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 別に料理が得意って訳じゃないけど、健翔が好きだったから、オムライスとハンバーグだけは、作れるようになった。
 健翔は昔からオムライスが好きで、ハンバーグも好きだったからオムライスの上に乗ってるハンバーグという夢のコラボレーションは、健翔にとってたまらないものだったんだろう。
 だから、初めて俺が作ったとき、目を最高にキラキラさせながら、「俺コレ一生好き!」と宣言していた。
 健翔のお母さんが「私が作ったときより嬉しそうじゃない」と苦笑していたのを覚えている。
 俺も、そこで初めて料理を喜んで食べて貰える悦びを知ったというか、……まあ別にその後料理好きになったりはしなかったけど、その二つだけは誰よりも美味く作ってやろうって気にはなった。
 だから。

「っ〜〜〜〜〜〜〜〜! 超っ……うっま……! さいっこう……!」

 幸せそうに頬張る健翔の顔を見るのは、正直かなり好きだった。
 頬を染め、大口をあけて頬張る健翔の顔は、幸せそのものって感じだ。俺が帰ってきたら作るモノが、健翔のお母さんもわかっていたのかもしれない。
 冷蔵庫にはハンバーグとオムライスを作るための材料は揃っていた。母さんには帰ることを言ってたし、俺の母さんから、健翔の母さんに話が伝わってあらかじめ、買っておいてくれたのかも。デミグラスソースの中にある黄色いオムライスをわって、ハンバーグと一緒に食いながら、健翔は頬を緩ませ手足をジタバタさせていた。

「これ、この味! やっぱアキ兄ちゃんが作るオムバーグ最高……! 一生これ食う……!」
「はいはい、俺もお前が喜んでくれて嬉しいよ」
「ピーマンも入ってないし!」
「本当は入ってた方が美味しいんだけどな。お前まだピーマン食えないの?」
「にんじんは食えるようになったよ!」

 ブイサインを作りながら笑う健翔に、俺は苦笑した。野菜嫌いも少しはましになったかと思えば、まだピーマン嫌いのままか。俺も自分で作ったオムライスハンバーグを頬張る。
 とろとろのオムライスに、ハンバーグの味がうまく引き立っている。けど、結構味が濃くて、小さい子供が好みそうな味だった。

「ピーマンなんてオムライスの中に混ぜちゃえば味わかんないだろー」
「違うよ、苦いもん。でもこれは美味しい。俺アキ兄ちゃんの作るこれがやっぱ世界一好き」

 嬉しそうにスプーンを握って笑う健翔の顔が、一瞬昔と重なった。
 ああ、帰ってきたんだなっていう感覚が蘇ってくる。
 別にここは俺の家じゃないのに、健翔の家で俺がご飯作って、健翔とこの食卓で食べるのが懐かしかった。

「よかった、健翔が喜んでくれて。いっぱい食えよ」
「…………」
「? どうした?」

 俺の言葉に、健翔が手を止めた。卵の殻でも入ってただろうか、と思ったけど健翔はなんでもないように再びスプーンを動かす。

「……んーん、なんでもない。それよりアキ兄ちゃん、ご飯食べ終わったらゲームしよ、KOB! 今日こそ勝つ!」
「あ〜、アレか。お前ちょっとはうまくなった?」
「は? アキ兄ちゃんとか余裕で倒すし、俺マジで強いから」
「おお、口だけは一人前になったなー? でもお前どうせ負けて拗ねてコントローラー投げるだろ」
「いやマジでうまくなったし!」

 子供の頃二人でやったゲームタイトルに笑みを溢すと、健翔がムキになって口を尖らせた。

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 結論から言うと、健翔は何も変わってなかった。
 最初この部屋に入ったときはどうしようかと思ったけど、中身は何も変わってない。
 飯を食った後は、茶碗を二人で洗って、そのあとリビングのテレビにゲームを繋いで二人で対戦した。大口を叩いていたわりに健翔のゲームテクはあまり成長しておらず、やっぱりムキになってコントローラーを放り投げたので、最終的にわざと負けた。俺が負けると、嬉しそうに見たか! と喜ぶ健翔が微笑ましかった。
 ゲームを終えるとシャワー浴びて、そんでその後丁度テレビで怖い話特集がやっていたから、健翔に声をかけた。

「健翔、これ見る?」
「やだよ! 怖いじゃん! 夜眠れなくなる! 出たらどうすんの!」
「ふはっ、お前本当子供っぽいな……あ」

 と、言ってしまってから後悔した。
 ここに入ってきたとき、俺は健翔の子供っぽくない面を見たはずなのに、あまりにも健翔が昔と変わらなかったから、自然と口から出ていた。昔から、そう言うのが癖になっていたんだ。
 仕方ないな、健翔は。
 いつまで経っても子供なんだから。
 そう溢しながら、健翔の我が儘を聞いていたし、健翔を甘やかしていた。
 でも、流石に健翔はもう子供じゃない。来年には成人式だし、大人になっていく。
 俺の言葉に傷ついたかな、と思ったけど、健翔は否定しなかった。
 それよりも、いつものような子供っぽい笑顔じゃなく、どこか艶のある、色っぽい笑みを浮かべた。女の子のような顔じゃなくて、成長した男の顔。だというのに、どこか中性的に見えた。染み一つない綺麗な肌に長い睫は影を落とし、形の良い薄い唇が浅く開く。
 その笑みに、心臓が跳ねた。

「うん」
「え……」
「俺、子供だから、アキ兄ちゃんが傍に居ないとダメなんだぁ」

 するり、と健翔の手が俺の手に伸びてきた。細い指が腕を撫で、袖の中に健翔の手が入ってくる。子供の頃なら、くすぐったいよ、と冗談めかして笑うことが出来るけど、今は、なんか。
 ゾクリ、と悪寒めいたものを感じて、俺は袖の中に入ってきた健翔の手を、無理矢理外した。

「…………もう十九だろ、いつまでも子供で居るつもりだ」
「へへー、だよね」
「もう寝るか」
「一緒に寝る?」
「ばか、布団貸して」
「アキ兄ちゃんと二人ならいーのになー」
「狭いっつの、潰れるわ」

 ちぇ、と口を尖らす健翔に笑いながら、俺は健翔の部屋へ自分の布団を運んだ。俺が健翔の部屋に泊まる用の布団。
 昔は同じベッドで寝ることもあったけど、俺が中学生になったあたりで、狭くなってなくなった。その代わり、健翔のお母さんが俺用にって布団を用意してくれた。ちなみに、俺の家にも健翔用の布団がある。
 当たり前のように存在する布団は、健翔の部屋の中で俺の居場所を与えるものだった。テーブルを避けて健翔のベッドの横に敷く。六畳の部屋の中ぎちぎちに敷き詰められた布団。まるで、昔に戻ったみたいだった。
 さて、寝るか、と布団に潜ろうとしたところで、健翔が俺の肩を叩く。

「アキにーいちゃんっ」
「ん?」
「これ、アキ兄ちゃんに持ってきた」
「…………その酒、おじさんのだろ」
「お父さんも、アキ兄ちゃんが来たら飲んでいいよって言ってた」
「えー」

 健翔が手に持っていたのは、年代物っぽいウィスキーだ。居間にあるサイドテーブルに飾られていたもので、仰々しいパッケージには見覚えがあった。健翔のお父さんは酒好きだったから、見る度増えていく。

「もう寝るんじゃないのか? 寝酒ってお前」
「一杯だけ〜。お父さんも感想知りたいって言ってたし」
「んー……健翔も飲むの?」
「俺はその酒苦いから嫌い」
「……こ……や、なんでもない。まだ未成年だし、それがいいな。じゃあ、せっかくだし……」

 子供っぽい、と言う言葉は、なんとなくもう言ってはいけない気がして飲み込んだ。
 それに、未成年が酒の味を知ってるというのも、大人的立場から言えばよくないことだ。苦いから、と言ってるからには飲んだこともあるんだろうけど、そこは深く追求しないようにしよう。
 俺も、二十になるまえに何回か飲んだことはあるし。

「一杯だけな」
「うん、寝る前にちょっとね」

 そう言って、健翔がグラスにウィスキーを注いでいく。綺麗な琥珀色が、カランという氷の音と共に揺れ動く。俺はコップを揺らしながら、綺麗な色を見つめた。
 酒の向こう側で、健翔が笑っている。昔は、この部屋で酒じゃなくてジュース飲んでたのになあ。なんとなく感慨深くなって、俺はグラスに口づけた。

「……じゃ、いただきます」
「はーい」

 召し上がれ、という言葉と同時に、コクリ、と酒で喉を潤した。


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