#5 ???

#5 ???

 ああ、スッキリした! ようやくいなくなった!
 犬を一匹逃がしちゃったけど、別にいいか。あれは放っておこう。そんなに害はないだろうし。いい加減、邪魔だったんだ。ベッドの下の男も、電話をかけてくるあいつも、じっと見てくるあの男も。これでようやくいなくなった!
 クローゼットを開けると「僕」がいる。いいや、これは僕じゃない。僕の元になった姿だ。彼は僕を見ると、少しだけ目を見開いた。僕はにっこりほほ笑む。彼が僕にそうしたように。
「おはよう」
「……むうぐ、ぐ」
 ああ、そうだ。口、塞いでたんだっけ。咥えさせていた手拭いを外すと、彼は開口一番にこう言った。
「ド、ドッペルゲンガー?」
 キラキラした眼で僕を見る。まるで恐れない。あーあ、その目は駄目だよね。そんなんだからあいつらが纏わりついちゃったんだ。ずっと、僕と二人だけでいればよかったのに。他の奴に構ったりするから。僕はにっこり笑って、彼の首に手を当てた。しかし、それでも彼は無邪気に
「ドッペルゲンガーを見た人は三日以内に死ぬって言うけど、それって物理的に殺すの?」
 とか言ってる。ワクワクするシーンじゃないと思うんだよね、ここ。どう考えても怯えて命乞いするシーンでしょ。なに笑ってんの。なんなのお前は。そんなだから付け込まれるんだよ。僕みたいなやつや、あいつらに。皆物珍しがってるだけなんだよ? でも、僕は違う。僕だけは、ずっと君のことを見ていたんだ。でも、どんな怪異よりも君が一番怖いよ。
「殺してほしいの?」
「いやいやいや! あ、でも死んだら僕も都市伝説や怪談になれる?」
「知らないよ、それに、殺さないよ」
「そうなんだ、よかった〜殺されなくて」
 あっけらかんと笑う大学生。彼に怖いものはないのだろうか。僕は、いつか彼を死んだ方がましというくらい怖い目に合わせて、そのほがらかな顔を思い切り歪ませたいと思う。なぜだかわからないけど、そう思った。それとも、今自分の顔を歪めて見ればいいのかな?
 いや、それじゃあ意味がない。
「……君さあ、なんで怖がらないの?」
「怖がって欲しいの?」
「そりゃあ、怖がらせるために生まれた存在だからね」
「そっか、ごめんね」
 ごめんねという割には、まるで済まなそうにしていない。僕がむくれていると、彼は僕の頭を撫でた。
「怒らないで、ごめんね。代わりに、僕の姿をそのまま使っていいから」
 そんなことを言う。あーあ、ずるいな。そんなこと言われたらますます殺せない。いや、殺す気もないんだけど、別に僕は、彼に成り代わりたいわけじゃないんだから。
 ぎゅっと彼を抱きしめると、再び携帯にメリーさんの羊が流れた。本当、しつこいなあ。僕は彼の携帯を手に取って、そのまま壁に叩きつけた。



終わり

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