな顔をして会えばいい?
 友達になりたい、なんて言っていたくせに、結局こんなことをしているだなんて知られたくない。誠がこのことについてどう言おうと、恥ずかしい、と思ってしまう。
 だから、合わせる顔がなかった。

「ほら、逃げない。もっとちゃんと解しておかないと、挿れた時にきついよ」
「…………――っあ……!」

 茹だるような暑さの中、机の上へ爪立てると、化野の指が、ぐりぐりと僕の前立腺を押しつぶてきた。緩くひっかき、撫で付け、転がし、まるで、対峙して話していたときのように、丁寧に。
 けれど、その刺激に、僕は身を仰け反らせ、あまり上げないように控えていた声を漏らす。

「あ、あっ……あっ」

 上着は開けて、下の服は近くに放られている。こんな所を、誰かに見られたら、終わりだ。
 こりゅこりゅと執拗にナカを嬲ってくる指に、自分の呼吸が段々と荒くなっていくのがわかった。いや、もしかしたら、最初からこうだったのかも。蒸し暑いのは、きっと季節や場所だけのせいじゃない、なんてことはわかっている。ぴくんと反応する体を愉しむように、化野の指が中を弄る。蒸して汗ばむ体がにわかに痙攣し、僕は虚ろな思考で唇を押さえた。

「はぁっ…………っ……く……」
「別に我慢しないで、もっと声あげてもいーよ。どうせここじゃ誰にも聞こえないし」

 ここは化野の秘密基地。忘れ去れたプレハブ小屋。
前は、化野の家でこういうことをしていたけど、最近は、化野の家ではなく、ここでしている。学校から少し離れ、隔離された場所は、こういうことをするには適していたのかも知れない。
 僕としては、どうでもよかった。どこでしても、やる行為は変わらない。ただ、前は許容出来ていたこの行為も、今ではなんの為にするのかがわからなくなっていて、暑さも相まり、思考が溶けていく。化野と体を繋げる度に、血が煮えたぎるほど沸騰しそうになる。きっと、僕は変態なんだ。

「正義ちゃんさぁ、俺としてないとき、オナニーどうしてたの。自分でこっち弄ってた?」
「…………っ!」
「あは、中ちょっと締まった。図星?」
「ち、…………」

 違う、とはっきり言い切れなかった。
 健全な男子高校生なんだから、当然オナニーだってする。でも、前を弄って、達しようとしても、中々達せず、結局自分で後ろを弄ってしまったことが、ほんの少しだけあった。これは、健全じゃないのかもしれない。正直、困惑したし、このままじゃ駄目だと思った。このままじゃ、きっと僕はもっとおかしくなる。
 射精した後の虚脱感に、もうしないと誓ったのに、結局また、ここに戻ってきてしまった。
 元々赤い体が、羞恥によってさらに赤くなる。毛細血管が広がり、全身が真っ赤になっている。
 黙り込んでしまった僕に対して、化野は何が楽しいのか、嬉しそうに笑い、僕の尻穴からぬるりと指を抜くと、自らの物を押し当ててきた。ゴム越しでも伝わる陰茎の怒張具合に、僕の体が強ばった。
 何度もしたはずなのに、この瞬間だけは慣れない。僕の体だって熱いはずなのに、化野のそれも熱く感じられ、逃げようとする腰を上から押さえつけられた。

「……っ、……」

 興奮気味に息を吐きながら、化野は僕を抑えていた手のひらを持ち上げ、背中をなぞる。

「ひっ」
「ははっ……、ねえ、マジで自分で後ろ弄ってたの?」
「…………っ……」
「喋れよ、なぁ」
「い、弄って、ない……」
「ふーん」

 嘘をついてしまった。でも、本当のことなんて言えるはずもない。だってこれは、すごく恥ずかしいことだ。男なのに、後ろを弄るなんて。
 ヌルヌルと、尻の合間を化野の竿が行き来する。瞬間、付けていたお面が外された。

「んぐっ!?」

 顔が晒され、背後から伸びてきた手が、僕の口の中へと突っ込まれた。俯いていた顔を引っ掴まれると、後ろへ反り喉元を無防備に晒した。
 突っ込まれた指は、人差し指と中指の側面で僕の舌を挟んでくる。

「あぇ……っ」

 細く長い、ゴツゴツとした中指を奥へと突っ込まれ、逃げようと引っ込む舌の腹を、人差し指でかりかりとひっかいた。口を閉じることも出来ず、口の端から唾液が溢れると、後ろで、笑う気配がした。

「嘘ついてんのは、この舌かな」
「あ、う……っ」
「ね、こっち向いてよ」

 腔内を指で嬲られながら、化野の問いかけに、僕は少しだけ顔を横に向けた。まだ挿入もしていないのに、密着され、上から征服されるようにのし掛かってくる。

「……アハ」
「……あら……ひの……」
「物欲しそうな顔、してんね」
「……う…………っあ、っ」

 ぬぷ、と中に入り込んできた熱に、僕は大きく口を開いた。は、入ってくる……!
 本来排泄気管であるはずのそこに、何かを挿入されるということはあり得なくて、恐ろしいはずなのに、慣らされてしまった僕の体は、容易く化野の物を受け入れる。まるで、それが自然の様に、肉を割いて押し入ってくる。

「あ、あっ……」

 ぬぷぷぷ……と、ゆっくり、静かに僕の中へと埋め込まれていく肉に、僕は拳を握り、眉を寄せた。耳元で、くすくすと笑う化野の声がする。全部入っちゃった、と嘲笑するように言われて、僕は目を瞑った。確かに、中に化野の存在を感じるからかもしれない。
 自分の体を支える足がガクついて、体重を机の上に預けると、化野は僕の上から起き上がり、口に突っ込んでいた指を抜く。唾液が糸を引き、揺らぐ視界の中で、僕は再び口を押さえた。
 荒い呼吸を繰り返しながら、祈るような気持ちで早く終わることを願う。

「? 何で口抑えてんの?」
「………………」
「俺と一緒の時は、喋ってもいいよ」
「………………っ」

 別に、意味なんてない。ただ、僅かな抵抗と、自分への戒め。
 みっともなく、声をあげることも、縋るように甘い声をあげることもしたくなかった。プライドも自意識も自尊心も、ちっぽけなものだけど、ないってわけじゃない。
 今ではこの行為が、どんな意味を持つかなんてわかっている。だからこそ、化野に全てをいいようにされたくなかった。
 僕が何も喋らないことに、化野は怒るだろうかと思ったけれど、何故か上機嫌で化野は笑った。

「ま、いーけど」
「…………っ!」

 腰を掴まれ、ぱちゅん、と腰を打ち付けられた。喉の奥から、か細い息が漏れる。一瞬、声を上げそうになってしまったけれど、我慢しなきゃ。反射的に漏れそうになるくぐもった声を抑えながら、僕は机の上に身を預けた。化野の陰茎は、奥までずっぽりと中に嵌め込まれ、内壁をごしごしと擦ってくる。薄皮一枚隔てているはずなのに、化野の形がしっかりと感じられて、ぎゅうと口を結んだ。
 大丈夫、ちょっと我慢すれば、すぐに終わる……。

「えいっ」
「……っ〜〜〜〜!」
「正義ちゃんが好きなとこ、この辺だったっけ」
「っ……! っ……!」

 前立腺をカリで引っかけながら、弱いところを何度もコツコツとノックされ、僕の体は大きく仰け反った。ふぅ、ふぅ、と息を吐く間にも、化野のピストンが繰り返される。やだ、そこっ……! コツコツ、コツコツと執拗に亀頭で押しつぶされ、震える体を諫めながら歯を食いしばる。
 引き抜き、押し入れ、再び引き抜き、何度も行われるピストンと卑猥な音と同時に、お互いの呼吸音だけが小屋の中に響く。

「はー……っ……はぁっ……」
「……、っ……〜〜〜〜〜っ……! っ……」
「……っ……! はぁ……っ、きもちい? 正義ちゃん……っ」
「……っ……――っ……ふっ……!」

 ぱちゅ、ぱちゅ、と肉のぶつかる音が聞こえる。
 視界の端には、小窓から差し込む光が見えた。こんな時間に、僕たちは一体何をしているんだろう。やがて、腰を押さえていた化野の両手が、僕の体と机の間にいれられ、乳首へと伸びてくる。机に預けていた僕の体は、無理矢理起こされ、きゅ、と指で両乳首を摘ままれた。

「……っ!」
「別に、声あげてもいーよ? 正義ちゃんがエッチなことなんて俺知ってるし」
「……っ!?」

 そんなことない。だって、僕はこんなこと望んでないし、自分で望んでやったことなんて一度もなかった。否定するように首を横に振ると、化野はそうかな? と笑った。そうだ、そうに決まってる。
 僕は、そこまではしたない人間になりたくない。
 摘ままれた乳首をくりくりと指の中で転がされると、喉の奥までせり上がってきた声を慌てて抑えた。

「……っ……」
「だって、こんなに乳首弱いじゃん。モロ感乳首触られて勃起して、それで否定すんのっておかしくね?」
「…………っ」

 違う、違う、違う! 僕は自分へ言い聞かせるように首を振った。化野の指が、僕の乳首を嬲る度に、ぴくりと体が反応する。その反応を笑いながら、化野は言葉を続けた。

「女の子みたいに、乳首で気持ちよくなって、俺のちんぽきゅうきゅう締め付けてくるし、普通男でこんな乳首の奴いないよ?」

 ぷっくりと膨れ上がった赤い乳首を捏ねくり回され、僕は蒸気が出そうな程赤くなった。自分でも薄々感づいてはいた。同年代に比べて、少し乳首が赤い気がして、恥ずかしかった。前はここまででもなかったはずなのに。
 化野に触れられ、弄られる度に、徐々に芯を持ち硬くなっていく乳首を、化野は笑いながらかりかりと引っ掻いた。

「まー、俺が育てたから、どんだけエロくてもいいんだけど」
「……ん……っ」

 鼻の奥から、息が抜け、僕は朦朧とした意識で、口を再び押さえる。どうして、こんなことをしているんだっけ。化野が、恋人同士はすることだって、だから。
 どちゅ、と下から思い切り中を突かれて、僕は口を開けた。

「……っ〜〜〜!」
「ほら、好きなだけイっていいよ」
「……っ……ぁっ……! くっ……!」

 きゅうーー、と上に乳首を持ち上げられ、前立腺をぐりぐりと亀頭で押しつぶされながら、腸壁を擦り上げられた。これ、やばい、駄目……っ、頭、変になる、っ……!
 頭の奥で、何かが弾けるような感覚がして、空気を取り込むように、口をはくはくと開いた。

「は、あっ……あっ……!」
「きもちいーね?」
「ふー……っ……! ふっ……!」

 息が、苦しい。体が熱くて、おかしくなりそうだ。怖い。食いしばる唇の合間から、声が漏れた。

「んっ、うっ、うぁっ、は、ぁっ」
「ほら、頑張れ頑張れ、大丈夫だよ、気持ちよくてイくのは当たり前のことなんだし」

 いつかの言葉が蘇る。その言葉に反応したように、僕の中が化野を受け入れるようにキュンと疼いた。違う、こんなの違うのに……っ。気持ちいい、なんて、思いたくないのに。
 どちゅ、と突かれる度に、頭の中が真っ白になっていく。僕の中で理性が少しずつ剥がれていく。体がふわふわして、もっと触ってほしいとすら思ってしまう。こんなの、おかしいはずなのに……っ。
 僕の中にある、気持ちいい、と思ってしまう部分を何度も撫で、捏ねくり回され、乳首を愛撫される度に、心臓の音も、呼吸音も早くなっていく気がした。気持ちよくない、僕はそんな変態じゃない。そう思いたいのに!

「……っう……っ! あっ〜〜〜〜〜……っ! はぁっ……はぁっ……」

 ぱたぱた、と涙と同時に、精液がこぼれた。僕の意思に反して、体は快楽として受け止め絶頂した。陰茎から落ちた精液は、床に白い溜まりを作り、未だにぽたぽたと精液が滴っていた。ああ、イってしまった……。こんなことされて達してしまう自分が情けなくて、涙を溢すと、後ろから笑い声が聞こえた。

「はい、よくイけました〜」
「…………っ……!」
「でも、俺まだイってないから、もうちょっと付き合ってね」
「うあっ、あっ、待って、僕、今っ……!」

 今、イッたばっかりなのに……! 後ろから何度も突かれ、中を穿ってくる陰茎に、僕の体はピクピクと痙攣する。それどころか、迎合するように受け入れた。さっきよりも何倍も気持ちよくすら感じた。
 駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ! もうこれ以上は変になる、またおかしくなるから、もういやだ……! 僕は涙ながらに、少しだけ振り向いて、化野に懇願した。

「あ、あだっ、しのっ……! ちょっと、止まって……っ!」
「えー?」
「ひっ、ぃっ、そこ、っや、やめっ……!」

 ごりゅ、と前立腺を抉るように押しつぶされ、僕の陰茎からは、絶え間なくゆっくりと、精液が流れ続ける。

「あーーっ! あっ、っ、やめっ、もう、っあだし、のっ!」
「ははっ、いい声になってきたじゃんっ……! そうそう、そやって声あげればいいんだって……っ!」

 化野は全くやめる素振りは見せず、そのまま腰を押し進める。一突きごとに、脳細胞が死んでいくような気がした。頭が、馬鹿になりそうだ。逃げなきゃ。心の内ではそう思うのに、どうしても逃げ出せない。はぁっ、と悲鳴にも似た呼吸を漏らしながら、僕は声を振り絞る。

「も、無理っ……無理だよ……っ!」
「まだイケるっしょー、俺ら若いし。正義ちゃんが自分をエッチ大好きって認めんなら、一回出したら休憩するけど」
「……っ! ちが、うっ……!」
「違わねーって、ほら」
「っ……!」

 前を触れられ、溢れていた精液を掬い取られた。

「男に突っ込まれてこんな風にイっちゃうの、エッチ大好きだっつってるようなもんじゃね?」
「ちがうっ、僕は、僕は……っ」
「ま、俺は処女みたいな顔してエッチな正義ちゃんが大好きだからいーけど、……ねっ」
「ぅあ゛っ!」

 ばちゅ、と肉のぶつかる音がして、とうとう大きな声を上げてしまった。一度上げると、もう抑えが効かなくなる。

「あっ! あっ、あっ、あっあっ、あっ、っ!」

 ぱちゅ、ぱちゅ、ぱちゅ、ぱん、ぱん、ぱん!
 水音と、肌のぶつかり合う音が、どんどん激しくなっていく。震える足をなんとか立たせて、机に手をついて体を支えていると、上から化野が覆い被さってきて、ぐりぐりと腰を押しつけてきた。こんなの、まるで獣の交尾だ。けれど、どうしようもない興奮状態で、ぴったりと密着したまま化野の陰茎が僅かに膨らんだ。

「……っ……!」

 耳元に吐息がかかると同時に、化野が射精する。中でとくとくと脈打つ感覚に、自分という存在がどんどん崩れていくような気がした。男である僕の中に、男の精液が注ぎ込まれている。生殖行動でもないのに、女の子みたいに、中に注がれて。ゴムをつけていても、その事実は変わらない。

「はーー……っ……は……っ……」

 べったりと抱きついたまま、最後の一滴まで中の精液をすべて出し切ると、ようやく抜かれた陰茎に、僕の体は全身力が抜けたように脱力し、その場に座り込んだ。
 体が、べたべたして気持ち悪い。……家に帰って、お風呂入りたい……。へたったまま、現実逃避のようにそんなことを考える。
 化野は、満足してくれたんだろうか。もう、これで今日は帰れるかな……。そう思っていたけれど、化野は精液のたまったゴムの口を縛りながら、二つ目のコンドームへと手を伸ばして、封を切っていた。
 その光景に、驚愕で目を丸める。

「……え……なんで……? もう終わりじゃ……」
「は? 一回じゃ終わんねえっしょ、正義ちゃんも平気だよね?」
「へ、平気じゃない……」

 信じられない光景に、僕はゆるゆると首を横に振った。前も、こういうことはしていたけど、大抵はお互い一回出せば終わりだった。時間や場所もあったのかもしれないけど。恋人になるって、こういうことなの?
 化野は立ち上がり、離れようとする僕の体を、近くのソファに押しつけた。

「大丈夫、目ぇ瞑ってたらすぐ終わるって」
「さ、さっき一回出したら終わるって言った……!」
「いや休憩な? それに、正義ちゃんエッチ大好きとも言ってねえじゃん」
「い、そんなこと言えるわけ……!」
「えー、でも俺さあ、正義ちゃんに恥ずかしい言葉本当は沢山言わせたいんだよね」
「…………っ」

 怯える僕に、化野はうっとりとした顔で僕の頬を撫でてきた。

「皆がドン引くような恥ずかしい言葉、俺の前でしか言えないような言葉、沢山言って欲しいし、俺にしか見せない顔もほしいし、体だって、ぜーんぶ欲しい。わかる?」
「わかんない……っ」
「わかんないか〜、まあいいけど。それに、このまま家帰ったら、正義ちゃん、セイんとこ行ってセイともセックスしそうだし。だから、もっと馬鹿になるまで俺とセックスしようよ」

 ちゅ、と唇を重ねられながらも、僕は化野の胸を押した。
 化野は、何を馬鹿なことを言ってるんだろう。何を言われても平気だと思っていたけど、誠を侮辱するようなことを言うのは、やめてほしかった。

「そんなこと、しない……っ」
「そんなこと、ってどっち? セックス? セイ?」
「どっちもだよ……っま、誠は、僕とそんなことしないっ、そもそも、したいなんて思わない、だって、友達なんだから……っ!」
「……ふーん……?」

 僕の言葉に、酷くつまらなそうな顔で、化野は鞄を漁りだした。何を探しているんだろう。ローションでぬるぬるになったお尻が気持ち悪い。どこかにティッシュなかったかな……。僕も小屋の中を見渡していると、どうでも良さそうに低い声で僕に問いかけてくる。

「正義ちゃんの友達の定義が、よくわかんねーけど、正義ちゃんはセイが自分にこういうことしないから好きなの? んじゃセックスしたら嫌いになるってこと?」
「す……っ!? そ、そもそも、普通は……」
「はい出ました普通〜。その普通ってマジで何。あと前も言ったけど、セイって、そんな聖人君子じゃねえってば」
「誠は、化野とは違うよ、僕にこういうことしたいなんて思わない……」
「あっそー。……お、あったあった」
「…………何してるの?」

 さっきから、何を探しているんだろう。なんだか厭な予感がして、少しだけ身を引くと、僕の声に、化野は振り向きながらにこりと笑った。黒い瞳が細くなり、僕はぞっとして身構える。次の瞬間、化野は自分の手の内にあったものを、僕へと投げてきた。
 勢いで受け取ると、なんだろう、これ、ウェットティッシュ……? 小さなパッケージのアルコール消毒と書かれたそれにに、僕は首を傾げる。これで、拭けってことなのかな。普通のティッシュでいいんだけど。化野なりに気を遣ってくれたんだろうか。パッケージを開くと、化野が続ける。

「いやね? 別にいーんだけどさ。今は正義ちゃん、俺の恋人な訳だし。でも、ちょっと目を離すとどっかいきそうだし、あとやっぱムカつくし、印はつけておこうと思って……」
「し、印……?」
「んー」

 やにわに腕を伸ばしてきたかと思えば、化野は僕の右耳へと触れた。ちょっと前に、化野に開けられたピアスの穴は空いたままになっていて、今も固定用のピアスが入っている。
 僕はビクビクと怯えながら、化野を見た。すると、目が合った化野はにこりと笑う。

「もう片方も、開けとこうと思ってさ」

 反射的に、化野の手を振り払った。

「…………っ! い、いやだ……っ!」
「んじゃ、どっちがいい?」
「ど……」
「選ばせてあげるよ」

 自らの一物を指差されて、言わんとしていることを理解した。
 理解したけれど、その選択肢に頭を抱える。
 ピアスを開けるか、セックスするか、どちらか選べってことなんだろう。
 もう一度、あれを繰り返すのは、想像するだけで疲弊するものがあるけど、ピアスを開けられるのも嫌だった。
 前に穴を開けたとき、お母さんに心配されたのもあるけど、それよりも勇気にゴミを見るような目で見られたのがきつかった。何より体に穴を開けるということも、好きじゃない。
 僕は迷った挙げ句、震える声で、ピアスとは別の方を選択した。

「……ピアスじゃ、ないほうで……」
「ん? どっち?」
「だ、だから……」
「正義ちゃんさぁ〜、ちゃんと口で言おうよ、喋れるんだから」

 からかうような口調に、僕の頬が赤くなる。喋るなって言ったり、喋れって言ったり、どうしてこんなにも化野に振り回されるんだろう。でも、言わなければピアスを開けられてしまうのなら、僕の選択肢は一つしか無い。

「…………あ、化野の………………ち、ちんちん……」

 ぽそり、と呟いた言葉に、化野は一瞬きょとんと目を丸くしたものの、次の瞬間盛大に噴き出した。

「ぷっ……は、あはははははははっ! ちんちんて! しっ、小学生かっての!! あ〜〜〜〜、ウケる、やっべ! ぎゃはははは! はーーー正義ちゃんおもしれぇな〜〜!」

 真っ赤になって口ごもる僕に対して、化野はげらげらと笑いながら、僕の左耳をアルコールティッシュで拭ってきた。
 ひやりと冷たい感触に、青ざめる。

「待って、なんで……っ」
「え〜、別にちんちんだけ言われても、だから何? って感じだし、どうせ口にするならちんぽとか、あからさまに下品な方がよかったかなー。面白かったけどだめ〜」
「え、あっ、あだっ、化野のちんぽっ……、っぼ、僕に入れてほしい……っ」
「もっかい、もうちょっとエロく」
「! …………化野の、……ちん、……ちんぽ、僕のお、お尻に、ハメてください……」
「あはっ、60点」

 よくわからない点数評価だったけど、一先ず、耳からアルコールティッシュは離れていった。なんとか、危機は去ったらしい。よかった……。けれど、ほっと息を吐いたのもつかの間、すでに勃起した状態の化野の肉棒が、再び僕の穴に押し当てられる。
 ぬ、と入り込んできた亀頭に、僕は声を上げた。
 待って、なんでもう勃起してるの? 何に興奮することがあったんだ。確かに僕たちはまだ十代で、性欲も体力も有り余ってるけど、そんなにすぐに……!

「ま……っ」

 どちゅ!
 制止の声も空しく、再び中までぎっちりとハメこまれ、正面に向き合った状態で、ソファに体を預けながら、喉元を反らせ、喉奥からは空気が漏れた。

「……っ〜〜〜〜〜! ……っ」

 腕を引っ張られ、化野の上へと乗せられると、奥まで化野のが僕の中に入ってくる。

「あっ、っ……!」
「さっきやったばっかだからまだ中あっついしトロトロじゃん……っ」
「……っ……!」
「今日は玉ん中すっからかんになるまでエッチしようね」
「……っあ……!」

 体の奥で疼くような熱が、また戻ってくるような感覚に、僕は怖くなった。逃げなきゃ。ぞわぞわと、背筋が震える。
 何度も呼びかけてきた自分の中の意識が、急激に浮上する。気持ちいいなんて思うな、早くここから逃げなきゃ。その声に従って、僕は化野の胸を押した。

「あ……?」
「……っ……! もういやだ……っ!」

 体を横にずらし、化野の手の内から逃げようとした。けれど。

「…………あ〜〜〜〜、正義ちゃん、全然わかってねえのな」

 一度引き抜かれた陰茎が、バックから再び奥へと押し込められる。

「お゛……っ!」

 衝撃に、目が見開いた。同時に、左耳に何かが押し当てられる。
 それが、何か、なんて見なくてもわかった。だって、ついこの間、同じ物を押し当てられたばかりだから。
 頭をソファへと押しつけられ、挿入されたままの状態で、耳にひたりと当てられる。僕の体は恐怖に震えた。

「暴れたらずれるから暴れんなよ」
「ま、待っ……! ごめ……っ」

 バヂン! と大きな音がして、悲鳴が溢れた。

「ぁあ゛――――――――っ!!」
「うわ、すっげー締まる……っ」

 ぎゅう、と体中が縮んだ気がした。耳から溢れた血がソファへと滲む。カチカチと鳴る歯に、僕も、僕自身も、すっかり萎んでしまっていた。断続的な浅い息を吐きながら、目に浮かんだ涙は止めどなく溢れてくる。
 ぴくぴくと痙攣し続ける体を蹂躙しながら、再び化野が僕の耳の違う場所へピアッサーを押し当ててきた。引き攣った声をあげ、僕は身を捩った。

「ひっ……!」
「ごめんなさい、は?」
「ご、ごめんなさい……っ! もう、逃げないから、だからっ……!」
「他に言うことは?」
「………………ほ、ほかって……?」
「あ、軟骨ピアスもしてみよっか。右耳も穴拡張してみる? 臍とかもつけようかな、あ、どうせならやっぱつけとく? 乳首ピアス」
「! ごめんなさい! ごめんなさい、許して……っ」
「たまにさあー、親から貰った体に穴開けるのは〜とか言ってくるやついるけど、マジ意味わかんねえよな。親から貰ったんじゃなくて、自分の意思で産んだのに、勝手に貰ったことにされるの意味不明じゃね? 別に穴開けようが何しようが、どうっでもよくねぇ? な、正義ちゃんもそう思うでしょ、だからバンバン開けようよ」
「ひっ……」

 かちゃ、と音を立てて、耳の別の場所にピアッサーを押しつけられた。どうすれば、許して貰える? どうすれば、ここから逃げられる。退路を断たれて、僕はぽろぽろと涙をこぼした。

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……化野……」
「大志」
「え……」
「セイだけ名前で呼ばれんの、不公平だよなぁ? だから俺も大志って呼んでよ」
「…………た、大志……」
「なに?」
「ごめんなさい……、もう、逃げないし、セックスも、ちゃんとする、大志が、したいなら、なんでもする、から、だから……」
「いいよ! 俺、正義ちゃんのことだーい好きだから、正義ちゃんが怖いならもうつけるのやめとこっか?」

 僕の答えは正解だったのか、耳に当てられていたピアッサーが外され、明るい笑顔で頭を撫でられた。

「怖かった? ごめんね、冗談だよ〜」
「………………」
「でも、もう逃げようとすんなよ。傷ついちゃうから」
「……うん……」

 化野は、情緒不安定なんだろうか。もう、何を考えているのか全然わからない。そもそも、化野の普通と僕の普通は違うのだから、わかるわけがないのかもしれないけど。
 よしよしと頭を撫でられ、さっきまでのピアスの恐怖と痛みが少しずつ和らいでいく。恐ろしいはずなのに、飴と鞭っていうんだろうか、さっきまでが怖かったから、相対的に今は安心できた。
 陰茎を引き抜かれ、再び正面を向いた状態で、挿入し直されると、僕は化野に抱きつき、まるで恋人のようなセックスをした。

「あー、大好き、正義ちゃん。ガチ恋だわ〜」

 うっとりとしながら、幸せそうな表情でそう呟く化野に、僕は断じて恋じゃないと思った。

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